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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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薬を求める者たち4

「あ〜、“夜の獣”っスか……

 獣人以外の種族にはすごく効くらしいっスね

 でもオイラたちにとっちゃ、ただの甘ったるい飲み物っスよ」


アリサは素材回収部隊の連中に差し入れを行ったが、

あまり好評を得られなかった。


「おいコラ!

 せっかくアリサさんが俺らに気を使ってくれたんだぞ!

 文句言わずに飲むのが礼儀ってもんだろ!」


空気の読める獣人。


しかしアリサは気を悪くしてはおらず、

むしろ不評側の意見に同意していた。


「いや〜、おめえも気ぃ使わなくていいって!

 試しにオレもさっき3本飲んでみたけど、しつこい甘さがキツいんだよなあ

 特に調子が良くなるでもねえし、こりゃ大失敗だったわ!」


「3本も!?

 ダメですよ、そんな飲み方しちゃあ!

 滋養強壮剤は飲めば飲むほど体に良いってわけじゃないんですからね!

 用法・用量を守らないと肝臓やられちゃいますよ!

 栄養も摂りすぎれば毒になるんです! 覚えておいてください!」


「お、おう……」


料理担当に叱られてしまった。


何事も適量が大事だ、とコノハも言っていた。

最近は自分で肉を焼く機会が減っていたので忘れていた。


「……そういや、こんな噂を耳にしたことがあるなぁ

 『石化から復活した者が“夜の獣”を飲むと怪我の治りが早い』って……

 まっ、商品を売り込むための宣伝だとは思いますがね」


その発言に、アリサはハッとした。


ただの噂話でもいい。

今のアリサにとっては新しい情報だ。




「──なんだこれ、“夜の獣”……?

 商品名からすると精力剤のようだけど……

 俺にはまだ必要無いかな……若いし」


フィンにも好評は得られなかった。


聞けば、そういう商品は主に中高年の男性向けに作られており、

彼のような青年には少し買いづらいイメージがあるのだとか。


「……でもまあ、せっかくの差し入れだし

 断るのも悪いし、もらっておくよ ありがとう」


激務でお疲れの彼は受け取ってくれた。

その効果の程が知りたい。


「え、今……?

 う〜ん、まあ、いいけど……」


アリサの見ている前でフィンは“夜の獣”を1瓶、一気に飲み干した。


「……甘っ!!

 すんごい甘っ!!

 薄めないとだいぶキッツいな、これ……」


味の感想はいい。効果の程が知りたい。


「いや、飲んだばかりだし、まだ実感は無いよ

 とりあえず俺は仕事に戻らせてもらう

 観察なら自由にやってくれ」


そう言い、彼は書類の山に手をつけた。


どうやら他国との条約やらなんやらに関する物らしく、

本来は大臣クラスの人物が取り扱うべき案件なのだが、

今は人手不足でどうしようもない状況だ。


特別一般兵という特殊な立場上、

昼は外回り、夜は書類と格闘、と休む暇もない。


石化した経験もあるし、検証するにはもってこいの人物だった。




アリサはしばらくすることが無く退屈だったので、

散らかった本を棚に収めるなどして時間を潰していた。


「少し効いてきたかもしれない」


その言葉に飛びつく。

それで、効果の程は?


「……なんというか体が熱くなってきて、

 心臓の鼓動が早くなってきたのがわかる

 今はそう……すごく力が漲ってくる感じだ

 これなら、あと3日は徹夜できそうだ……!」


『みなぎる』。

ヒューゴも同じ言葉を使っていた。

元気が出る薬というのは本当のようだ。


「でも、肝心の獣人には効かねえんじゃなあ……

 こいつをどうにかして、あいつらにも効くようにできねえかなあ」


「……」


フィンからの応答は無い。

聞こえなかったのだろうか。


「おい、どうした?

 急に黙りこくって……」


「ああ、いや、すまない……

 ……アリサ、悪いんだけど帰ってもらえるか?

 仕事に集中したいんだ……そう、仕事に…………」


「ん? まあいいけど……

 あんま頑張りすぎんなよ〜」


いつもなら玄関まで見送ってくれるフィンが、

座ったまま動かない。


よほど仕事に追われているのだろう。

忙しい中、協力してくれた彼には感謝だ。






──国王が、また倒れた。


痙攣し、大量の汗を噴き出し、意識が朦朧としていた。

腰の痛みもあるだろうが、別の理由で倒れたのだ。


禁断症状。


この男の体はもう取り返しのつかない段階まで来ている。

一度でも薬物依存症になると、完全に治療することは難しい。


依存症の特効薬は存在しない。

我慢するしかないのだ。


そして、その我慢する力も弱くなっているので再び薬物に手を出してしまう。


私に彼を助けることはできない。


「クスリ……薬をよこせえええぇぇ!!

 おい、医者ぁぁ!! 早くしろぉぉ!!

 貴様ら、手をどけろぉぉ!!

 わしを誰だと思っておるぅぅ!!」


暴れる彼を、黒騎士たちが押さえつける。


今、彼は地獄の苦しみの中にいる。

その地獄から抜け出すには、彼自身が頑張らなければいけない。


助かる方法はそれだけだ。


「……貴方、少しだけでも処方していただけませんの?

 国王陛下があんなにも苦しんでいるというのに、

 よくもまあ平然と見ていられるわね……」


「残念ながら、私にできることはありません

 今はただ、波が止むのを待つしかありません」


私の判断に、王妃はあからさまに不機嫌になった。


「まあ……! とんだヤブ医者だわ……!

 誰か! 他の医者を呼んできてちょうだい!」


この手の身内が一番困る。

その優しさは治療の妨げにしかならない。


「王妃殿下、お気持ちはお察しいたしますが、

 ここは一つ我慢していただきたい

 今、痛み止めを与えてしまうと余計に──」


「お黙りなさい!!

 誰か!! このヤブ医者を摘み出しなさい!!」


「殿下……!」


私は屋敷を追い出された。

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