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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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薬を求める者たち3

「ねーねー、エルフさん

 あなたのお名前、なんていうの?」


「はあ? なによアンタ

 わたしは見せ物じゃないんだからね!

 あっちへ行ってなさい! シッシッ!」


「あたしユッカ!

 あなたのお名前はー?」


「あぁ〜もう!

 そんなん覚えてないっての!

 エルフは長寿なの!

 もう親の顔だって覚えとらんわ!」


「へ〜、何歳なの?

 あたしはたぶん15歳くらいかなー?」


「だから、そんなんいちいち数えてないっての!

 大体、なんなのその15歳『くらい』ってさあ!

 アンタだって覚えてないじゃないの!」


「えっへへ〜、お揃いだね♪

 あたし、親に捨てられてスラムってとこに住んでたんだけど、

 どうしてもお腹空いてた時があって、パン盗んじゃったんだ〜

 そしたらね、1ヶ月で出してくれるって言ってたのに、

 何ヶ月もそこにいて、あれ、おかしいな〜?って思って、

 看守さんに聞いてみたら他の人のざいじょーってのを押しつけられてて、

 それで10年くらいそこに住んでたんだよね〜」


「……だからなんだってんだよ

 まさかアンタ、わたしの気持ちがわかるとでも言いたいの?」


「うん! わかるよ!

 つらいよね! 悔しいよね!」


「……っ!

 あぁ〜もう!!

 あっち行けってばこのクソネコがっ!!」


怒りを露わにするエルフに、ユッカはもう何も言えなかった。


そんなやり取りを遠巻きに眺めつつ、コノハはある特殊能力を使用していた。



嘘発見器(ジャッジメント)”──。



まだ仮の名だが、そう名付けた。

名前の通り、相手の嘘を見抜く能力である。

これがあるからこそ、アリサとユッカを信頼しているのだ。


あの子たちは嘘をつかない。

自分が嘘を言うよう指示する時以外は。


そして驚いたことに、あのエルフも嘘をついていなかったのだ。


自分の名前も年齢も、彼女は覚えていない。

親の顔に関しては少し怪しい反応だった。

おそらく、ぼんやりとは覚えているのだろう。


あのエルフは性根の腐った金の亡者ではあるが、

だからといって、やってもいない罪で裁かれるのは間違っている。

この場に駆けつけた少女たちは皆、それをわかっていた。


助けようとは思わない。守りたいだけだ。




──エルフの無事を確認した4人はここでの目的を果たし、

あとは王国へ帰還するだけとなった。


彼女らは行きの馬車で少し失敗したことがある。


とにかく急ごうとした結果、

道中の食料などの消耗品の準備を(おろそ)かにしてしまったのだ。

おかげで食べられる野草や木の実、川魚などを自力で収穫し、

隣国への旅路が少々不便なものとなっていた。


フレデリカはこの新鮮な体験を楽しんでいるようだったが、

パメラは騎士として姫様に苦労をかけさせたくない。

帰りの馬車では快適に過ごしてもらいたい。


「では食料調達は旅慣れた二人に任せるとして、

 私たちは宿の手配を致しましょう」


「わたくしは野宿でも構いませんよ

 前回ここへ来た時は、1週間ほどお風呂を我慢しました」


「なっ……いけません姫様!

 その時とは状況が違います!

 姫様は王家の正しい在り方を皆に示さねばなりません!

 乱れた髪や、体臭の染み込んだ衣服で公の場に出てはなりません!」


「わたくし、(にお)いますか……?」


「えっ……!?

 いえ、とんでもない!

 あくまで王女としてあるべき姿について語っただけです!」


「うふふ、冗談ですよ

 馬車に乗りっぱなしで疲れていますし、

 今晩はちゃんとした宿で休みましょう」


こんな時こそ、例の能力は面白い。


有罪(ギルティ)──」


「またコノハが変な言葉使ってるー」






──夜の歓楽街、大人の店の前。


「また君か……

 勘弁してくれ……」


ヒューゴはアリサと出くわした。

例によって、これから入店しようというタイミングでだ。


「んぁ?

 今回はべつに、おっさんに会いに来たわけじゃねえよ

 なんか宮廷魔術師とかいう連中が通ってる店があるらしいんだけど、

 そこを探してんだよなあ ……おっさん、行き方わかるか?」


有無を言わさず地図を見せられ、彼は答えるしかなかった。


「ああ、この店は入り組んだ場所にあるからねぇ

 そんな所にあるにも関わらず、お触り禁止のキャバクラなんだよなぁ

 まったく何が楽しいんだか……私には理解できないよ」


愚痴をこぼしつつ、おっさんは丁寧に道順を示してくれた。


「おう、あんがとなおっさん! 助かったぜ!

 ……しっかし、おっさんも毎日毎日よく飽きねえな

 その元気を回収部隊の奴らにも分けてやりてえよ」


「元気か……フフッ

 これを飲んでるおかげかな……?」


そう言い、おっさんは怪しげな薬瓶を取り出した。


「なんだそりゃ……“夜の獣”?」


「ああ、アル・ジュカの錬金術士が偶然開発した物らしい

 去年、内戦があっただろ? その頃に薬の需要が増えて、

 多くの錬金術士が薬の開発競争に参入した結果さ

 ……で、これは本来、獣人向けの滋養強壮剤なんだけど、

 他の種族が飲むと、その……漲るんだよねぇ、すごく

 なんというか、男としての自信を取り戻せるんだよねぇ」


「ふ〜ん、今度あいつらにも飲ませてみっか

 ……引き止めて悪かったな、ソープ楽しんでこいよ〜」


男はクールに手を振り、店内に消えた。

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