薬を求める者たち2
ユッカ、コノハ、フレデリカは東へ向かっていた。
晩餐会での出来事を目の当たりにしてしまった少女3人、
それに加えて馬車にはパメラも乗り合わせており、
鳥人のタチアナを先行偵察させていた。
思った通り、あの狂宴に参加した者たちは酒で記憶が飛んでおり、
“国王と王妃の体調が良くなった”という間違った認識だけが残っていた。
問題は石の魔女イルミナ王妃があの晩、あの場所にいたことだ。
セバンロードの牢屋に閉じ込められていた、あの魔女がだ。
不穏な沈黙の中、外からバサバサという羽音が聞こえ、
一行は急いで馬車を降りて空を見上げた。
「姫様〜〜〜!!
団長〜〜〜!!」
タチアナが空中から呼び掛ける。
彼女は羽ばたきを弱め、ふわりと地上へ降り立った。
そして彼女は敬礼し、報告した。
「セバンロードの住民は無事です!
街の様子も、特に変わったところはありません!
ボクの見た限り、至って平和そのものです!」
その朗報に一行は安堵のため息を吐き、
フレデリカは緊張の糸が途切れたせいかよろけてしまい、
しかし、パメラが受け止めてくれたおかげで倒れることはなかった。
笑いながら指で涙を拭う王女に、パメラは優しく微笑み返した。
そんな二人を見てコノハもつい嬉しくなり、ユッカに微笑みかけた。
ユッカは状況を理解していないが、みんなが幸せそうなので笑顔になった。
「よくやった」と褒められてタチアナも得意になっていたが、
この任務には一つ疑問点が残っていた。
「団長、聞いてもいいですか?
セバンロードの様子を見て報告するだけなら、
姫様たちは王国で待っていてもよかったんじゃないですか?」
その質問にパメラは答えようとしたが、
フレデリカが制止し、自分の口から理由を語った。
「あの場所には、わたくしが個人的に保護しているお方がいるのです
そのお方の無事を確かめるには少々複雑な手順が必要でして、
王女であるわたくし自らが出向くことにより、
その複雑な手順を簡略化することができるのです」
「へ〜、そうだったんですか〜!
わっかりました!
それじゃボクは王国での任務に戻りますね!
皆さん、道中お気をつけて!」
そう言い残し、タチアナは文字通りひとっ飛びで王国へと帰っていった。
彼女は急に有能になったわけではない。
元から優秀な能力は持っていたのだ。
ただ、パメラの指示の出し方が成長しただけだ。
おままごと騎士団だった頃の3年前とは違う。
この1年は本物の騎士として王国復興のために働き、
それぞれが使命感を持って任務に取り組んできたのだ。
タチアナには勝手な自己判断をさせないよう、
できるだけ具体的な指示を与えるようにした。
それだけだ。
ただそれだけで、本来の優秀な能力を活かせるようになったのだ。
なんの障害も無い、空というフィールドを自由に行き来できる飛行能力。
伝令として最適というだけでなく、彼女は目も良いので偵察にも向いている。
「……パメラ、この状況をどう見ますか?」
「おそらくは国王陛下が役人を買収して、
王妃殿下を釈放させたのでしょう
それならばセバンロードの住民が無事であることも頷けます」
「その国って、どんなとこなの?
おいしい物あるかな!」
「こら、真面目な話をしてる時はダメでしょ!」
4人は馬車に揺られ、言葉を交わした。
依然として急いではいるものの、先程までの重苦しさは無かった。
あの国は無事だった。
それがわかっただけでも気分が軽くなる。
しかし、まだ本題が残っている。
「あのエルフのお方はご無事でしょうか……」
サロメを名乗っていた、本名不明のエルフ。
イルミナに禁術を教えた黒幕的存在。
魔女の濡れ衣を着せられ、処刑されそうな女。
魔女の疑いをかけられた2人のうち、1人が解放されてしまったのだ。
フレデリカが王女権限で保護したとはいえ、庇い切れる保証は無い。
最高権力者が強権を行使すれば、王女の権限はその意味を成さない。
もしかしたら、彼女はもう処刑されてしまったかもしれない。
不安を抱えたまま、一行は東へと急いだ。
──2日後。
「出せええええ!!
わたしは魔女じゃないいいい!!
出してくださああああい!!
お腹空いたよおおおお!!
体かゆいよおおおお!!」
囚人の元気な姿を見て、4人はホッとした。
以前見た時より体重は増えていそうで、服も清潔そうだ。
看守曰く1日3食を残さず平らげ、体も毎日洗っているそうだ。
そして意外なことに、彼女の処分に関して国王は何も言わなかったらしい。
あんなにもこのエルフを処刑しようとしていたのに、意図がわからない。
更に、看守はあっさりと口を割ったのだ。
大の王族嫌いとか、そういうのではない。
彼女は最初から口止めされていなかったのだ。
何よりも不思議なのは、国王と王妃は共に認めたのだ。
イルミナ王妃こそが石の魔女である、と。
「一体、何が起きているのでしょうか……?」
困惑するフレデリカ。
彼女だけではない。全員が同じように頭を悩ませた。
パメラが看守に尋ねる。
「……それで、なぜセバンロードの役人は
魔封じの縄を使わずに魔女を引き渡したんだ?
さすがに危険な存在だとは承知していたのだろう?」
「それは……どのような取引があったのかは、私にはわかりません
ただ、『魔女の釈放が我々の未来に繋がる』というようなことを、
役人たちが口々にしているのを聞きました」
「何を馬鹿な……
王国の未来は魔女のせいで危ういというのに……」
まるで筋が通らない。
ここでは魔女であると認めたのに、
晩餐会ではそれを隠したがっていた。
牢屋から出すための方便だったのだろうか。
いや、それは違う。
この件はセバンロードの役人も合意しているのだ。
お互いに有益な何かがあるからこそ、あっさりと自由になれたのだ。
「もしかしたら……
魔女の力を使って領土拡大とか狙ってるのかもね
例の呪いは一瞬で王国や帝国を壊滅させられる代物だし、
脅しの材料としても最高レベルなのよね
役人たちは、獲得した領地の統治権とか約束されたんじゃないかな」
コノハの推理に一同は凍りつく。
あの二人ならやりかねない。