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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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選んだ道5

晩餐会は大成功し、招待客は皆、満足していた。

国王と王妃の元気な姿を見せたのが、やはり効いたのだ。


それだけではない。

1年もの間、彼らは夜会を開けずにいた。

皆、我慢していたのだ。

内なる欲望を解放できる瞬間を。


今回も支出が収入を上回ってしまったが、

それは財務大臣や帳簿係がどうにかするべき仕事だろう。

国民の血税を大事に管理するのが彼らの役目だ。

無駄遣いすることは決して許されない。


フレデリカが妻の正体を言及した時は肝が冷えたが、

あの現場の雰囲気なら、まず心配する必要は無いだろう。

せいぜい王女に反抗期が訪れた、と思うくらいで済んだはずだ。


こちらにも計画がある。邪魔されるわけにはいかない。


とにかく、今回のパーティーは何もかもが上手く行った。

客も、妻も、私も、皆が楽しめた最高の夜だった。


また近々──



「ぐ、ぐ、ぐっ……ぁぁ…………ぁああああああああっ!!!」



「あ……あなた!?

 一体、どうしたのですか!?

 誰か……!! 医者を早く!!」






──駆けつけた医者が痛み止めを処方し、国王の容態は安定した。


ずっとこれだ。


国王は石化から復活後、ずっと腰の痛みを訴えている。

そして、その症状は石化の後遺症と思われており、

医者にできることといえば痛み止めを与えることくらいだ。


国王は今夜の晩餐会を成功させようと

通常より強力な痛み止めを常備し、酒に混ぜて飲んでいた。


屋敷へ帰ってきてすぐに、その効果が切れてしまったのだ。


「陛下……

 もう無茶な真似はおやめください

 どうかお部屋で安静になさってください」


「ええい!!

 わしに命令するな!!

 安静にしたところでどうなる!!

 それで後遺症が治るのか!?

 貴様はこの症状を治したことがあるのか!?」


「いえ、それは……」


「……なら、治療薬開発の資金集めは必要じゃろうが!!

 パーティーを開くしかないじゃろうが!!

 皆がわしを待っておるんじゃ!! 夜の王をな!!

 夜の王は完全復活したフォオオオーーーゥ!!」


支離滅裂な発言。痛み止めの影響だろう。


最近は必要な量も増えてきた。

薬に対して耐性が出来てしまったのだ。


このままではいずれ、廃人になってしまう。


「なぜわしばかりがこんな目に遭わなければならないんじゃ……

 わしはこんなにも国民のことを思っているというのに……

 皆のために、良き王として生きてきたのに……」


感情の起伏が激しい。

今はネガティブな思考になり、注意が必要だ。


「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!

 もう1本持ってこ〜〜〜い!!」


幻覚が見えているようだ。


「ああ、怒鳴ったりしてすまなんだ……

 そんなつもりではなかったんじゃ……

 わしは、なんてダメな王なんじゃ……」


とうとう自分を責め出した。これは危ない。


医者は悔しそうに、苦しむ国王から顔を背けた。




翌朝、国王がベッドで正気を取り戻すと

傍らの丸椅子には王妃が座っており、

濡れたタオルを持ったまま眠りに就いていた。


衣装はドレスのままで、化粧も落としていない。

彼女はあれから一晩中、夫の寝汗を拭き取っていたのだ。


そんなことは下々の者にやらせればいいのに、と

国王は思ったが、きっと彼らは名乗り出たはずだ。

気の強い妻のことだ、自分でやると突っ撥ねたのだろう。


国王は彼女をベッドに寝かせてあげたかったが、

腰痛の再発を恐れ、運ぶことができなかった。

せめてシーツを被せようと動き出すと

(きし)む音に反応したのか、王妃は目を覚ました。


「ああ、イルミナ

 起こしてしまったか、すまない……」


「いえ、お気になさらず

 それよりも、お体の具合はいかがですか?

 今は落ち着いているようですが……」


国王は少し間を置き、困り笑いしながら答えた。


「……ゆうべは少々、はしゃぎすぎてしまったようだな

 わしももう若くない 内臓への負担を考えないとな」


「誤魔化さなくても結構です

 医者から全て聞かせてもらいましたので」


「むぅ……」


医者には黙っておくよう命じたが、やはり妻には勝てなかったか。

国王は観念し、今その身に起きていることを洗いざらい打ち明けた。




「表向きには魔女との戦いで負った傷ということにしてある

 じゃが昨晩、皆の前で完全復活を果たしてしまったからのう……

 やはり完治していなかったと知れば、国民はどう思うだろうか」


「魔女が負わせた傷ですか……

 あながち間違いではありませんね

 なにせ、そもそも石化しなければ後遺症など起きないのですから」


「むむ……!

 イルミナ、わしはお前を責めたりはせんぞ!

 たとえ石化させた張本人であってもだ!

 だから、罪悪感など抱く必要は無い!」


王妃は少し間を置き、鼻で笑った。


「……罪悪感ですって?

 何を仰るかと思えば……まさか、それで黙っていようとお考えに?

 今やわたくしは大陸の半分を壊滅させた、極悪非道の魔女なのです

 いちいち罪悪感など感じていたら、心が持ちませんわ」


国王の心配は杞憂に終わった。

安心していいのか、否か。


「……それで治療薬が完成するまでの間、あなたはどうするのです?

 資金集めのパーティーには、止めても参加するのでしょうね

 それはまあいいでしょう、わたくしは止めるつもりはありません

 しかし、痛み止めはどうするのです?

 段々と効果が薄れてきているそうじゃないですか」


「うむ、それはわしも危惧しておった

 ……じゃが、“あの男”を復活させれば治療薬の完成が早まるだろう

 さすれば必然的に、必要な痛み止めの量を減らせるというわけだ」


あの男、と言われて王妃は少し考えたが、

薬の完成に携わる人物ということなら、すぐに思い当たった。


「ああ、錬金術士の彼ですか

 石化解除薬を作り出した実績もありますし、期待ができますね

 ……しかし、すんなりと協力してくれるのでしょうか

 解除薬の完成を公表しないよう、監禁していましたらね」


「なあに、力ずくで従わせるさ

 家族を人質に取られておるのだ、従う以外に道は無い」


「それなら安心ですね

 きっと、全て上手く行くことでしょう」


微笑み合う二人。


「うむ、絶対に上手く行く……いや、行かせてみせる

 わしにはミルドール王国の君主として、

 全ての国民に明るい未来を残す責任がある

 そのためには、どんな努力も惜しまないつもりだ」


国王の手に王妃の手が重なる。


「そう思っているのは、あなただけではありませんよ

 あなたと夫婦の契りを交わしたあの時から、

 わたくしも、あなたの選んだその道を共に歩んできたのです

 これからも共に、この国の未来のために頑張りましょう」


国王は王妃の手を握り返し、両手で包み込んだ。


「ああ、もちろんだ! 我が最愛の妻よ……!

 そのためにお前を、あの牢屋から救い出したのだ!

 我が道、我が未来には、お前が隣にいなければ意味が無い!」


「どこまでも進みましょう、この道を!

 わたくしと、あなたで、作り上げましょう……未来を!

 全ては国民の幸せのために……!」



立ち上がり、踊り出す二人。



「我が覇道を止める者は無し!!」



「さあ、ミルドール王国(わたくしたち)領土拡大(パーティー)を始めましょう!!」

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