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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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選んだ道4

国王主催の、資金集め目的の晩餐会。

彼らは浴びるように酒を飲み、肉を食らい、内なる欲望を解放していた。


およそ優雅さの欠片も感じられない晩餐会。

その異様な光景に、私たちは困惑するしかなかった。


「あの人たち、貴族なんだよね?

 マナー?とかいうの、守らなくていいのかなぁ」


「いいんじゃないの?

 たぶん、このパーティーは目的は

 いつも我慢してる、そのマナーから解放されて

 自由を感じることにあるんじゃないかしら……」


「あら、よくお気づきになられましたね

 さすがはコノハ様です

 堅苦しい生活を続けていると、

 精神的に参ってしまいますからね

 どこかで息抜きが必要だ、と試しに開催してみたところ、

 参加者からとても好評だったそうで、味を占めてしまったのでしょう」


と、綺麗な姿勢で食事を口に運びながら説明する王女。

どうやら彼女には、この狂宴に参加する気は一切無いようだ。


「こうゆうパーティーだってわかってたら、

 アリサも来てくれたのかなぁ」


「それはどうかなぁ……

 ドレスが嫌で断ったからねぇ

 もし来たとしても、食べ物を無駄にする連中を見て暴れてたかもね」


床に目を向けると、手つかずの高級料理がそこらじゅうに散乱している。

これだけで何日食い繋げられるのだろうか。もったいない。




「もう一本いっちゃう〜!? ワンモア〜?

 ……はいっ!注文入りました! ネクストボトルウェルカ〜〜ム!!」


「飲〜んで飲んで飲んで♪ 飲〜んで飲んで飲んで♪」


「ハイ、一気! 一気! 一気! 一気!」


「ゴチソウサマデシフォオオオオーーーーーッッッ!!!」


国王はボトルを直飲みし、中身が空になると客たちは殊更(ことさら)喜び、

彼は両手を挙げた状態で男たちの腕に飛び込み、自然と胴上げが始まった。


腰の痛みはもう消えたようだ。


ではもう治療薬は必要無いのかと言われれば、それは違うだろう。

今後また、彼と同じ症状に悩む復活者が現れるかもしれない。

きっとその人たちのために薬を開発したいのだ。たぶん。


今の彼はすごく元気だし、これからは正常な判断ができるようになり、

ゴミのような絵本は処分されるだろう。そうであってほしい。



私もユッカもテーブルマナーには詳しくないが、

王女を手本に、それなりに行儀良く食事を楽しんだ。


ああいう大人になってはいけない。

反面教師というやつだ。




──それからも宴の熱は冷めず、大人たちは騒いでいた。

ミートソースまみれのタキシード姿で床に寝そべる紳士、

涼を求めて城の堀へ飛び込む者、裸で踊り出す集団、

主人の残飯を盗み食いする従者など、まともな大人はいなかった。


そして夜の王は誰よりも飲み、騒いでいたはずなのにピンピンしており、

まだまだ現役であることを存分にアピールし、周囲を驚かせた。


たしかに彼は国民から愛される王だ。

それが一部の同類からだけだとしても、その人たちを喜ばせる力がある。

好き嫌いは分かれるが、好きな人にはトコトン刺さるタイプなのだろう。


私は嫌いだが。


「……さて、もうお腹一杯だし

 そろそろ帰ろっか?」


「うん、ごちそうさま!

 お姫様はどうするー?」


「ええ、わたくしも引き上げようかと思っていたところです

 ……と言っても、ここの地下室に住んでるんですけどね」


王女が屋敷に帰りたくない理由はわかる。

地下室での暮らしを気に入ったと本人は言っているが、

あのパリピ国王と同じ場所で暮らすのはきつい。

合わない人にはトコトン合わない。それだけだろう。



「──さて、ここでわしからのサプラ〜〜〜ッイズ!!

 今宵はスペシャルゲストを呼んでありま〜〜〜す!!」


「イエェーーーイ!!」


「カモカモーーン!!」



また一段と騒がしくなった。ようやるわ。


「誰だろうねー?」


「どうせ、ろくでなしが1人増えるだけだよ

 気にせず、さっさと帰っちゃいましょ」


本当にもう帰りたい。帰りたかった。



「──ドゥルルルルルルルル…………ジャジャーーーン!!



 我が最愛の妻……




 イィ〜〜〜ルゥ〜〜〜ミィ〜〜〜ナァ〜〜〜ッッッ!!!」






…………は?






イルミナという名前には聞き覚えがある。

王様の妻といえば王妃。うん。イルミナ王妃。


石の魔女イルミナ。



「……なんで!?!?」



私は思わず叫んでしまったが、会場の者たちは全員気づいていなかった。

彼らもやはり、国王が口にしたその名に驚きを隠せない様子だった。


「ホオオォォォ!!

 夜の王と、夜の女王が、ここに……完・全・復・活ッッッ!!!」


「QUEEEEEEEEEEN !!」


ただ、私と彼らの驚きのベクトルは正反対だ。

彼らは王妃の登場を狂喜乱舞しながら受け入れ、

今日この日、この場所にいられることを心から感謝していた。


最悪だ。


あの魔女は今、自由だ。


彼女を捕らえていた、東の小国セバンロードが気になる。

まさか、そこの人たちも石化させられたのだろうか。

そうなるともう、この大陸には北のアル・ジュカ共和国しか残らない。

いや、実際にはいくつかの小国はまだ存在するが、今は数えない。


彼女の目的はなんだ?


大陸制覇?


アリサへの復讐?


そもそも、どうやって出てこれた?


「ねーねー、あの人ってお姫様のお母さんだよね?

 蛇の尻尾……足かなぁ、だし、顔も似てるよねー」


ユッカはこの状況を理解していない。

魔女の正体には興味無かったからなぁ。


それに対し、王女は険しい表情で王妃を睨みつけている。

そして、今にも掴みかかりそうな勢いで敵との距離を詰めた。



「お母様、こんな所でお会いするとは奇遇ですね

 記憶によれば、貴女はまだ牢屋の中にいるはずなのですが……

 脱獄でもなさったのですか? 看守は生きているのですか?

 ここへ来るまでに、一体何人を石像に変えてきたのですか?」


王女の、敵意を隠さぬ物言い。

これはもう、王妃が魔女だと言っているようなものだ。


しかし観客はそれを聞いてもピンと来ない。

アルコールで頭が回らないのだろう。


「あらあら、この子ったら

 急に変なことを言い出してどうしたのかしら?

 ……ああ、お酒の味を知ってしまったのね

 でもまだまだ、お酒の本当の飲み方をわかっていないようですね」


ああ、まずい。

この人さっき、“夜の女王”とか呼ばれてたわ……。



「お酒というのはね……

 潰れるまで飲む物なのよフォオオオオーーーーーッッッ!!!」


「レッツパーリィィィーーー!!」


「ショーーーターーーイム!!

 ミュージックスターート!!」



くそっ、似たもの夫婦……っ!



いくら王女が真実を口にしたところで誰も聞きやしないし、

どうせ明日になったら覚えちゃいないんだ。



“国王と王妃が復活した”という、都合の良い記憶以外は。

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