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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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選んだ道2

国を出ると宣言してから3日が過ぎた。

あちこちの医院を探し回ってみたが、

ニックとブレイズは見つからない。


その間に迷宮の労働者たちにも別れを告げ、

ユッカがいなくなると知った男たちは咽び泣いた。


フィンの兄が生きているという発見はしたが、

それをフィンに伝えたところで助ける方法が無いし、

ぬか喜びさせるだけだと判断し、今は黙っていることにした。


それに、どうしてそれがわかったのかという話になると、

コノハの特殊能力を打ち明けなければならない。


「……なあ、べつに隠さなくてもいいんじゃねえの?

 あいつは信用できる奴だってわかってんだろ?」


「いやまあ、それはわかってるけども

 今更教えたところで、もう別れちゃうわけだし

 このままでもいいかなぁと」


「まあ、おめえがそれでいいならいいけどよぉ……

 オレはあんま隠し事とかしたくねえんだよなあ」


「私は謎多き女なの──」


「へいへい、わーったよ」




一方その頃。


「はぁ、はぁ……

 た、只今戻りました……

 目的の2人は……見つかりませんでした……!」


「そうですか

 では、次の場所へ向かってください」


「はっ……はい…………

 い、行って参ります……!」


親衛騎士セシルは走っていた。

王女命令で走らされていた。


既にアリサたちが訪れた医院で、再確認をさせられていた。

一ヶ所行く度に城へ戻り、無駄な往復を繰り返させられていた。


もう慣れた。

いや、慣れていない。


体力作りという名の嫌がらせに。


「姫様……

 そろそろセシルを許してやってはいかがですか?

 たしかに彼女は任務を放棄したかもしれませんが、

 それは現場の判断に任せた私の責任であり……」


「パメラ、そういうことではありません

 わたくしだって本当はこんなことをしたくはありませんが、

 セシルは未だに謝っていないのです

 赦されようとしていない者を、どう赦せと言うのですか?」


「では、きっちりと謝罪するよう私の方から厳しく……」


「ダメです

 そういうことではないでしょう

 本人から自発的に謝らないと意味がありません

 それが誠意というものではありませんか?」


「はあ……」



パメラは困惑していた。


元々フレデリカとセシルは折り合いが悪かったのだが、

慰霊の杜の一件以来、嫌っていることを隠さなくなった。


「カチュア、また呼び出してすまないな

 聞きたいのは、慰霊の杜へ向かう途中の出来事だ

 その時のセシルの行動を、もう一度詳しく教えてもらえるか?」


「ええ、団長

 あの女はですね──」


既に聞いた話だが、何か解決に繋がるヒントがないかと聞き直す。



あんな姫様はもう見たくない。

とりあえず形だけでも仲直りしてもらわないと空気が悪い。

団員の士気が下がっているし、団長である自分がなんとかしないと。



「──とまあ、こんな感じでした」


「そうか……ご苦労だった

 また何かあったら頼むぞ」


「はい、いつでもお任せください!

 では失礼します!」


カチュアが部屋を去り、パメラは額に手を当て、考え込んだ。


話を聞いても、やはり収穫は無かった。


彼女は記憶力が低いので具体的な言動を覚えておらず、

いかにセシルが嫌な女かを主観で語るばかりで、

客観的な事実が見えてこない。


それどころか、以前聞いた話とは細かい内容が違った。

カチュアに嘘をついている自覚は無いのだろうが、

その無自覚な嘘が一番困る。




セシルがなぜ嫌われているのか、

それはなんとなく察している。


3年前、姫様が突然「自分の騎士団を持ちたい」と仰り、

侍女だった私たちはその団員に抜擢された。

その頃の姫様は騎士物語をお読みになられていたので、

影響を受けた結果がそれだったのだろう。


姉妹同然に育った、仲の良い者たちだけで結成した、

おままごとのような騎士団。


そこへ突然やってきたのがセシルだった。


彼女は侍女ではなく、国王陛下がどこからか連れてきた謎の存在だった。

陛下は同情したのだろう。父を知らずに育った、同じ種族の少女に。


陛下の介入により流れが変わった。

どういうわけか陛下は彼女を親衛騎士団に加入させたがり、

更には団長の座まで与えようとしたのだ。


姫様は猛反対し、武術の心得がある私を団長に任命した。

陛下は諦めず、強権を振るってまでセシルを副団長に任命した。


私たちにとって、セシルは異分子なのだ。

それは、3年が過ぎた今も変わっていない。






──ある屋敷の一室。


大きなベッドの上で、男は苦しんでいた。

白髪は乱れ、目は血走り、もがく度に汗が飛び散る。


「ぐっ……あぁ……おおおぉぉっ!!

 痛いィィィ!! 医者……医者を呼べェェ!!」


「は、ハッ!!

 すぐに連れて参ります!!」



そして隣の部屋で待機していた医者から痛み止めを処方され、

国王は一時の平穏を取り戻すことに成功した。



「はぁ、はぁ……

 なぜ……わしがこんな目に…………

 まるで腰にヒビが入ったような痛みじゃ……

 ……のう、この症状は本当に老化なのか?

 職業病とも思えないんじゃが……」


「誠に申し訳ございません、陛下

 初めはそのように診断いたしましたが、

 どうやら宮廷魔術師の話では、

 石化の後遺症なのではないかと……」


医者の誤診を、国王は責めなかった。

石化の後遺症なんて誰にも予測がつかなかっただろうし、

今は怒鳴りつける気力も体力も残っていないのだ。



「ぬぅ……

 では後遺症の治療薬を開発せねばならんのか……

 ならば、やるしかないな…………資金集めの晩餐会(パーティー)を!!」

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