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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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王国の危機2

ミルドール王国の総人口は約1億人と推定されている。

冒険者や観光客などの外国人は合わせておそらく3千万人。

大平原で暮らす、国を持たない流浪の民が2千万人。

ハルドモルド帝国の人口は3億人。


少なく見積もって4億5千万人。


これだけの人数を石化の呪いから救うとなると、

どう考えても今の生産ペースでは生きているうちには間に合わない。


素材回収部隊がどう頑張ろうが、生産できる数には限りがある。

石の薔薇を生み出す魔物、ストーンビーストを狩れる数には限りがある。

倒した獲物が再度出現するまで、最短でも3日はかかるのだ。

しかも、その獲物の生息数も徐々に減ってきているときた。


アリサは悩んだ。




「──なあ、なんかいい方法ねえかな?」


悩んだ結果、頭の良い人に相談するという最良の決断に至った。


「うーん……

 俺も、それに関しては危惧していたんだが……

 ……これはまだはっきりとしたことは言えないけど、

 もしかしたら解決策を導き出せるかもしれない

 実は今、“雨の魔女”について調べていて、

 石の魔女との類似点を探っているんだ」


「はぁ? 雨の魔女? 知らねえよ

 それがどう関係あるってんだよ?」


「よし、食いついたな

 ……雨の魔女というのは遥か昔にこの地を恐怖に陥れた存在で、

 名前の通り、雨の魔法を操る魔法使いだったらしい

 その前に一つ、俺たちが現在『石の迷宮』と呼んでいる場所は、

 かつては『土の迷宮』、『砂の迷宮』などと呼ばれていたらしい

 それが、雨の魔女が現れて以降は『泥の迷宮』と呼ばれるようになった……

 これが何を意味するのか、少し考えてみてほしい」


突然饒舌(じょうぜつ)になったフィンに困惑しつつも、アリサは少し考えた。


「土に雨が混ざって、泥になったってことか……?」


「正解!

 ……ここで俺が言いたいのは、

 迷宮は魔法の影響を受けているかもしれないという点だ!

 王家の別荘にあった歴史書を読み漁ってみたけど、

 あの場所が『石の迷宮』と呼ばれるようになったのは、

 10年前の“石の悲劇”以降だということが判明したんだ!

 つまり……“石の魔女”が『石の迷宮』を生み出したんだ……!」


その推理を誰かに打ち明けたくてたまらなかったのだろう、

フィンは紅潮し、その表情はとても誇らしげであった。


そしてアリサは自身の経験を思い出し、

その推理の整合性が高いことを悟った。


呪いの霧が撒かれたあの日以降、

石の魔物たちは即座に復活しており、

それどころか明らかに数が増えていた。


石の迷宮で拾った素材が、紫の煙に変わっていくのも見た。

あの煙の色は、呪いの霧と同じ色だった。


そして、死んだ魔物が迷宮に吸収されるという基本的な性質。

迷宮は魔力を栄養にしていると考えれば筋が通る。


「ええと、つまり、なんだ……

 ビーストの数を増やすには、

 また呪いの霧を撒けばいいってことか……?」


「いやいや、待ってくれ

 それは危険すぎる

 あくまで俺の憶測だし、間違っている可能性もある

 もっと他の……石属性?みたいな魔法で試すべきだ」


「石属性ねぇ……

 聞いたことねえな、元々魔法にゃ詳しくねえし」


「ああ、俺もだ

 王妃が買い集めた魔術書の中に、

 それらしい魔法があればいいんだけどなぁ

 ……おっと、そろそろ次の現場に行かないと

 とりあえず今わかってるのはそれくらいだ

 何か新しい情報が入ったら教えるよ」


「おう、あんがとな

 参考になったぜ」


慌ただしく去るフィンを見届け、アリサは次の場所へと足を運んだ。




「──っつうわけなんだけどさあ、

 石属性の魔法とか使えたりしねえかな?」


「いやあ、使えないね

 それじゃあこれで……」


「んじゃあさ、使える知り合いとかいねえの?」


「いや、いないよ

 ……あの、明日でもいいかな?」


「おいおい、待てよおっさん!

 素材が取れなくなったら困るのはそっちも同じだろー?

 もうちょい真剣になってくれよー!」


夜の歓楽街、大人の店の前。


ヒューゴは万全に体調を整え、

いざ入店というタイミングでアリサに呼び止められた。


こんなプレイは求めていない。


知り合いに出くわすだけでも気まずいのに、

それが年頃の、ましてや自分の娘ほどの年齢の少女だと尚更だ。


まあ、独身だが。


「……私だって力になってあげたいとは思うけどね、

 本当に今はその……(みなぎ)ってるんだ

 悪いけど、他のことは考えられないよ」


「このエロ親父がっ!!」


男は満更でもない笑みを浮かべ、店内に消えた。




アリサは宿屋に戻り、食卓に着いた。


今夜はユッカが用意してくれたらしく、

目の前にはバターの染みたパンがある。

肉料理は無いが、あの夜の出来事を少し思い出す。


ユッカはベッドの上で丸まり、くうくうと小さな寝息を立てている。

コノハはここ最近、帳簿と睨めっこしていることが多く、

王国から頼まれた仕事が行き詰まっている様子だった。


「──とまあ、今日はそんなことがあったわけだが

 おめえ、なんかいいアイディア思い浮かばねえか?」


「…………」


コノハはちぎったパンを見つめている。


「おい、コノハ!

 聞いてんのか!」


「……あ、ごめん

 ちょっと考え事しててね

 ……でも、呪いの霧をまた使うってのはいい案かもね」


「あ〜、やっぱ聞いてなかったな

 それが危険だから他の方法を探そうって話になったんだよ」


「いや、それがどうもね……

 一回石化したら耐性がついて、

 次からは呪いを無効化できるみたいなのよね

 ユッカの魔力解析で判明したことだから、間違いないよ

 少なくとも、復活した人たちが石化することはもうないよ」


思わず口からパンが溢れそうになった。


「なっ……!

 それってすげえ情報じゃねえ!?

 どうして今まで黙ってたんだよ!?」


「どうして、ってそりゃ……

 それほど重要な情報じゃないからでしょ

 アリサは元から呪いを防げるし、

 魔女が捕らえられた今、呪いの恐怖に怯える必要が無くなったし……」


現状を改善できそうな活路を見出し、アリサは舞い上がった。


しかしそんなアリサとは対照的に、

コノハは再び苦い顔をしながら帳簿に目を通した。

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