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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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王国の危機1

「財政難です」


フレデリカは不穏な言葉を口にした。


会議室に集まった大臣たちはざわつき、

恐れていた事態にどう対処すべきか頭を悩ませた。


同席したコノハも現状を充分に把握しており、

何度も帳簿を見直しながら解決策を探っていた。


国王が倒れてからはや半年、

このミルドールの地に、またもや厳しい冬が訪れようとしていた──。






“石の広場”には数万体の石像が立ち並び、

汚れを磨いたり、供え物をする人の姿が散見した。

精巧な作りのそれらは生きているかのように表情豊かであり、

まるで魔法で石に変えられたのかと思わせるほどだった。


事実、そうなのだ。


「──今から10年前、“石の魔女”がかけた呪いにより、

 ミルドール王国の民は次々と石に変えられてしまいました

 王様は世界中から集めた冒険者と共に、魔女に対抗しました

 そして冒険者たちは多くの犠牲を払い、魔女に勝利しました

 しかし、石に変えられた人々は今もそのままです


 それからしばらくして、悲劇はまた起こりました

 この国を恐怖に陥れた邪悪な魔女が復活してしまったのです

 魔女の正体は邪悪なハーフエルフでした

 王様は再び邪悪な魔女を倒し、永久に封印しました

 そして石にされた人々は少しずつ元に戻っていきました 終わり」


「嘘じゃねえかよ!!」


アリサは思わずツッコんだ。

それを読み上げたユッカも難色を示し、

2人の反応を見たフィンは苦笑いするしかなかった。


半年前、アリサはこの国を救った英雄として表彰されるはずだった。

しかし国王が倒れたことにより復活祭は中止&無期限延期となり、

彼女の功績が讃えられることはなかった。


それはまあいい。

大観衆の前で褒められるだなんて、想像しただけで身震いする。


問題はこれだ。

病床に伏せる国王が書いた絵本。

国王は戦っていないし、魔女は死んでいない。

そして魔女の正体は自分の妻だというのに、それも嘘をついている。


そのゴミを突き返され、フィンはどう処分しようかと考えあぐねた。


「王はこれを世界中に売り出そうと考えているそうだが、

 病気の苦しみのせいで錯乱してしまったのだろうか……」


「ん〜……もうこうなってくると、

 その病気ってのも嘘なんじゃねえの?

 あのジジイ、全く信用なんねえよ!」


「ねーねー!

 あたし引っかからずに読めたよー!」


「ああ、うん……

 ちゃんと読めるようになって偉いね、ユッカちゃん」


「えへへ〜♪」


つい雑な褒め方をしてしまったが、

本人は喜んでくれているようで何よりだ。



フィンはわざわざアリサたちと雑談しに来たわけではなく、

兄である“首無し兵士の像”の様子を見に訪れただけだ。


今の彼は“特別一般兵”という、特別なのか一般なのか判断に困る立場にあり、

大臣などのお偉いさんからの命令に従い、いいようにこき使われている。


これまでに国内で千人ほどの人々が復活しているが、

下級兵士は彼1人だけだった。


不服ではない。

この国が一刻も早く復興するのなら、

自分が必要とされているのなら、その身を粉にして働く所存だ。


「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ

 君たちもこれから仕事なんだろう?

 まあ心配する必要は無いと思うけど、気をつけて!」


「おう、任せとけって!」


「いってらっしゃーい!

 ……あ、いってきますかなあ?」


忙しい彼を見送り、アリサたちも仕事場へと向かった。




「おっ、来た来た

 最近は寝坊しなくなったね、ユッカちゃん」


「えっへへ〜♪

 偉いでしょー」


「うん、偉い偉い!」


石の迷宮の入り口にはベテラン冒険者のヒューゴが待機しており、

ユッカの可愛さにデレデレし、少し気持ち悪かった。


彼の役割はアリサたちを深層まで快適に案内することであり、

道中の魔物を得意の魔法攻撃で一掃できるだけの実力者だった。


彼は最弱の種族と云われている人間だが、

たゆまぬ努力により数々の上級魔法を会得し、

戦闘力の低さを克服した稀有な存在であった。



「──はあああああああっ!!」



「──ほいさあああああっ!!」



「──どっこいしょおおっ!!」



彼の戦いぶりにアリサは疑問を感じ、質問したことがある。

『疾風よ、舞え』みたいな詠唱は必要無いのかと。


どうやら詠唱が必要なのは精霊魔法と呼ばれる種類らしく、

エルフのような自然との関わりが深い種族が得意とするものらしい。


なるほど、たしかに使い手はエルフだった。



ヒューゴの案内で第2キャンプまではものの数分で辿り着き、

そこでは獣人たちが多くを占める素材回収部隊が出迎えた。


「おい、オメーラ!

 アリサさんとユッカちゃんが来たぞ!

 朝飯の用意、出来てんだろうなぁ!?」


「バッチリっすよ!

 さあ、遠慮なく食っちゃってください!」


肉と野菜を挟んだパン、豆のスープ、温かいミルク、それとチーズ。

特にこだわるつもりはないが、最近はこのメニューに落ち着いた。

作る方も、毎回違う物を用意するのは手間だろう。


「おう、いっつも悪りいな

 ありがたく食わせてもらうぜ」


「いえいえ、気にしないでください!

 お二人には世話になってますからね!」


「いっただっきまーす!」


「はーい、召し上がれ〜!」


ユッカは毎回それを幸せそうに頬張り、

部隊の連中はだらしなく鼻を伸ばしている。


これでいい。


ユッカを連れてきた意味はこれだけだ。

彼女に力仕事を任せられるだけの体力は無いし、

魔法を使えるわけでも、頭が良いわけでもない。


現場の士気を上げることができれば、それだけで役に立っているのだ。



「……うっし!

 メシも食ったし、ちょっくら行ってくらぁ!」


「うん、いってらっしゃーい!」


ユッカに見送られ、アリサは深層へと向かった。



ストーンビーストの捕獲。

四肢の切断。

キャンプまでの運搬。

ストーンスライムの回収。

ビーストにスライムを与える作業。


石の薔薇を回収するまでの工程はこれだけだ。


これだけの作業に今まで数十人もの労働力が必要とされていたが、

怪我を克服したアリサが復帰後、その半分の数で済むようになった。


彼女は稼ぎ頭だった。

石にされた人々を救うための材料、石の薔薇を生産するための。



だが、アリサは察していた。


数字に詳しくない彼女でも、気づいていた。



「……こんなん、100年かけても終わんねえよ!!」

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