雪解け7
フレデリカたちは国王の石像と対面することができた。
そして4人で協力し、速やかに馬車まで運び込まれた。
セシルは黙っていた。
国王の石像を倒してしまったことを。
ミルデオン城の玉座にて、
一国の主に相応しい場所にて、彼は復活した。
「──イルミナ、少し落ち着いた方が……って、んんんっ!?
ここはミルデオン城か……? どういうことだ?
……って、なんだ…………頭が痛い……腰も痛い…………!!
耐えられない……! 誰か……っ、助けてくれ…………っ!!」
国王は突然苦しみだした。
これまでに復活した者たちの話から
軽い頭痛や眩暈が起きるのは把握していたが、
腰の痛みを訴えるのは初めてであり、一同は狼狽えた。
幸い、駆けつけた従者が手際良く診断し、
即座に痛み止めが施され、国王の容態は安定した。
「大変申し上げにくいのですが……
おそらくは加齢による身体能力の低下か、
座りっぱなしの状態が多いゆえの症状かと思われます
いわゆる職業病と呼ばれる病状の可能性が高いですね」
「ううむ、そうか……
わしは国民のために働きすぎていたのかもしれん
これからは自分の体を労ってやらねばならんな」
従者も国王も、的外れな結論に納得した。
しかし真実は違う。
誰かさんのヘマで、深刻なダメージを負ってしまったのだ。
彼らが真実を知る日はやってくるのだろうか。
セシルは沈黙を貫いた。
──アル・ジュカ共和国からの朗報に、一同は歓喜した。
とうとうユッカの像が見つかったというのだ。
これでようやく元通りになる。
そう思うと、居ても立っても居られなかった。
現地から運んできてくれるとは言っていたが、アリサはそれを断った。
王国と共和国の間には険しい山岳地帯が存在するのだ。
地形が不安定だし、運搬中に石像を損傷しないかが心配だ。
それに、往復の煩わしさもよく知っている。
全部一度で済ませたい。
「──んで、まさかこんなとこにいやがったとはなぁ
つくづく因縁があるっつうか……やっぱこいつ、向いてるよなあ?」
アリサはユッカの石像と再会した。
「復活させたら、もう一度誘ってみようかな……」
コノハも同じ意見だった。
ユッカの像は歓楽街に設置されていた。
夜の街。大人の店。風呂屋の看板娘として。
内戦の混乱があったにも関わらず、
この像を設置してからは店の売り上げが伸び、商売大繁盛だそうだ。
それも当然、今やこの国は獣人の国なのだ。
いたいけな猫精の少女が官能的なポーズを取っている。
窓から身を乗り出す体勢で、尻を突き出しているのだ。
獣たちの本能を揺さぶるには充分だった。
そして、店長がまだ復活は待ってほしいと懇願していたが、
大勢の通行人が見守る中、石像の全身に解除薬が行き渡った。
「──うわっ! うわわわ!」
体重を乗せていた場所が突然消え、ユッカは転倒しそうになった。
しかし目の前の少女2人がそれを支え、事故は起きなかった。
「あ、あれっ……?
おっかしいなあ〜、あたし宿屋にいたよね?
ここどこー? 空の色、元に戻ってるし……何が起きたの?」
やはりユッカも覚えていない。
だが、その方が幸せかもしれない。
あれから随分と時間が経つし、
本人の許可無くソープで働かされていたのだ。
「まったく、心配かけさせやがって……
とりあえず次行くぞ、次!」
「う、うん……?」
「……ユッカ、おかえり」
「へ?
意味わかんない……けど…………ただいま???」
雰囲気を察した通行人たちが拍手を送る中、
少女たちは足早に歓楽街を立ち去った。
パメラとフィンの像の所在については、
割と早い段階で知ることができていた。
しかし、すぐに復活させなかったのには理由がある。
“寄り添う男女の像”は新生アル・ジュカ共和国内において、
平和の象徴、目指すべき未来の形として祀られていた。
人間と亜人……
種族を乗り越えた愛を感じさせるその姿は人々の心を打ち、
彫刻家がそのレプリカを完成させるまでは
復活を先延ばしにしてほしいと頼まれたのだ。
そういう事情ならば仕方がない。
反乱を起こして旧体制に打ち勝ったとはいえ、
無傷の勝利ではなかったし、遺恨が完全に消え去ったわけではない。
彼らには心の拠り所が必要だった。
「──ところでアリサ様、
わたくしはフィン様についてよく知らないのですが、
パメラとはどういう経緯で恋仲になられたのでしょうか?」
「ん〜、オレもよくわかんねえんだよなあ
オレが寝てる間に何かあったのかもしんねえし、
前々から付き合ってた可能性もあるだろうよ
悪りいが恋愛に関しちゃ興味ねえし、本人に聞いてくれ」
件の石像は、すっかり恋人の像として認知されていた。
怯える女騎士を抱き締める男兵士。
その構図に、他の何を想像すればいいのだろうか。
今ではカップルの待ち合わせ場所として定着しており、
レプリカが完成したとはいえ、オリジナルを残してほしいという声もある。
しかし、そういうわけにもいかない。
あの二人が復活後にどんな展開を見せてくれるのか、
そういう需要も大いに存在するのだ。
続きが見たい。
その声が勝ったのだ。