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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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雪解け6

国王陛下の居場所について心当たりがあると、

親衛騎士団副団長のセシルが言っていた。

なぜそう思うのか、なぜ今までそこに行かなかったのか、

彼女はその理由をなかなか話そうとはしなかった。


「実は……我々が黒騎士団の代わりとして城に召集された時、

 団長は何か裏があると読んでいました

 そして一度目の呪い……いえ、二度目ですね……が起きた後、

 団長から例の場所を調査するよう命じられたのですが……」


「ですが……?」


「その場所は立入禁止区域であり、

 陛下が向かう理由は無いと判断し、

 調査には向かいませんでした」


「セシル……

 それはつまり、与えられた任務を放棄したということですか?」


「いえ、そういうことではありません

 私はあくまで現場の判断を優先したまでです

 いつまた魔女からの攻撃が来るのかわからない中、

 可能性の低い場所へ向かうのは時間の無駄だと思ったのです」


「それで、パメラはなんと答えたのですか?」


「実は……報告していません」


「それはつまり、任務を放棄した挙句、報告も怠ったということですね?」


「いえ、そういうことではありません

 団長は忙しい身ですし、手を煩わせてはいけないと思ったのです」


「そうですか……

 では、貴女は今まで何をしていたのですか?

 この3ヶ月、時間は充分にあったはずです

 騎士としてわたくしの側に仕えるという使命があったにせよ、

 その場所へ代わりの人員を送り込むことはできたはずです

 さすがにこれは怠慢であると言わざるを得ません」


「いえ、そういうことではありません

 お世話になっているセバンロードの方々に、

 これ以上迷惑をかけられないと思ったのです」



「……そういうことですよ!!

 なんなんですか、さっきから言い訳ばかり!!

 セバンロードの方々は、今も王国を救うために頑張ってくれています!!

 協力を申し出れば喜んで引き受けてくれたことでしょう!!

 彼らは一日でも早く、王国が復興することを願っているのです!!

 アル・ジュカの方々も同じ気持ちのはずです!!

 新たなリーダーの元、真の同盟国となれるよう尽力しているのです!!

 一番努力すべきはわたくしたちだというのに、それを貴女という人は……!!」



フレデリカは激昂した。


生まれて初めて誰かに怒鳴った。


セシルもカチュアも驚いていたが、

一番驚いていたのは彼女自身だった。




それからというもの、馬車の中は無言だった。


気まずい沈黙に圧し潰されそうになる。

なんの落ち度も無い、御者でさえも。


セシルはまだ謝っていない。

そのタイミングを逃したのだ。


「……副長、早く謝った方がいいんじゃないですかね

 あんなに怒る姫様、見たことありませんよ

 ついでに別件も謝っちゃいましょうよ」


「ん……

 いや、今はまだ早い

 もう少し姫様の機嫌が落ち着いてからの方がいいだろう

 ……というか、別件とはなんだ?」


カチュアが眉をしかめる。


団長と雰囲気が似ているから勘違いしていたが、

このセシルという女、どうも無能の匂いがする。


3人で地下室にいた時、家事をこなしていたのはカチュアだ。

フレデリカはパメラの集めた情報をどうにか役立てようと頭を働かせていた。


セシルは何をしていたのだろう。


情報収集のために毎日外へ出ていたが、収穫は無かった。

まあ、それはいい。頑張ってダメなら仕方ない。


本当に頑張ったのか?


団長命令を無視した件を白状したし、報告も謝罪も無い。

いざとなれば部下に嫌な役回りを押しつけるのは体験済みだ。


カチュアの不信感は募るばかりだ。






馬車は進み続け、日没前に目的の場所へと辿り着いた。


慰霊の杜。


行方不明の黒騎士団がそこらへんで石像となっており、

国王がこの場所にいるという予想は疑いようのない事実と化した。


やはりここだった。

パメラの指示に従えば、すぐに見つかったのだ。


セシルに目を向けると彼女は反射的に顔を背け、

その態度が更に反感を買わせた。

しかし今はこの無能に構っている場合ではない。

王国のリーダーを取り戻すため、彼を探す時だ。


時間が惜しい。

御者を含めた4人は分かれ、国王の石像を捜索した。




管理施設を探索していたカチュアは鍵の掛かった扉を発見し、

鍵が見当たらないので、仕方なく特技を使うことにした。


一般的に鼠人という種族は素早さと器用さに長けており、

その中でも彼女はとりわけ指先の器用さには自信があった。

よほど複雑な作りでもない限り、どんな扉でも解錠できてしまうのだ。


今は非常事態だ。これは犯罪ではない。


カチュアは自分にそう言い聞かせ、針金1本で難なく解錠に成功した。


その部屋にはゴブリンとオークの石像があった。

ゴブリンはオークの足に包帯を巻いているのか、

それとも外しているのか、それは判別できなかった。


怪我したオークを治療していたのはわかるとして、

なぜこの2人は閉じ込められていたのだろう。

何か罪を犯し、罰を受けていたのだろうか。


まあ、どうせ今はわからない。

カチュアは他の部屋を探した。




国王を発見したのはセシルだった。


すぐに他の3人を呼べばいいものを、

彼女は考えてしまった。


余計な考えを。



名誉挽回。



王女から怒鳴られて以降、

部下の見る目が厳しいとは感じていた。


本当はもっと前からだが、とにかく舐められている。



この石像を1人で運び、あとは帰るだけの状態にしておけば、

失った信用を取り戻すことができるだろう。



そう考え、実行し、



段差につまずき、



石像は倒れた。

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