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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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雪解け5

「2人とも、気をつけて!

 なんかヤバい魔力が来てる……って、

 あれ、何……? ここどこ!? どんな状況!?」


アリサはようやく目的を果たせた。


仲間を取り戻す。


そのために尽力し、とうとう成し遂げたのだ。


まだ1人だけだが、まずは1人だけでも取り戻せたのだ。



コノハ。



アリサとユッカのパーティーに加わり、

リーダーとして導いてきた存在を。


黒髪で、足が短くて、変なカバンを持っている少女。


「──おかえり」


「やっ、意味わかんないんだけど!?」


「ええぇ……」


彼女には石化していた間の記憶が無かった。


イルミナ王妃や冒険者ヒューゴも、

復活した者たちには石像になっていた間の記憶は無い。

呪いにかかり、救われたという記憶が無いのだ。




気づけば季節は春だった。


風は暖かく、草木が芽吹いている。


コノハとヒューゴは自身の置かれている状況をすぐには理解できなかったが、

立ち並ぶ石像たちを目の当たりにして、時間が飛んだという事実を受け入れた。



カチュアは密かに切れていた。


副長命令で全裸のおっさんに薬を塗り込まされたが、

その後に復活したコノハはガッツリと冬服を着込んでいたのである。


肌面積の多さは関係無かった。

それが明らかになっても副長からの詫びは無い。

立場を利用してソープ嬢の真似事を強要した、副長の詫びが。




「まだ頭がこんがらがってるんだけど……

 現状を整理するね?

 魔女の正体は王妃、黒幕は謎のエルフ

 王国と帝国は壊滅状態、公国は共和国に生まれ変わった

 アリサが考案した方法を基に石化解除薬の材料を量産中

 ユッカはオークションで売り飛ばされた

 ……こんなとこかな?」


コノハは物分かりが良かった。


アリサたちはやや興奮気味であり、

これまでの経緯を、主観を交えて伝えていた。

にも関わらず、コノハは客観的な事実のみを汲み取り、

失われた3ヶ月分の情報を把握したのだ。


「ユッカの行方はシバタ……さんに調査を任せるとして、

 薬の供給は回収部隊とアル・ジュカの錬金術士たちの仕事

 そして魔女と黒幕はセバンロードの牢屋にいる……か

 ……私にできることは禁断の書の解読くらいかしらね?」


一同は耳を疑った。


それは持ち主である謎のエルフでさえ、

半分以上は解読できていない書物だった。


古代エルフ語といえば失われた言語として知られており、

つい最近、現代文字を覚えたばかりのアリサにはもちろん、

学識の高いフレデリカたちにも読み明かせる代物ではなかった。


だが、コノハにはそれが可能なのだ。



「“第三の瞳(サードアイ)”──

 この能力に、私はそう名付けたわ」



彼女は左手で右目を覆い隠し、わけのわからないことを呟いた。




幸い、目的の書物はフレデリカが所持しており、

セバンロードとの無駄な往復をせずに済んだ。


コノハは禁断の書を受け取った瞬間に魔力の解析を行い、

同時に追跡能力の紐付けと、目的である解読も既に終えていた。

しかし彼女は作業終了を告げず、しばらく時間がかかるとだけ伝え、

ミルデオン城の書斎に籠ってしまった。


「アリサ様、本当によろしいのですか?

 ようやくコノハ様と再会できたというのに、

 お祝いの席を準備しなくてもいいだなんて……」


「んあ?

 姫さんも聞いてただろ?

 オレにとっちゃ3ヶ月ぶりでも、

 あいつにゃあ、ついさっきぶりなんだ

 感動の再会ってのとは程遠いし、ガラでもねえよ」


「そうですか……わかりました

 では、アリサ様はゆっくりと体をお休めください

 わたくしたちは国王陛下(お父様)の捜索に行って参ります

 どうも、セシルには心当たりがあるそうです」


「おう、頑張れよ!」




フレデリカたちを見送り、アリサは書斎を訪ねた。

コノハは例の本を(いぶか)しげに見つめ、その扱いをどうすべきか悩んでいた。


「よお、どうせもう解読できてんだろ?

 なんか役に立ちそうな魔法とかあったかー?」


「ああ、えっと……」


言い淀み、紅茶を一口啜り、その内容を明かした。


「この本……マジでヤバい奴だよ

 だいぶ古い時代の書物なのに、強力な魔力がまだ宿ってるのよね

 内容の多くは、不老不死を実現しようとして失敗した人たちの記録みたい

 王妃が使った禁術は、遠い昔に蛇人の国が滅亡した原因なんだってさ」


「国が滅亡って……そりゃマジでヤベえな

 おんなじことが繰り返されるとこだったのか」


「……んで、もっとヤバいのは

 凶悪な効果をもたらす割に、使用条件が緩めだって点なのよね

 大体の術式が種族依存で、それほど魔法の才能を必要としないみたい」


「へえ、んじゃあオレにも使えそうな魔法があるってことか!」


「じっくり探せばあるかもね

 でも、自分の体がドロドロに溶ける魔法とか、

 ゴキブリを引き寄せる魔法とか、そんなのばっかだよ?

 やめといた方がいいんじゃないかなあ?」


「うっ……やっぱ遠慮しとくぜ……」


「これは私の推測なんだけど、

 この本は教訓のために書き残された物なんだと思う

 凶悪な魔法を簡単な条件で使えるのはあまりにも危険だし、

 それをうっかり使わないように、危険性を知らせるための本なんだよ」


「あ〜なるほど、禁断の書ってそういう意味か

 要するに『ここに書いてある魔法は使うな』ってことだろ?」


「はい、よくできました!」

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