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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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雪解け4

アリサは待っていられなかった。

病室でおとなしくしていることなんて、とてもできない。


まだ怪我は完治していないが、自分の足で歩けるまでには快復した。

その前代未聞の生命力に医者たちはまた目を丸くするばかりだった。


しかし、そんなことはどうでもいい。


シバタ率いる素材回収部隊が出発してから1ヶ月。

彼の使いが、良い知らせを持ってきたのだ。



石化解除薬の試薬が出来上がった、と。



完成した、と言わないのはまだ効果を確認していないからだ。


なんでも最初の完成品を作った錬金術士は行方不明らしく、

工房に残された手記を頼りに調合した物なので、

ちゃんと再現できたのかわからないそうだ。


もし失敗し、最悪、石像が壊れたりしたらと思うと、

迂闊に手を出さない方がいいと判断したのだ。


フレデリカは事情を汲み、試薬を使う石像はこちらで選ぶと答えた。


そしてアリサたちは(はや)る気持ちを抑え、

3ヶ月ぶりにミルドール王国へと足を運んだ。




王国の様子はすっかり変わっていた。


相変わらず王国民は石のままだが、

アル・ジュカとセバンロードの民が協力し合い、

食堂や雑貨屋などの商業施設を切り盛りし、

回収部隊の活動を支える光景がそこにはあった。


放置された生肉は処分され、北からの物資を運ぶ馬車が見える。

何より人々がこの場所で動き、生活している。

文明が成り立っているのだ。


そして、ミルデオン城内に石像の数が増えていた。

この3ヶ月、シバタたちは素材回収だけをしていたのではない。

石の迷宮での活動を断念した者たちは地上に留まり、

野晒しの石像を屋内に運び込んでいた。


そこにユッカ、パメラとフィンの石像は見当たらず、

オークションで旧公国の元貴族たちに買われた事実を知った。


彼らは人間史上主義を口にしておきながら、

ただの人間の石像には興味を示さなかった。


そこには片目を押さえる少女の像が残されていた。


「んまあ、べつにいきなり本命にぶっかけてもいいんだけどよぉ

 ちゃんと効果を確かめてからの方がいいって、姫さんがな〜」


「姫様の仰る通りだ

 お前はこれまで頑張ったのだ

 その苦労が無に帰すことがあってはならぬ」


「おっと、一つだけいいか

 その試薬を作った錬金術士の説明では、

 適当にぶっかけても効果は出ないだろうとのことだ

 なんでも、全身に満遍なく塗り込むタイプの薬らしいぞ」


「全身にですか……

 では、肌を多く露出している方が成功率は高そうですね

 しかし、探すとなるとなかなか難しそうですね

 今回も前回も、季節は冬でしたから」


肌の露出と聞き、アリサとシバタはある人物を思い出した。


「いるぞ……裸のおっさんが!」


「ああ、彼なら迷宮から運び出してある

 すぐに案内しよう」




彼は異国から来た冒険者であり、名をヒューゴと言った。


他の者たちと同じく薬の材料目当てで活動していたのだが、

風呂で体を洗っている時に運悪く石化してしまった。


種族は人間。年齢は45歳。この道30年のベテラン冒険者だ。


「……姫様、目に毒です

 下を見てはなりません」


「あ、はい、ですが……

 ちゃんと薬の効果を見届けないと……」


「んで、誰が薬を塗り込むんだ?

 このおっさんの全身によぉ」



「「「 えっ 」」」



その質問に、王女たちは戸惑った。

アリサはさっさと自分の仲間に試したかったのだが、

それを引き止めて実験の必要性を訴えたのは、他ならぬ王女側なのだ。


フレデリカには、自身の言葉に責任を持とうという意志があった。


「では、わたくしが……」


「お待ちください姫様っ!!

 なにも、姫様が手を汚す必要はございません!!

 ここはどうか、親衛騎士であるカチュアにお任せください!!」


「え、えええぇぇぇっ!?!?」


カチュアは縦社会の恐ろしさを垣間見た。


「ちょっと待ってくださいよ副長!

 今の流れなら、副長が自ら犠牲になるパターンじゃないですか!?

 下の者にその役目を押しつけるのは、なんか違うんじゃないですかね!?」


「下の者か……

 よくわかってるじゃないか

 ミルドール王国最後の生き残り、その中で序列が一番低いのはお前だ

 言わずもがな姫様が一番上、次は親衛騎士団副団長である、この私だ」


「こんな横暴、許されませんよっ!!」


「カチュア、よく考えてみろ

 不本意だろうが、これは名誉なことなのだ

 試薬の効果を証明できれば、他の石像も治療できるのだ

 石にされた被害者を救うための第一歩を、お前が踏み出せるのだぞ?

 お前も英雄になれるかもしれんのだ なんとも誇らしいことではないか」


「くうううぅぅっ!!」


結局カチュアは言いくるめられ、おっさんの全身に薬を塗りたくった。




そして……。




「……んっ

 …………えっ???

 あれ、何これ……どういう状況!?

 ここ、そういうお店!?

 これってどんなプレイ!?

 いつ来たっけ!? 記憶無いんだけど!!」


少女たちが見守る中、冒険者ヒューゴは復活した。全裸で。


彼の全身を覆っていた石は砂となり、サラサラと落ちていった。

カチュアは足の裏に薬を塗り忘れていたが、それも問題無く、

大体の部分に薬効成分が行き届いていればいいのだと証明された。



石化解除薬が完成した。



今、少女たちの目の前で、全裸のおっさんがそれを証明したのだ。



喜びのままに、抱き合う少女たち。


おっさんは混ざろうとして、


アリサにぶっ飛ばされた。

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