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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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雪解け3

偽サロメは牢屋にいた。


「あ〜、看守さん

 わたしちょっと、その、催しちゃったんですけど」


「そうか、容器ならそこにあるだろう

 今朝取り替えたばかりだし、中身は空っぽのはずだ」


「いや、そうじゃなくて……

 見られてると恥ずかしいなあって……」


「安心しろ、私も女だ

 何も恥ずかしがることはない

 それに、貴様を見張るのが私の仕事なんでな

 不服だろうが、目を離すことはできない」


たとえ看守の目を欺いたところで、

彼女に何かができたわけではない。

今は魔封じの縄からは解放されているが、

その場所自体に魔封じの結界が張ってあるのだ。


本当にただ便意を催していただけであり、

たまには嘘以外のことも言える。


2ヶ月前、彼女はもう一つの真実を伝えていた。

自分が魔女ではないことを何度も必死に訴えたが、

所持していた禁断の書には呪いの術式が記載されており、

更には複数の冒険者免許が見つかり、明らかに怪しかった。


本当の魔女との醜いなすりつけ合いの末、

セバンロードの住民たちは王妃の言い分を信じそうになった。

しかし、この嘘つきエルフを庇う者が現れたのだ。


魔女殺しの英雄アリサが。


アリサには嘘をつくメリットなんて無かった。

ただ自分が体験したことを余すことなく伝え、

蛇女が紫の霧の発生源にいたことを断言した。


しかし困ったことに、それは証明のしようが無いことだった。


魔法隠しの幻術の効果で呪いの霧は他の者には見えず、

それを判断するには魔女の拘束を解いて禁術を使わせるしかない。

呪いを防ぐことのできない者たちに、そんな危険は冒せなかった。


そして結局、偽サロメと王妃は別々の牢屋に閉じ込められた。




イルミナの元に、フレデリカが訪ねてきた。


「フレデリカ……!

 ああ、愛しき我が娘よ!

 この母を、早くここから解放するのです!

 貴女たちは今、あの邪悪な魔女に騙されているのです!

 あのクソエルフこそが諸悪の根源だと言っているでしょう!

 どうしてそれがわからないのですか!?

 まさか、この母を信じられないと言うのですか!?

 わたくしは貴女をそんな娘に育てた覚えはありませんよ!!」


「お母様……

 わたくしも貴女に育てられた覚えはありません

 物心ついた頃には既に貴女は屋敷におらず、

 あの晩餐会で再会した時には目も合わせてくれず、

 石化から復活したという重大な事実を黙っていた……

 そんな人の戯言を誰が信じるというのですか?」


イルミナは認めなかった。

石の魔女であることを。

王国だけでなく、大陸の半分に被害を与えた張本人であることを。


「もし仮に、この母が魔女だったとして……

 いえ、もちろん違いますが、あくまで仮の話として……

 あの禁断の書の持ち主は紛れもなくあのエルフです

 言わば、わたくしに禁断の力を与えた黒幕ということになります

 しかも本来求めた魔法とは全く違う効果の術式をです

 そう考えると、わたくしは騙された被害者以外の何者でもありません」


「2回目からは効果を知った上で使ったのでしょう?

 被害者ぶるのはおやめください 貴女は間違いなく加害者です

 あのエルフのお方が黒幕だというのはおそらく本当なのでしょうが、

 だからといって、全ての罪を押しつけるなんて恥知らずにも程があります」


フレデリカは強かった。

そして正しい心を持っていた。


この母親に育てられなかったのだ。


乳母や教育係の爺や、献身的に仕える従者たち、そして親衛騎士団の面々。

そういった正しい心の持ち主に囲まれて育ったのだ。


邪悪に対して敏感にもなる。






所変わり、石の迷宮では男たちが全力を振り絞っていた。


「うおおおおおおおおっ!!」

「踏ん張れえええええっ!!」

「今度こそおおおおおっ!!」

「姫様のためにいいいっ!!」


大柄な獣人が、4人がかりでストーンビーストの突進を阻んだ。

だがそれでも少し勢いが落ちたくらいで、足を止めるには至らない。


「行くぞおおおおおおっ!!」

「おりゃああああああっ!!」


追加で1人、2人と加勢し、その数は最終的に8人となった。

たった1匹の魔物を足止めするのに、それだけの人員を割いた。

アリサはたった1人でその作業をこなしていたのだ。

しかも、怪我した体で。


そして、8人だけでは終わらなかった。

ようやっと足止めに成功した獲物の四肢を捥ぐにも人手が要る。

これがまた骨の折れる作業で、脚1本を破壊するのに更に4人を投入し、

交代しながら打ち続け、ハンマーが3本駄目になった。


体力を使い果たした者たちに代わり、

別の4人が獲物をキャンプまで運び、

現場では大きな歓声が上がった。



石の滝から、餌となるストーンスライムを回収する作業も難航した。


アリサは全身鎧を何重にも着込み、

風呂桶を補強して毛布を敷き詰めたと言うが、

どちらもあまりに重すぎて、まともに動ける者はいなかった。


鎧が無ければ頭よりも大きい石の塊、もしくは破片が直撃してしまう。

かと言って中途半端な鎧ではあの滝のような攻撃に耐えられない。


せっかく苦労して捕まえたストーンビーストだったが、

餌が無いせいで翌日にはあえなく餓死してしまった。


男たちは考えた。


地面ではなく、天井付近で回収すれば落下の勢いを殺せる。


幸い、現場にはセバンロードの大工も来ており、

即席の足場を作るにあたって必要な作業者も大勢いる。

そうと決まれば彼らは早速材料を掻き集め、製作に取り掛かった。


それから10日とかからず、それは出来上がった。


石の滝の破片が届かない距離を確保し、

通路の中央はビーストの通り道として空けておく。

左右の壁に同じ物を作り、お互いを支え合っているので倒れる心配は無い。


スライム回収用の階段が、ここに完成した。



最後に回収用の道具だが、これは特に滞りなく用意することができた。


階段製作チームが迷宮の外へ材料を取りに行くついでに、

鍛冶の心得がある者たちが王国の工房を借り、仕上げたのだ。


鉄の柄杓(ひしゃく)と運搬用の容器を用意し、あとは最後の作業をこなすだけだ。

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