表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
23/150

嵐に吹く5

絶体絶命のピンチに駆けつけたのは、親衛騎士のタチアナだった。

鳥人である彼女は、集団の頭上で羽ばたきながら王妃に呼びかけた。


「王妃様〜〜〜っ!!

 今から爆弾を落とすので、

 ちゃんと避けてくださいね〜〜!!」


「ばっ、爆弾んん!?」


物騒な単語に、王妃だけでなく帝国騎士たちも驚きを隠せなかった。

王妃は今、囲まれているのだ。都合良く1人だけに聞こえるわけがない。


「おやめなさい!!

 そんな物、避けられるはずがないでしょう!!」


タチアナは火打ち石を用意していたが、

王妃の命令に従って爆弾投下は中止した。


「それじゃあ何を落とせばいいですか〜〜!?」


「何も落とさなくて結構です!!

 それならおとなしく捕まった方がまだマシです!!」


「どうして捕まりそうなんですか〜〜!?」


「それはわたくしが魔女…………えっ?」


囲まれている理由を知らない?

先程のやり取りを見ていない?

石の魔女だとはバレていない?


イルミナはこのチャンスに全てを賭けた。


「……この者たちは勘違いをしているのです!!

 わたくしはあのエルフが放った魔法を弾き返しただけなのに、

 それを、こちらから攻撃を仕掛けたように見えてしまったのです!!」


やや苦しいが、取っ掛かりとしては悪くない。


「なっ……!

 この期に及んで、なんて嘘をつくんですか!

 わたしは断じて魔法なんて使ってません!」


当然、ハーフエルフは反論する。


だが発言の真偽などどうでもいい。

どうせ証明する手段は無いのだから。


この勝負、相手を疑わせた方の勝ちだ。


「先程の戦いで、民家の壁に吹き飛ばされた騎士がいたはずです

 彼らに尋ねてみるといいでしょう、『攻撃が見えていたか』と」


団長が石になった今、帝国騎士たちは決断できずにいた。


王妃への疑いは晴れていないが、仮にも王家の一員なのだ。

確実に魔女だと裏付けが取れるまでは、勝手に動かない方がいいのではないか。

もし魔女ではなかったとしたら、後々外交問題に発展してしまうかもしれない。


迷った彼らは王妃に言われた通りに動き、重傷を負った仲間に確認を取った。


「確認してみたところ、『見えない攻撃を受けた』とのことです

 しかしながら、それは風を操る魔法だったのではないかと……」


このタイミングで、イルミナはカードを切った。


「いえ、それは“魔法隠しの幻術”と呼ばれる技術です

 わたくしはこの10年間、魔女を倒すために石像にされたふりを続け、

 その幻術や呪いの霧についての研究をしていたのです

 別荘に大量の魔術書があるのは全てその研究のためです、ええ

 あの屋敷に禁術の写本があったとしても、なんらおかしくはありません」


王妃の言葉には説得力があり、帝国騎士たちは揺らいだ。

怪しいエルフを追ってきた理由として納得できるし、

防御策があるからこそ紫の霧の発生地点から歩いてこれたのだろう。

弾き返した魔法がたまたま団長に当たってしまっただけなのだろう。


形成逆転し、帝国騎士たちは再びエルフを取り囲んだ。



「王妃様〜〜〜っ!!

 どうして石像のふりをする必要があったんですか〜〜!?」



そして余計な一言が入り、イルミナは小さく舌打ちした。


帝国騎士たちは迷った。


迷った末に出した結論は「どっちも怪しい」で、

二手に分かれて王妃とエルフを取り囲んだ。


今度こそ終わった。




放心するイルミナの耳に、何かの音が入ってくる。


それは小気味良いリズムを刻みながら近づいてゆき、

その方向に立っていた帝国騎士たちは身の危険を感じ、

急いで左右に散らばり、音の主に道を開けた。


「駆けつけるのが遅くなり、誠に申し訳ございません!

 親衛騎士キリエ、只今参上(つかまつ)りました!

 さあ、王妃様! 私の背にお乗りください!」


その正体は馬人の足音だった。


馬の移動力に人間の知性を兼ね備える、

願ってもなかった大当たりの援軍。


この土壇場で駆けつけてくれたのは嬉しいが、

あの無能な鳥人と同類でないことを祈るばかりだ。


いや、既にその片鱗はある。


乗れと言われても、こちらの下半身は蛇なのだ。

馬の背に跨ることなど不可能であり、

乗馬には特殊な方法を取る必要がある。


しかしまあ、その方法を使えば乗ることはできる。

可能ではあるが、その、なんだ、恥ずかしい。


窮地に追い詰められたイルミナは選択を迫られ、

魔女として処刑されるリスクと天秤にかけた結果、

馬人キリエの背に乗って脱出する道を選んだ。


そしてイルミナはキリエの側面から飛びつき、

干された布団のように屈辱的な体勢でしがみつき、

まんまとその場から逃げ(おお)すことに成功した。




残された帝国騎士たちは、何を信じればいいのかわからなくなった。


やましいことが無ければ身の潔白を訴えればいいのに、王妃は逃げ出した。

いや、武器を持った男たちに囲まれて怯えてしまっただけかもしれない。

それともエルフの言う通り、彼女が石の魔女だから逃げたのかもしれない。


そんな彼らの様子を見て、諸悪の根源はほくそ笑んだ。


「皆様、何を迷う必要がありますか?

 これではっきりしたでしょう

 わたしの言った通り、あの女こそが石の魔女なのです

 やましいことがあるからこそ、この場から逃げ出したのです」


帝国騎士たちはエルフの言葉に耳を貸し、王妃に不信感を抱いた。


この勝負、相手を疑わせた方の勝ちだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ