表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
21/150

嵐に吹く3

石の迷宮から出てきた3人組の冒険者を、

全身黒ずくめの甲冑で覆った集団が取り囲んだ。


異国からやってきた冒険者である彼らでも、

それが大陸最強と噂される黒騎士団だとすぐに察しがついた。


「我々はある人物を探している!

 おい、そこのエルフ! 名を申せ!」


突然怖い人たちに囲まれ、威圧的な態度を取られたサロメは怯え、

自分がハーフエルフのサロメであると正直に答えた。

すると黒騎士たちはざわつき、すぐさま武器を取り、刃を向けてきた。


何がなんだかわからない状況にサロメは泣きそうになり、実際少し泣いた。


「おいおいおい!

 突然なんなんだテメーラは!

 騎士ならまずそっちから名乗れよ!

 礼儀がなってないんじゃねえのか!? ええっ!?」


見兼ねたニックが声を震わせながら啖呵を切った。

ブレイズも只事ではないと察し、足を引きずりながら2人の前へと躍り出た。


あわや戦闘開始かという緊張感の中、

後方で見守っていた白髪の紳士が武器を下ろすよう命じ、

黒騎士たちは整然とした動きでそれに従った。


「たしかにお主の言う通り、少々無礼が過ぎたかもしれんな

 こやつらは我がミルドール王国が誇る最強の黒騎士団の面々だ

 そして余こそは国王、名をレオンハルトと申す これで良いかな?」


その堂々たる立ち振る舞いに、彼が王族であることに疑いは無かった。


しかしそれよりも、なぜ自分たちが刃を向けられねばならないのか、

なぜ大事な仲間が泣かされているのか、そちらの疑問は全く解消されていない。


尚も反抗的な目を向けるゴブリンとオークに苛立ち、

国王は再び武器を取るよう黒騎士たちに命じ、

3人の冒険者は()(すべ)もなく捕らえられ、どこかへ連れ去られた。




そこは慰霊の(もり)と呼ばれ、

かつて王国と帝国の間に起きた300年に亘る戦争で

犠牲となった者たちの魂を鎮める、神聖な場所であった。


年に一度開催される“鎮魂祭”の時期以外は立ち入り厳禁とされており、

それはたとえ王族であろうとも例外は認められていないが、

その取り決めは国王の強権行使により破られていた。


黒騎士団の代わりとしてミルデオン城には王女の親衛騎士団を配置し、

しばらく野外演習で不在になることだけ伝えておいた。

あのお遊び騎士団が、我らの居場所を突き止めることなど不可能だろう。

そんな(おご)りが、最強の黒騎士団の中にはあった。


それはさておき、サロメは数日も繰り返し同じ質問をされ、

暴力こそ受けてはいないが、軟禁生活で精神的に参っていた。


いっそのこと彼らの望む答えを言ってやろうかとも考えたが、

10年前といえば自分はまだ5歳だ。

単身で見知らぬ大陸へ渡り、一国の王妃を騙すなどありえない。

あの頃の自分はハープの練習に勤しんでいたことを思い出し、

それを必死に伝えたが、誰も彼女の言葉を信じようとはしなかった。


国王も王妃も、真実などどうでもよかったのだ。


あの頃の王妃は正気を失っており、件のハーフエルフの顔も名前も覚えていない。

国王としては条件の合いそうな人物に罪をなすりつけられれば、それでいい。


無実のサロメは追い詰められていたが、決して嘘はつかなかった。


必死に自分を庇ってくれた仲間のことを思うと、

別室で酷い目に遭っているであろう仲間のことを思うと、

ただ真実を話すことだけが最善の方法であるかのように思えた。


いつまでも強情な態度を貫くサロメに痺れを切らし、

王妃はつい感情のままに暴走し、再び禁術を発動させてしまった。


そして慰霊の杜の上空には紫の雲が出現し、

それは霧となり、ミルドール王国全域を包み込んだ。




国王や黒騎士団、捕らえた冒険者たちが石化し、

イルミナは愕然としたが、新たな発見もあった。


自分は石になっていない。


おそらく一度石化したことにより耐性がついたのだ。

今まで石化した状態から復活した者などいないので、

それは石の魔女のみが知る、隠された仕様だった。


そして石像となったサロメの顔をまじまじと眺めると、

あの時のハーフエルフとは別人であることに気がついた。


尋問する中で彼女は、他にも女エルフがいることを告げていた。

もしかしたら、その女こそが自分を騙した張本人かもしれない。


イルミナは復讐を誓い、石の迷宮を目指した。




しかし、入ってすぐに引き返した。


降り注ぐ石の雨にどう対処すればいいのかわからず、

奥へ進むには誰かの助けが必要だと感じた。

だが、どこを探しても人の姿は無く、あるのは石像だけだった。


そこで彼女は、城に結界が張ってあることを思い出した。

前回は結界の中にいる者たちを石化させてしまったが、

今回は逆に、それにより守られたかもしれない。


無事な者がいることを願い、彼女は城へ向かおうとした。


そんな折、迷宮から何者かの叫び声が聞こえ、

イルミナは慌てて建物の陰に隠れて様子を窺った。


「バカ!! アホ!! うんこ!!」


あまりに幼稚な罵倒に眉をしかめたが、その声には聞き覚えがあった。


しばらく迷宮の入り口を凝視していると中から騎士と兵士が現れ、

最後に出てきた竜人の少女は妙な盾を担いでいた。


それは縄で縛られており、その内側から例の叫び声が発せられている。

竜人の少女がその盾を雑に投げ捨てると、そこには宿敵の姿があった。


見間違えるはずがない。


あの時のハーフエルフだ。


イルミナは(たかぶ)る感情のままに禁術を発動させ、そして失敗した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ