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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
19/150

嵐に吹く1

蛇人の公爵令嬢イルミナは生まれつき美貌に恵まれ、

初めての舞踏会で王子と出会い、二人は恋に落ちた。


やがて国王と王妃になった二人は国民から愛され、

父譲りの聡明な息子と、母譲りの美しい娘を授かり、

何不自由のない幸せな日々を送っていた。


そんなある日、国王の放った一言が全てを変えた。


「お、白髪(しらが)発見〜」


王妃イルミナは打ちひしがれた。

かつて絶世の美女と呼ばれた自分でさえも、

老化という自然の摂理には勝てないことを悟った。


国王には妻を傷付けるつもりなど無かったのだろう。

朝の挨拶ついでに発した他愛無い一言であるかのように、

呑気に鼻歌を口ずさみながら髭の手入れに取り掛かる。


イルミナは悔しくてたまらなかった。

白髪自体はいずれ自分自身で気づいた事実であろうが、

夫の無神経な態度に腹が立ち、二人は初めての夫婦喧嘩をした。


別居してからの3年間、イルミナは従者をこき使い、

古今東西の魔術や錬金術に関する書物を集めさせ、

秘術が眠っていると噂される土地に送り込むなどして

若さと美しさを取り戻す方法を探し回らせた。


そしてとうとう従者の一人が、ある少女を連れて帰ってきた。


彼女はエルフの里を追い出されたハーフエルフらしく、

世にも珍しい魔術書をなぜか都合良く持ち歩いていた。

それは“禁断の書”と呼ばれ、エルフの里に伝わる秘宝だった。

古代エルフ語で綴られており、彼女も全ては解読できていないらしい。


旅先で困らないようにと長老から渡されたと言うが、

いまいち信用できる話ではなかった。

しかしそれでも書物の内容には興味があり、

イルミナは目的の魔法が存在するのかを尋ねた。


ハーフエルフは答えた。


「ええ、もちろんありますとも

 それは“永遠の美”を実現できる、

 とても素晴らしい魔法でございます」


聞けばその魔法は蛇人種族にしか扱えない特別な術式であり、

数多(あまた)の権力者たちが追い求めた“不老不死”を叶えるものだという。

胡散臭い話だが、イルミナは加齢に対する焦りのあまり正気を失っていた。


ハーフエルフの言い値でその魔法を教わり、

言われるがまま城に2種類の結界を用意した。

なぜ結界が必要なのか、特に疑問は抱かなかった。

禁断の魔法なのだ。何かしらのリスクがあるのだろう。


それから数日後、王妃イルミナは3年ぶりに国王と対面し、

急遽、晩餐会を開きたいという旨を告げた。


国王はその申し出を喜んで受け入れた。


この3年間、妻の住む別荘へ行っても追い返されるばかりで、

完全に愛想を尽かされてしまったのだと思い込んでいた。

そんな彼女の方から歩み寄り、要望を伝えてきたのだ。

そもそも喧嘩の原因を理解していないが、もう許されたのだろう。


表向き王妃は体調不良で療養中ということになっていたので、

その快気祝いなら、突然の夜会でも招待客は納得するだろう。




そして晩餐会当日、ミルデオン城は大勢の人々で賑わっていた。

イルミナの提案により誰でも自由に参加できる形式で開催し、

貴族も平民もその身分を忘れて心ゆくまで楽しみ、王妃の快復を祝った。


イルミナには人を集める必要があった。


ハーフエルフが言うには、例の魔法は他者の生気を吸い取る代物であり、

吸い取る対象が多ければ多いほど若返り、美肌効果が増大するのだそうだ。

そして更に、楽しい感情の状態であるほど脂肪燃焼効果が促進するので、

相手を怖がらせないように“魔法隠しの幻術”も有料で教えてもらった。


晩餐会はつつがなく進行し、そろそろ日付が変わろうかという時刻、

いよいよ宴もたけなわといったところでイルミナは動いた。


「あなた、子供たちを屋敷まで送ってくださるかしら?

 いつもならもう床に就いている時間でしてよ」


言われた国王が子供たちに目を向けると、

今にも寝落ちしそうなのを懸命に我慢している様子だった。

久しぶりに会う母と、もっと一緒に過ごしたいのだろう。

国王はまだ頑張ろうとする子供たちを言い聞かせ、会場を後にした。


愛する家族が結界の外へ出たのを確認し、

全ての準備が整ったイルミナは禁術を発動させた。


するとたちまちミルデオン城内に紫の霧が充満したが、

魔法隠しの幻術により、それを観測できる者は誰もいなかった。


やがて霧は晴れ、そこに人の姿は無く、あるのは石像だけになった。


そして、石の魔女イルミナは最初の被害者となった。




地下室で待機していたハーフエルフはミスを犯した。


石になった者たちから金目の物を頂戴するつもりだったが、

衣服や装飾品、手にした荷物なども一緒に石化してしまったのだ。


美に執着するカモを言葉巧みに騙せたのに、これでは計画が台無しだ。


いや、完全に騙したわけではない。

精巧な彫刻のような美しさを手に入れ、永遠の時を生きられるのだ。

それこそ文字通り、永遠の美というやつだ。そうに違いない。


なんの収穫も無いまま城を去るのも癪なので、

価値のわからない陶器や宝石などを適当に掻き集め、

そのハーフエルフはミルドール王国から姿を消した。

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