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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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託されし者4

アリサは考えた。


今まで考えるのは誰かの役目だったが、

そうも言っていられない状況だ。


自分が盾役になればあの程度の攻撃はなんともないが、

もう味方が1人も残っていないのだ。

サロメを探し出したところで協力を得られるわけがないし、

あの邪悪なハーフエルフに借りを作るのは絶対に嫌だ。


石の滝エリアまでの順路図は作成できたが距離が短く、

歩いて確認してみたが、石の薔薇は落ちていなかった。

たしかコノハが拾った場所はもっと奥の方だったはずだ。


アリサはチーズを一口齧り、残りの食料に目をやった。

節約すれば10日以上は持ちそうだったものの、

つい我慢できずに食べ過ぎて、あと3日分しかない。


最後のチーズを味わいながら頭を悩ませていると、

素朴な疑問が浮かんできた。


「石のうんこ……」


もとい石の薔薇。

ストーンビーストが()()()レアアイテム。


なんで落とす?どこから落とす?

体内で勝手に発生する物なのか?

それとも何かを食べているのか?

走り続けながらどうやって?


アリサは閃いた。



「──ストーンスライム!!」



アリサは震えた。


この推理には自信がある。


ストーンビーストは、魔物は、真似をしているのだ。

食事と排泄。動物にとって必要な生命維持活動を。

餌は勝手に降ってくるので立ち止まる必要は無い。


やけに回復力が高い理由がわかった。

あのフロアの半分は、ヤツの補給区間なのだ。

どうりでずっと走っていられるわけだ。


とにかく次にやることは決まった。


「たんまり食わせてモリモリ出してもらいましょうかねえ!!」


言い方は少し汚いが。






──第2キャンプ、時刻はたぶん夜。


四肢を捥いだストーンビーストが2匹、

四肢を捥いだ石の兵隊が10匹、

そしてストーンスライムが200匹。


アリサは違う種類の餌を用意し、実験を開始した。


まずはデカブツの処理に取り掛かった。

深層に石の兵隊は出没しないが、果たして餌になるのだろうか。

見た感じスライムより腹が膨れそうだし、栄養もありそうだ。


しかし、いくら待てども一向に食べようとしない。

無理矢理口に押し込んでもすぐに吐き出してしまう。

こいつらは餌にならない。アリサは石の兵隊たちを粉砕した。


続いてストーンスライム。

最初の階層から100匹、深層から100匹を調達した。

わざわざ違う場所から持ってきたのには理由がある。


もう嫌というほど体感してきたので、

この2種類は違う魔物だと認識している。

見た目こそ同じだが、深層産の方が微妙に重い。

それだけ中身が詰まっている証拠だ。

結果に影響するかもしれない。


餌の違いがもたらす影響はすぐ(あらわ)になった。

重いスライムを振り分けられたビーストはガツガツと平らげ、

もう一方のビーストは物欲しそうにその光景をじっと見つめている。

よほど好物なのだろう。目の前の軽いスライムには興味が無いようだ。


実験は終了、ビーストには深層産スライムを食わせればいい。

早計かもしれないが、とりあえずはこれでいい。

アリサは学者ではないし、時間(食料)が無いのだ。




両方のビーストに餌を30匹ほど与えたあたりで異変は起きた。


あれだけ美味しそうに食べていたのに、急に食欲が失せたのだ。

そして全身をブルブルと震わせ、とうとうアレを落としたのだ。



石の薔薇。



出来立てほやほやで蹄の跡は無く、硬めの粘土にしか見えないが、

ともあれアリサはやり遂げたのだ。


自分の頭で考え、気づき、試し、実行し、結果を出したのだ。


「……ぃぃぃよっしゃあああああぁぁぁっ!!!」






──それから2日、アリサは石の薔薇の生産作業に従事した。


どうも排泄回数には制限があり、3回出すと死ぬようだ。

大体30匹の深層産スライムを与えれば1回排泄するので、

ビースト1匹あたり100匹の餌を用意しておけば問題ない。


ビーストを捕獲して四肢を切り落とし、

石の滝でスライムを調達して食わせる。


その作業を延々と繰り返し、テントの中は石の薔薇で一杯になった。


アリサは一度失敗し、テントが破れて素材が大量に転がり、

そのまま床に吸収されて迷宮の養分と化してしまった。


なので現場に残っていた鎧や盾などを拝借し、テントを補強した。

あとはこのテントを引きずって帰ればいいだけだ。

だいぶ重いが、アリサの怪力ならば不可能ではない。




道中の魔物はもはや敵ではない。


斧を握るまでもなく、拳で石の兵隊を粉砕し、

時にはテントを振り回して道を切り拓いた。


すっかりお馴染みとなった石の雨ゾーンはさすがに盾を使ったが、

石の滝を経験した後だと生ぬるい攻撃にしか感じられなかった。


アリサほど石の迷宮に適応した冒険者はおそらく他にいないだろう。


そして、


確たる自信と大量の素材を手土産に、地上へと帰還したアリサ。

空は青く、頬を撫でる風と積もった雪が冬を思い出させる。


「んんん……っ!?」


アリサは目を疑い、思わず唸った。

そこにあるものが本物かどうか確かめずにはいられなかった。


……間違いない、足跡だ。

それも子供のサイズと思われる。

他に足跡は見当たらない。1人だ。


さすがにこれは放っておけない。


アリサは荷物をほっぽり出して足跡を追い、

冒険者ギルド、食堂、酒場……と駆け回り、

最終的に辿り着いたのはミルデオン城だった。

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