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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
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神話

「──昔々、“石の魔女”がかけた呪いにより、

 ミルドール王国の民は次々と石に変えられてしまいました

 王様は世界中から集めた冒険者と共に、魔女に対抗しました

 そして冒険者たちは多くの犠牲を払い、魔女に勝利しました

 しかし、石に変えられた人々は今もそのままです」


これは、“魔女物語”の出だしとして有名な一文である。

作者によっては真の魔女を倒してハッピーエンドだったり、

闇の帝王によって王国が滅亡するバッドエンドだったりするが、

とにかくこの出だしの部分は一貫しているのが特徴だ。


その舞台となったのが、このミルドール島である。

“石の広場”と呼ばれる場所には無数の石像が整列しており、

それはまるで人々が生きたまま石にされたような精巧さだった。

地元民によると、それらは全て“石の魔女”の呪いによる被害者であり、

彼らはその石像を生きている者として丁重に扱っていた。


まったく、子供騙しもいいところだ。

人を石に変える呪いなど存在しない。

彼らはこれほど優れた文明を持っているのに、

なぜそんな非科学的な迷信を信じているのだろうか。


「どうやらその顔は信じてないようですね

 まあ、外からいらっしゃった方なら当然ですよね

 ですが、その伝説は私たちにとっては真実なのです

 そして、我が一族にとってこれから行なわれる復活祭は

 とても重要な意味を持っています」


「重要な意味、と言いますと……?」


「ええ、この復活祭は我が一族の悲願でして……

 その言葉通り、あるものを復活させようとしているのですよ」


「その“あるもの”とは一体……?」


「ふふっ、それは見てのお楽しみです」


「肝心な部分で言いはぐらかさないでくださいよ」






──それから数日後、復活祭が開催された。


オープニングを飾ったのは“バンド”と呼ばれる楽団の形態であり、

特筆すべきは彼らの人数が5人しかいなかったことだ。

そんな少ない人数で会場を盛り上げることができるのか不安だったが、

またしても我々の予想は裏切られた。


彼らは“アンプ”という装置で“エレキギター”の音を増幅し、

会場全体に演奏が響き渡り、たちまち観客を熱狂の渦に巻き込んだのだ。

この感動は文章だけでは伝わらないだろう。

是非、撮影した映像を見てほしい。


彼らの演奏が終わると光の演出が始まり……いや、これも映像を見ればわかる。

その後に行われた余興のどれもが初めて目にする新鮮な体験であり、

我々は取材を忘れてすっかりその祭りの虜になっていた。




復活祭はつつがなく進行し、中盤に差し掛かった頃に

モンジロー氏が私に耳打ちをした。


「いよいよですよ」


その言葉でようやく私は思い出した。

我々は記事を書くために呼ばれたのだと。


壇上に運ばれたのは、頭に角が生えた少年の像だ。

彼の種族は牛人族(ミノタウロス)だろうか?

だが、それにしては骨格が物足りない気がする。

製作者は何を思ってあんな趣味の悪い物を作ったのだろう。


続いて登場したのは……あの少女はなんだ?

彼女にも石像の少年とよく似た形の角が生えているが、

リザードマンのように鱗で覆われた尻尾を持ち合わせていた。

異種族のハイブリッドなど、この世には存在しないはずだ。


「あの子が本日の主役で、彼女は絶滅した竜人族(ドラゴニュート)の生き残りなんですよ

 ちなみにあの石像の少年も同じ種族です」


流石にそれはない。

竜人族の生き残りなんているわけがない。

……と言いたいところだが、これまで触れてきた超文明の数々を思い返せば、

それも真実なのかもしれないと受け入れることができた。



その少女の傍らには猫耳の獣人、エルフ、やけに足の短い少女の姿があったが、

何よりも私の興味を引いたのは物騒な形をした鉄塊だった。


「あの道具はたしか……

 斧…………ですか?」


「ええ、よく知ってますね

 チェーンソーが発明されて以来、誰にも使われなくなった農具です

 彼女は斧の名手でして、これからあの少年の角を切り落とそうとしています」


「角を……?

 そんなことをして一体なんの意味があるんですか?」


モンジロー氏はニヤリと笑った。

その質問を待っていたのだろう。


「有名なおとぎ話、“魔女物語”の終わり方には色々ありますが、

 一番真実に近いのは“王国が魔女に滅ぼされたエンド”なんです

 ……ですが、この物語はそこで終わりではないんですよ

 当時の人々は“千年竜の角”で治療薬を作ろうとしましたが、

 それでは魔女に石化された者たちを全員救えないと結論づけました

 なので、“万年竜の角”ならばどうかと考えたんですねぇ」


「万年竜……

 竜人族の生き残り…………

 つまり、あの少年は……!」


「ええ、はい

 彼は1万年生きた竜なんですよ

 我が一族は代々、先祖の言いつけに従いあの石像を守ってきました

 それもこれも全ては今日この日のため……

 ミルドール王国復活のために…………!」



私は言葉を忘れた。

この島に来る以前の私なら「くだらない、馬鹿馬鹿しい」と鼻で笑っただろう。

だが、もう疑いはしない。モンジロー氏は真実を口にしている。


“魔女物語”はただのおとぎ話ではない。

伝説のミルドール王国は実在したのだ。


我々がこれから目撃するのは奇跡……いや、きっとそれ以上のものだろう。

その瞬間に立ち会えるとは、私はなんと幸運だろうか。

出来の悪い後輩に与えられた罰に巻き込まれての取材だったが、

彼女のおかげでここに来れたのだと思うと複雑な気分になる。



それはさておき、復活祭の主役が斧を手に取ると会場中が静まり返った。

我々も沈黙した。

打ち合わせなどしていないのに全員が同じだった。

皆、彼女から目が離せないのだ。




そして、少女は──

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