表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
146/150

陽だまり7

「キリエ!!

 助かりたければ急いでこっちへ来い!!

 私が触れているものは“擬態”の効果を得られる!!

 この鏡もそうやって持ち込んだ物だ!!」


キリエは姿無きセシルからの忠告に従い、

鏡のそばまで駆け寄って彼女のいる場所を探し始めた。


いきなり尻尾を掴まれたキリエは動揺する。

だが、それはセシルの手だと理解している。

理解してはいるが、少し不愉快だ。

掴める場所は他にもあっただろうに、なぜ尻尾……。


しかし、文句を言っていられる状況ではない。

上空に浮かぶ巨大な目玉がゴゴゴと震え出し、

今にも最終攻撃が繰り出されようとしていた。



「ヴェエエエエエエエエエエェェェェェイィィッッッ!!!!!!!」



そしてフレデリカは汚く濁った金切り声を発し、

巨大な目玉からは滅びの光が放たれ、辺り一面が紫色に染まった。




地獄だ。

現実とは思えない。

庭園の外から兵士たちの悲痛な叫び声が届く。

きっとここだけでは済まない。

距離と大きさから計算して、あの光は大陸全体に被害をもたらすだろう。

それがわかっていてもリュータローには対抗策が思いつかなかった。

同じくキリエとセシルにもこの状況を打開する妙案は存在しない。

彼らはただ無力で、祈る以外の行動はできなかった。






フレデリカの攻撃は止まらない。

巨大な目玉は輝き続ける。

魔王の意識が途絶えるまで。











──やがて邪悪な球体は跡形も無く消え去り、

その代わりに暖かい太陽の光が彼らを照らした。


陽だまりの庭園の名にふさわしく、

茶会の円卓には穏やかな陽だまりが出来上がり、

そこには一体の石像が立っていた。


彼女の瞳から流れているのは、一体なんの涙だろうか。

恐怖。悔しさ。それとも罪の意識でも感じていたのだろうか。


もう彼女の心情を推し量ることはできない。



フレデリカは石化したのだから。



「……やったか!?」


第一声はセシルだった。

安心してほしい。彼女たちはやり遂げたのだ。


「これで……終わったのか?」


キリエにもまだ実感が湧いてこない様子だ。

戦いが終わったという事実がピンと来ないのだろう。


「僕たち、勝ったん……ですよね…………?」


やはりリュータローも状況の把握には時間が必要なようだ。



彼らはフレデリカとの戦いに勝利した。



しばらくしてその事実に辿り着いた3人は歓喜しそうになったが、

どうしても心に引っ掛かることがあり、まずは庭園の外へと向かった。




そして、やはりダメだった。

とても喜べる状況ではなかった。


魔王フレデリカは最後にとんでもない置き土産を残していった。


庭園を守っていた兵士たちは空を見上げたまま石像と化し、

その全てが恐怖に顔を歪めていた。

彼らは皆、これから自分の身に何が起きるかをわかっていた。

滅びの光から目を離すことを許されず、最悪の未来を想像させられたのだ。

やけに照射時間が長かったのはそういう理由だろう。


「なんて酷い……」


それ以外の言葉は出なかった。



キリエとセシルは手分けして生存者を探したが収穫は無かった。

近くの民家を調べた結果、屋内にいた者たちまで石化していた。


視線を合わさずとも光を見ただけでアウトだったのだろうか。

だが、それだとキリエたちも石化していたはずだ。

それともあの目玉には透視能力でもあったのだろうか。


いくら考えても答えは出ない。

ただひとつはっきりしているのは、ミルドール王国が滅亡したという事実だ。


いや、違う。



大陸全土の国々が滅びたのだ。



「は、ははは……

 アハハハハハッ!」


セシルは晴天を仰いで笑っている。

無論、楽しくてそうしているのではない。

彼女は残酷な現実を受け入れたくないのだ。


キリエも同じ気持ちであったが笑えなかった。

真面目な性格だからという理由ではない。

彼女には今、他の残酷な現実が重くのしかかっていた。


文字通り、背中が重い。

リュータローの石化が進行しているのである。


「……あとどれくらい持ちそうなんだ?」


「ん〜、現時点でお腹の辺りまで来てるので、

 このペースだと夕方には完全に石になってますね

 ……あ、そうだ

 上半身が動くうちに手紙を残しておきたいので、

 何か書く物を用意してもらえますか?」


「ああ、もちろんだとも!」




キリエは壊れかけのセシルの頬を叩いて正気にさせ、

2人は迎賓館や民家からありったけの筆記用具を掻き集めた。


「今更なんだが……

 これではまるで手紙というより、本でも作ろうとしているみたいだ

 そんなに大量の紙が必要だったのか? というか間に合うのか?」


「本ですか……まあそんなところです

 錬金術は専門分野ではないので確証はありませんが、

 治療薬開発に役立ちそうなヒントをいくつか発見したので、

 それをまとめておきたいんですよ

 呪いを受けたおかげで色々とわかったことがあるんです

 できれば夕方までに理論の完成を間に合わせたいですね〜」


キリエとセシルは思わず顔を見合わせる。

両者共、先程までの絶望の表情ではない。

それとは反対の感情──希望が瞳に宿っていた。


「ということで僕は執筆に集中したいので、

 お二人は生存者の捜索を再開するといいでしょう

 これは僕の予想ですが、光の届かない場所なら無事かもしれませんよ」


「君がそう言うのなら、きっとその通りなんだろうな

 リュータロー君

 君がいてくれて本当に助かったよ ありがとう

 そして……戦いに巻き込んでしまってすまない

 治療薬が完成したら、まずは君を復活させると約束しよう」


「いや、それはダメです」


「ええぇ……???」


「これもまだ理論構築中なので確証はありませんが、

 僕を復活させるタイミングはすごく重要になります

 今はちょっと説明してる時間がもったいないので、

 その理由や然るべき時期に関しても手紙に残しておきますね」


「あ、あぁ わかった……」


やはり天才少年の考えていることはわからない。

キリエは調子を狂わせられるも、少しだけ慣れてきた。

どうせ凡人には理解できない。

だったら彼の言動についてあれこれ考察するよりも、

今自分ができることに集中するべきだろう。


キリエとセシルは少年を残し、迎賓館を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ