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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
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立ち向かう者たち3

「おいおい、なんだよこれ……」


ジークトンネルを突き進む一行は、その不気味な光景に目を奪われる。


通路には何も無いが、玄室には大量の石像が敷き詰められており、

その中にはいくつか見覚えのある者もいた。


「あっ、こいつ……大臣だわ

 なんの担当だったかは忘れたけど……って、他にもいるぅ!

 あと侍女とか厨房の人とか、なんか城で見たことあるのばっか!」


「つーと、この部屋にあんのは城勤めの連中の石像ってわけか?

 どうりでミルデオン城の中がガラガラだったわけだ」


他の玄室には少年たちの石像が敷き詰められていた。

それも平民ではなく、全て貴族の少年たちだ。


「なんて酷いことを……

 散々おもちゃにされた挙句、こんな姿にされるなんて……

 そういえば最近、貴族たちが『息子が帰ってこない』って騒いでたな」


「王女様、昔は優しいお方だったのに……

 早く私たちの手で止めてあげないと……!」


一行は頷き、庭園を目指した。



そして、道中は何事も無く目的地まですんなりと辿り着いた。


この隠し通路は一刻も早く敵から逃げることだけを考えて作られたようで、

追手を撒くための複雑な迷路や、初見殺しの罠などは配置されていなかった。

その簡素な作りのおかげで、

夜が明ける前に敵の本拠地に足を踏み入れることができた。


なんともありがたい話である。

地図など持っていない彼らは方角を頼りに進み、

出口の場所もわからない状態で不安だったのだ。


それにしても夜。夜だ。

王女はまだ眠っている頃合いだ。

更に、側近のカチュアとジークはいない。

無防備な寝姿を魔封じの縄で縛り上げれば全てが終わる。


彼らは幸運だった。



天使の噴水から庭園に侵入した一行は、

王女がいるであろう中央区画の迎賓館を目指した。


この“庭園”はただの庭というわけではなく、

敷地全体の広さではミルデオン城を上回っている。

東西南北の区画毎にそれぞれコンセプトの違う植栽が育てられており、

中央は国賓をもてなすための区画で一般開放はされていない。

まあ、今は全ての区画が王女専用となっているが。


ちなみに彼らの出てきた天使の噴水は北の区画にあり、

彫刻や絵画などの展示物が多いので芸術肌の者たちに人気のエリアだ。

東西は定番のデートスポットとして知られており、

そして南には王女お気に入りの“陽だまりの庭”と呼ばれる場所がある。


ミモザは最終決戦を前にして、

在りし日の情景を思い浮かべていた。




──そこは陽だまりの庭。

まだ親衛騎士団が結成される以前の時代、

幼きフレデリカ王女は大勢の侍女を呼び集めてお茶会を開いていた。


「プリシラ、どうしたのですか?

 あなたの力はその程度ですか?

 アマンダとキリエに負けてもいいのですか?」


そこには大量の重りを背に乗せた、幼い馬人族の姿があった。

それも3人。名前は今、王女が呼んだ通りだ。


彼女たちは試されていた。

「同じ種族の侍女は2人もいらない」とのわがままにより、

能力の高い者だけを残そうと競争を強いられていたのだ。


馬人族に求められるのは文字通り馬力。

推進力。スタミナ。とにかく力強さを求められた。



プリシラは貴族の箱入り娘ゆえにか弱く、

王女が求める力強さとは無縁の存在であった。

既に競争を諦めた彼女は、座り込んで泣きじゃくっている。


アマンダも貴族の出だが、騎士の娘でもあったので

それなりに体を鍛えており、見るからに力強い存在であった。

他の2人を大きく突き放してゴールは目前だ。


そしてキリエ。

彼女は奉公に出された平民の娘で、

プリシラよりも先を行ってはいるが、特に力強さは感じられない。



そのままアマンダ優勢で終わるかと思われた競争は、


……その通りになった。



予想通りのつまらない展開に王女は呆れ果て、

競争に負けた2人にクビを宣告しようと近づいた。


が、まだ終わっていなかった。


もうアマンダがゴールしたというのに、キリエはまだ進み続けていた。

もう負けは確定しているのに、彼女はまだ諦めていなかったのだ。


その進み続ける姿勢に力強さを感じたのか、

王女はアマンダにクビを言い渡し、キリエを残したのだ。




──ミモザは頭を抱えた。


「おい、どうした姉ちゃん?

 こんな時に頭痛か?」


「あ、いや……

 どうせならもうちょっといい思い出を振り返りたかったな、って……」


「思い出ねえ……

 まあ、これから倒す相手が姫さんじゃあな

 もし辛いんだったら、あとは俺たちに任せてもいいんだぜ?」


「……いえ、大丈夫よ ありがとう

 ま、クソみたいな思い出のおかげで遠慮無くぶっ飛ばせるってもんよ

 さて、そんじゃ気張っていきましょうか!」


ミモザは再度覚悟を決め、一行は迎賓館の扉を開いた。

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