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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
135/150

立ち向かう者たち2

庭園へと続く隠し通路、通称“ジークトンネル”。

ニックの情報によれば“天使の噴水”に繋がっており、

庭園側はその天使像の向きをずらせば通路が現れる仕掛けらしい。


だが墓場側の入り口がどこにあるのか、

そしてどういうギミックで通路が現れるのかは不明だった。

それを探し当てるのにもう少し時間を要すると思われていたが、

仲間との合流前に、たった1人の少年が答えを導き出したのである。


「ヒントは墓石に刻まれた数字と、死者の頭文字にありました

 数字を追うと戦乱期の王家の人物の名が浮かび上がり──」


「あ、そういうのいいから

 それより、リューちゃんにまだできることって何よ?」


リュータローは少し悔しかった。

みんなに答え合わせを聞いてほしかったのだ。



「僕にできること、それは……“弾除け”です」



弾除け……あまりいい意味で使われる言葉ではない。

敵からの攻撃を一手に引き受けて味方を守る役割だ。


フレデリカ王女は非力だが凶悪な魔法を使用できる。

対してリュータローはその魔法を無効化できる。

相性は抜群だが、こちらにも大人としての意地がある。


「そんな危険な役割を子供に任せるわけがないでしょ

 アンタが竜人族で呪いに強いってことは知ってるけどさ、

 だからといって戦場には連れ出したくないのよ

 こっちから協力を求めたのは事実だけど、

 それはあくまでアンタの頭脳を頼りにしたかっただけなの

 料理人を目指してるんでしょ? 危険な真似はやめてちょうだい」


それは少年にとって新鮮な体験であった。


奴隷だった頃は毎日怒鳴られていたが、それとは違う。

自由の身となってからは優しい大人たちに囲まれて、

怒鳴られるどころか、いつもみんなが褒めてくれた。


ミモザは不機嫌そうだが、怒っているのではない。

彼女はただ少年の幸せのために厳しい態度を取っているだけだ。

少年がそれまでに出会った優しい大人たちと同じ思いなのだ。


少年は瞳を潤ませ、上目遣いで答えた。



「どうしても、だめ? ……ミモザおねえちゃん」



ミモザは思わずグッと来そうになる。


「うわ、ちょっ……

 どこで覚えた、そんな技術!?

 末恐ろしいわー! 将来有望だわー!

 でも、ダメなもんはダメ!

 ……キリエ! この子を本部まで送り届けて見張りなさい!」


「ダメかー」


「えっ、私ですか!?

 これから王女と対決するのでしょう!?

 親衛騎士として、この戦いを退くわけには参りません!」


キリエは元々、親衛騎士団の面子だけでどうにかしようと思っていたのだ。

最後の戦いを外部の者に任せ、自分は安全圏にいるなど恥ずべき行為だ。

……というのは建前で、

憎たらしいあの女の顔面に一発ぶち込んでやりたいと思っている。


「アンタが連れてきちゃったんだし、責任取んなさい!」


悔しい。

キリエは押しに負けてリュータローを連れてきてしまったことを後悔した。




──ジークトンネルにはミモザ、ニック、ブレイズ、サロメが入り、

キリエ、ネリ、リュータローは彼らを見送った後、

墓石を動かして隠し通路出現のギミックを元通りにした。


ネリが提案する。


「さて、私はこれから王子の救出に向かうのですが、

 もしよろしければキリエ様の力をお借りしても構いませんか?

 目的地まではそれなりに距離がありますので、

 馬人族のキリエ様が協力していただけると助かります」


「喜んで力をお貸ししたいところですが、

 そうするとリュータロー君を見張れなくなるので……」


「では、一緒に連れていきましょう」


「ええっ!?」


「私を運んだ後にリュータロー様を本部に送り届ければ、

 ミモザ様の言いつけを守らなかったことにはなりませんよ」


「それはそうかもしれませんが……

 王子の監禁場所には近衛兵団がいるかもしれないのでしょう?

 いくらジーク派の者たちと言えど、王女の手下には変わりありません

 そんな場所へ彼を連れていくのは危険なのでは?」


「彼らは騎士の身分ではなくなったとはいえ、

 その精神までは失われていないと信じています

 理由も無く女子供を傷付けるとは思えません

 それに、彼らと対面するのは私1人です

 目的地に着いた後はそのまま本部へ向かって結構です」


キリエはどうするか悩み、リュータローに目を向けた。


彼は嬉しそうな顔をしている。

夜更かしが楽しい、という理由ではないだろう。

この少年は誰かの役に立ちたいのだ。

王女討伐での役目はもう終わってしまったが、

王子救出ではまだ何かできることがあるかもしれない。

きっとそう考えているのだろう。


「では、目的地の近くまでなら……」


キリエが承諾し、リュータローは感謝を口にした。


「ありがとう、キリエおねえちゃん!」


キリエにはフィンという想い人がいるのに、

この笑顔には一瞬ドキッとさせられる。

さっきミモザが言ったように、末恐ろしい少年だ。


「ネリおねえちゃんも、ありがとう!」


「私に色仕掛けは通用しませんよ

 年下の男には興味がありませんので」


「ダメかー」

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