立ち向かう者たち1
ミモザは気絶したジークを水路から引き揚げ、
すぐさま脈拍や呼吸の確認を行なった。
まあ、とりあえず彼は生きている。
最強の男がこの程度で死ぬわけないとは予想していた。
ミモザは彼の腰から鍵束を取り上げ、
地下室の扉にぶら下がるゴツい錠前に1本ずつ試した。
1本目、2本目は違う。そして3本目で当たりを引いた。
さて、ニックたちは上手くやってくれただろうか。
彼らの作戦が成功していれば、部屋にいるのは……。
……よし、カチュアだ。
案の定、彼女はニックの作り話を信じ切っているようで、
騙されたとも知らずにベッドの下でゴソゴソとやっている。
彼女は今、存在しない秘密の酒蔵の入り口を探しているのだ。
「ねえ、カチュア!
ちょっと手伝ってくんない!?」
突然の呼び掛けに驚いた彼女は反射的に上半身を起こし、
思い切りベッドに頭をぶつけてしまった。
「ぐああああっ!
いきなり話しかけるな馬鹿者!
……って、貴様はミモザではないか!
どうしてこんな場所にいるのだ!」
「どうして、って言われてもねえ……
それよりこっち手伝ってよ!
アタシ1人じゃベッドまで運べないからさあ!」
「むむっ、ジーク殿の身に一体何があったのだ!」
「見てわかんない? すぐそこの水路で溺れたのよ、この人
命に別状は無いけど、とりあえず休ませないといけないわ」
詳しい事情を知らないカチュアでも、ジークが大変なのは理解できた。
酒蔵探しは一旦後回しだ。彼女はミモザと協力してジークをベッドまで運んだ。
「……一応さっき体調に問題無いのは確認したけど、
何があるかわかんないし、彼を見張っといてくれる?
アタシは他にやることがあって手が離せないからさ」
「むぅ、我に看病を押しつける気か!
貴様が見つけてきたのであろう!
最後まで責任を取らんか!」
「いや、だから……
国家存亡に関わる重大な任務があんのよ
とにかくお願いね!」
そう言い残し、ミモザはさっさと退散してしまった。
重大な任務……それならば仕方あるまい。
カチュアはジークに気をかけつつ、酒蔵探しを再開した。
ミモザは地下室の扉に鍵を掛けなかった。
忘れたわけではない。
もし本当にジークの身に何か起きてしまった場合、
カチュアが助けを呼びに行けるようにするためだ。
これはミモザの独断であり、仲間に話す気は無い。
壁補修の現場にミモザが到着し、ニックたちは興奮気味に出迎えた。
彼女が合流したということは、あのジークの討伐に成功したということだ。
しかも戦闘経験の無い素人がたった1人でだ。
「やあねえ、1人じゃないわよ〜
ウナギちゃんたちのおかげよ〜
強いし、美味しいし、もうホンット最高!」
後で回収して食べる気だ。
「……そんで、そっちはネリさんって言ったっけ?
今すぐ家に帰ってゆっくり休みたいだろうけど、
王女をとっちめるまでは我慢してもらえると助かるのよね
敵には、何事も無く順調だと思わせておきたいのよ」
「いえ、お構いなく
それより私にも協力させてください
皆様がフレデリカ王女の相手をしている間、
私はアンディ王子を救出いたします
おそらく私が適任でしょう」
「あら、随分と自信ありげね
何か策でもあるのかしら?」
「ええ、ジーク様を人質にします
王子の監禁場所を守っているであろう者たちは、
王女にではなく、ジーク様に忠誠を誓った元黒騎士団員かと思われます
彼らは団長の失墜により国を去ったと聞いておりますが、
新たに組織された近衛兵団の人員として招集された可能性が濃厚です
……そんな彼らの忠誠心を利用させていただくのが私の作戦です」
「人質って……
いや、まあ先に仕掛けてきたのは向こうだしねえ
でもなんだか正義の味方っぽくないというか……う〜ん」
「私は手段を選ばない女なので」
ネリが仲間に加わった!
──ニックたちは瓦礫を乗せた台車を引いて正門までやってきた。
門番の1人は熟睡しており、もう1人もだいぶウトウトとしていたが、
ガタゴトとうるさい音に起こされて不機嫌そうな顔をしていた。
「おい、どうしたんだ こんな真夜中に……
まさかこんな時間から作業を再開する気なのか?」
「へえ、それがですね
『今すぐ捨ててこい!』と急に言われましてね、
従わなかったら報酬減らされちまうんで……」
「ああ、カチュアさんか……
あの人は理不尽なところあるからなぁ」
門番は納得し、3人の台車が通れるように正門を開けた。
ニックたちは彼にお礼を言い、橋を渡ってそのまま歩き続きた。
彼らはもちろん仕事が目的で城を出たわけではない。
向かう先は廃材置き場ではなく、共同墓地だ。
瓦礫の中からミモザとネリが姿を現して台車から降り、
墓場で待機していたキリエとリュータローとの合流を果たす。
「って、リューちゃん連れてきちゃダメでしょ!
残る敵は1人だけとしても、相手は危険な魔女なのよ!?
禁断の書の解読とギルドの依頼書の偽造だけで、
もう充分に役立ってくれたでしょ!
あと、子供は帰って寝る時間!」
「すみません、ミモザお姉様
私も反対したのですが、どうしてもと言われまして……」
キリエを庇うように、件の少年が前に立つ。
「キリエさんを叱らないであげてください
これは僕の判断です 僕にはまだできることがあります
皆さんも知っての通り、僕は普通の子供ではありません
その証拠に、皆さんと合流するまでの間に
キリエさんだけでは隠し通路の入り口を発見することはできませんでした!」
庇ったのか……?