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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
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壁3

庭園の壁を補修した翌日、ニック、ブレイズ、サロメの3人は

ミルデオン城の正門から堂々と入っていった。

王女から直々、仕事の依頼を受けたのだ。

誰にも止められる理由は無い。


共有した情報通り、城内に人の気配は無かった。

それは知っていたが、反応しないのはあまりに不自然すぎるので

ニックは辺りをキョロキョロと見回しながら呟いた。


「なんだよ、やけに静かじゃねえか

 今日はみんな休みなのか?」


「むっ……!

 そ、そうだ!

 たまたま城の者が全員休みなのだ!

 余計なことは気にせず、貴様らは仕事に集中しろ!」


「へいへい……」



カチュアに案内され、一行は色違いの壁の前に辿り着いた。

そしてブレイズがロープとハンマーを持って上の階へ向かおうとするも、

やはり作業内容を理解していないであろうカチュアが引き止める。


「おい、貴様!

 作業場はここだと言っておろう!

 関係無い場所へ行くでない!」


「え、そんなこと言われても……

 まずはあの壁を破壊しなきゃならないんですよ

 内側から壊したら瓦礫(がれき)の回収が面倒なので、

 俺が上の階からぶら下がって、外側から叩くんです」


「むむむ……

 ならば仕方ないな!

 よかろう! 行って参れ!」



ブレイズが上階で準備する間、ニックとサロメは室内に瓦礫が飛び散らないように

分厚いシートを広げて防護幕を設置し、家具などはなるべく室外へ運び出し、

全ての準備が整ったことを確認後、ブレイズは慎重に窓から降下した。


サロメはブレイズ、ニック、最後に自分の順番で身体強化の魔法をかけ、

ニックと共に防護幕がずれないように押さえつけて待機した。


ドゴーン!ドゴーン!と轟音が鳴り響く。

ブレイズが作業に取り掛かったのだ。

その音が鳴る度にカチュアがビクリと体を震わせる。

絶対に安全とは言えないので彼女には下がっていてほしいが、

「見張りとして目を離すわけにはいかん!」と拒否された。

職務に忠実なのは結構だが、正直邪魔でしかない。




昼になり、一同は休憩を取った。

カチュアは無駄に反対したが、王女の許可を得ていると告げると口を閉じた。

余談だが彼女は昨日ニックたちに休憩を与えず、王女からお叱りを受けていた。


学習能力が無いのだ。


そんな彼女が、ある物を視界に入れて怒りを露わにした。


「おい、貴様!

 何を飲んでいる!

 昼間から酒とはいい度胸だな!」


ニックは持参したワインボトルに口をつけ、

カチュアに見せつけるようにその中身を飲んだ。

彼女が怒るのも無理はない。


それが本物の酒であれば、彼女が正しい。


「あ〜、いや

 つい先日、長年使ってた水筒が壊れちまいましてね

 代わりになる物がこれしか無かったんですわ

 紛らわしいけど、中身はただの水なんで安心してくだせえ

 心配なら確認してどうぞ」


そう言い、コップに注ぐ。


無色透明、無味無臭。

間違いなくただの水だ。


「むぅ……紛らわしい真似をするでない!」


「へへっ、すいやせんね」


この他愛無いやり取りにも意味はある。

ニックは、カチュアに“酒”を意識させたかったのだ。



「……そういや、この城の地下には秘密の酒蔵があって、

 先代国王が遺したオールドヴィンテージワインが眠ってるらしいな?

 専門家によれば『一口で天国を味わえる極上の逸品』らしいけど、

 今の国王はもう一生牢屋から出てこれないだろうし、

 このまま誰にも飲まれずに腐っちまうのはもったいねえ話だよなあ」


「むむ……!?

 そんな話は聞いたことが無いぞ!

 適当なことを言うでない!」


食いついた。


「あ〜、いやいや

 ただの噂話なんで本気で信じちゃいませんがね、

 もし実在するとしたら飲んでみたいよな〜って戯言でして

 ……でもまあ、どっちみち俺らみたいな下賤の者には関係無い話だよなあ

 なんせ、その秘密の酒蔵の入り口は王女様が住んでた地下室にあるらしいし」


「そっかあ、地下室にあるんじゃ無理だよなあ

 今は王女様が住んでないとはいえ、警備は厳重のままだろうし……」


「もしその話が本当だったら、

 私だったらなんとしてでも手に入れて独り占めしちゃうかも〜」


3人が存在しないお宝をネタに盛り上がる。

そんな彼らの策略にまんまと嵌り、カチュアの中ではある想いが生まれていた。


“飲んでみたい”と。




日が沈む頃、ニックは本日の作業終了を告げた。

そしてまたしても噛み付いたのは、ご存じ、カチュアだ。


「おい!

 まさかこのまま帰る気か!

 壁に穴が開いたままではないか!

 今日中に全部終わらせるのではないのか!」


「いやいやいや……

 今日中に全部とか無茶言わんでくださいよ

 王女様からは10日の期間を頂いてるし、

 こちらにも作業計画があるんですわ

 この部屋に泊まり込む許可も得てるんで、

 とりあえず今日のところは休ませてくだせえ」


「むぅ……

 姫様の許可があるなら仕方あるまい!

 だが、いいか! この部屋だけだぞ!

 城の中をウロチョロしてはならんぞ!」


「へいへい

 ……っと、その前に町でメシ食ってきますわ〜

 あと、仕事終わりの“酒”も飲んでくるんでよろしく」


「やっぱ一日の終わりは“酒”だよな〜」


「私は“ワイン”にしようかな〜」


いくら記憶力の無いカチュアでも、

これだけ“酒”だの“ワイン”だの言われれば思い出す。

地下室にあるという、秘密の酒蔵の入り口。

そして、先代国王の遺したオールドヴィンテージワインを。

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