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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
129/150

壁2

ニックとブレイズは壁の補修がてら、ジークの様子を観察した。


彼が釈放されたという情報は一部の者しか知らない。

ゆえに、庭園の外にいる兵士たちも彼の存在には気づいていない。


彼はミルデオン城と庭園を行き来し、今はここにいる。

兵士たちに知られずに通う方法があるのだ。


ジークは空を飛べない。

専用の出入り口、通称“ジークトンネル”があるとすれば地下だろう。



ニックたちは本業さながらの技術で壁の修理を進めた。


ニックがモルタルを撹拌、塗布し、

ブレイズがレンガを積み上げてゆく。


2人のコンビネーションにより、昼までに半分以上の補修が完了した。


冒険者の仕事は、ただ魔物と戦うだけが全てではない。

掃除や配達などの雑用、そして工事の手伝いなども含まれるのだ。

歴の長い彼らには、この程度の作業は朝飯前だった。



補修作業など見ていてもつまらなかったのだろう、王女は席を外していた。

話に聞いていた貴族の少年たちもそこにはいない。

別の場所へ連れ出して悪趣味な殴り合いでもさせているのだろうか。


そして、腕を組んで柱にもたれかかっていたジークが動いた。

ミモザの情報によれば、彼は地下室の囚人に食事を与える係らしい。

きっとこれからその役目を果たしに行くのだろう。


彼を追うべく、ニックも動き出す。

が、見張りのカチュアが邪魔をする。


「おい!

 そこのゴブリン!

 作業を放り出す気か!

 まだ壁は直っておらんではないか!」


「あ〜、いやいや 違いますって

 モルタルが少なくなってきたんで、そろそろ補充しないと」


「モル……?

 なんだそれは!」


「このドロドロした奴のことでしてね、

 レンガ同士をくっつけるのに必要なんですわ

 ……って、さっきからずっと作業見てたんならわかるだろ?」


「むむっ……!

 我は貴様らを見張っていたのであって、

 作業内容には興味が無い!」


「そうですかー

 ……んで、水もらいに行ってもいいっすかね?」


「ぐむむ、作業に必要ならば仕方あるまい!

 水場はこっちだ! ついて参れ!」


「へーい」



そして、ニックはあっさりと発見することができたのだ。



ジークトンネルを。



水場に案内されたニックは、ジークと目が合った。

彼は今まさに階段を降りようとしていたところで、

まずい場面を見られて驚愕の表情になっていた。


「さあ、ここが天使の噴水だ!

 帝国と戦争していた頃に作られたらしく、

 緊急時の隠し通路として利用されたらしい!

 今はジーク殿しか使っていないがな!

 たしか城の近くの墓場に繋がっていたはずだ!」


カチュアが誇らしげに紹介する。


ニックは冷や汗を掻いた。

よりによってジークの目の前で言うことはないだろう。

隠し通路なんて重要機密を知ってしまったのだ。

口封じに始末されてもおかしくない。


ジークは人差し指でこめかみをトントン叩き、少し考えた。

そして威圧感のある低い声で話しかけてきた。


「のう、ニックよ……

 お主に頼み事などできる立場ではないと承知しているが、

 この通路のことは秘密にしておいてくれぬか?

 要人の安全を守るために存在している通路なのだ

 知る者は少ない方がいい ……言っている意味はわかるな?」


「お、おう……

 わかったぜ 黙っててやるよ」


バラしたら消される。

そういうことだろう。


だが、この有益な情報は仲間と共有せねばならない。

彼との約束を破ることになるが、それも仕方のないことだ。




──壁の補修は完了した。

ジークトンネルの場所は判明したのだし、

いつまでも居残る必要は無く、後半は作業速度が上昇した。

だからといってニックたちは手を抜くことはせず、

速さと正確さを両立させて完璧に仕上げたのだ。


こうしてパメラが吹き飛ばされて壊れた壁は、

王家の庭園に相応しい姿として蘇った。

その出来栄えに王女はすっかり満足し、

2人には幾分か上乗せした報酬が支払われた。


あとは帰るだけだが、ニックはここでも罠を仕掛けようと試みた。


「そういや以前、お城の壁が壊れたことがあったでしょ?

 ほら、国王が世界征服企んで、それを止めようとしたアリサが

 吹き飛ばされた時に壊れた壁ですよ

 あそこを直した奴はあんまり腕の良い職人じゃなくってですねえ、

 『そこだけ色が違って見栄えが悪い』とか、

 『風が漏れて冬場は寒い』とか苦情を聞いたことがあるんすよねえ

 ついでですし、もしよかったら俺らに直させてくれやしませんかね?」


自分たちの仕事振りを存分に見せつけてからの提案。


これには王女の心が揺れ動く。

ミルデオン城には誰も立ち寄らせたくはないが、

たしかに例の壁だけ違う素材で補修され、少し気になっていた。

風が漏れるという話は初耳だが、彼らがそう言うのならそうなのだろう。


これから築き上げる新王国の居城になる場所なのだ。

完璧な状態でスタートするためにも、今のうちに補修するべきではないか。


「……ええ、ではあなた方にお任せいたしましょう

 ギルドに話を通すと手間がかかってしまうので、

 わたくし個人が直接あなた方を雇うという形でよろしいですか?」


「へへっ、それでお願いしやす!

 ……ああ、その作業にはもう1人増やしてもいいですかね?

 一度、外側から崩さなきゃならないんで人手が必要なんすよ」


「ええ、構いませんよ

 それではよろしくお願いいたします」


ニックたちは、ミルデオン城に正面から入れるようになった。

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