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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
128/150

壁1

銀騎士団員によるストライキ騒動の収束から10日が過ぎ、

本部の執務室には団長のミモザ、親衛騎士のキリエ、

冒険者のニック、ブレイズ、サロメ、

そして竜人族の少年リュータローの姿があった。


彼らはこれより最後の戦いに挑もうとしていた。



サロメの読みが当たり、リュータローは禁断の書の解読を頭の中で終えていた。


そこで判明したフレデリカ王女の能力は3つ。

“石化の瞳”、“支配の瞳”、“重力結界”。


“石化の瞳”は王妃が使用していた“石化の霧”の亜種で、

視線が合った者を石像に変えてしまう能力だ。

霧よりも効果範囲は狭いがそのぶん強力で、

耐性があるはずのタチアナが石化した理由として説明がつく。


“支配の瞳”はフィンを(たぶら)かした能力だろう。

これもまた視線を合わせるのが前提で、

この幻術にかかった者は命令に逆らうことができなくなる。

ある意味、最も恐れるべき呪いだろう。


そして“重力結界”。

ミルデオン城の地下でミモザが体験した能力だ。

体が鉛のように重くなり、それは時間経過と共に負荷が増してゆく。

警戒すべきは、それがただのまやかしではないという点だ。

実際に重量が増すので、対抗するにはそれなりの筋力が必要となる。



とりあえずラスボスの攻略法は確立した。


“目を見なければいい”。


理論上、王女と視線さえ合わせなければ呪いは防げる。

重力は気合いでゴリ押す。

体を鍛えていないミモザでも螺旋階段を昇降できたのだ。

負荷が増す前に魔封じの縄で縛ってしまえば、それで終わるはずだ。


以上だ。



リュータローがいれば王子救出は諦めてもいいのかと言われると、それは違う。

彼がいかに天才であっても、呪いに関する知識は王子の方が詳しいのだ。

アンディ王子はミルドール王国を救いたい一心で勉学に励み、

その半生を魔法の研究に捧げてきた男だ。


そんな彼が『ついに発見した』という何かを、

リュータローには見つけることができなかった。


彼らには決定的な差があった。


目的意識。

そして、培った経験の差が。






──魔女討伐の第一陣として、

まずはニックとブレイズが敵地へと足を踏み入れた。


「おい、そこの2人! それ以上近づくな!

 ここがどういう場所だかわかっているのか!?」


彼らは早速、兵士たちに止められた。


「どういう場所、ってそりゃあ……王女様のいる庭園でしょ?

 俺たちは仕事を依頼されて来たんですがねえ」


「何、仕事だと!?

 そんな話は聞いてないぞ!

 一体どんな仕事を依頼されたと言うのだ!」


ニックはポリポリと頭を掻き、カバンから一枚の書類を取り出した。


「むっ、これは……ギルドの依頼書?

 内容は……壁の修理だと?

 おい、確認するからそこで待っていろ!」


それはリュータローが偽造した依頼書だった。

彼はギルド職員の筆跡を完璧にトレースし、

本人が見ても疑わないレベルの書類に仕立て上げたのだ。



そして、彼が筆跡をトレースしたのはギルド職員だけではない。


「おい!

 なんだこれは!

 我はこんな依頼を出した覚えは無いぞ!」


王女の腰巾着、カチュア。

この仕事の依頼主は彼女ということになっている。


「そうは言われましてもねえ……

 聞いた話によると依頼を出した時は夜遅かったし、

 ベロンベロンに酔っ払っていたそうじゃないですか

 記憶が飛んでいてもおかしくないですよねえ?」


「むっ……ぐむむむむ!

 姫様に確認を取るから、少し待っていろ!」


カチュアは急いで引き返す。

このやり取りでニックは確信した。


彼女はこちらを覚えていない。


親衛騎士団の面々とは、アリサを通じて何度か顔を合わせたことがある。

何度も食事を共にしたし、何度も酒を酌み交わした仲だ。


が、まるで初対面だった。


それは都合がいいのだが、どこか寂しい気持ちがあるのも事実だった。




「──カチュア、まったくあなたはまた勝手なことをして……

 でもまあ、いいでしょう

 あの壁が崩れたままでは落ち着きませんからね」


王女の言葉に、カチュアはホッと胸を撫で下ろした。

身に覚えはないが、とにかく許された。


あの壁が壊れている事実を知る者は少ない。

王女、親衛騎士団、ジーク、貴族の少年たち、一部の兵士。

それ以上知られる前に、さっさと直してしまいたい。

フレデリカはそう考えたのだ。


その決断により、敵の潜入が成功するとも知らずに。




壊れた壁を見定める2人に巨漢が話しかけた。

言わずもがな、最強の武人ジークである。


ニックはそれを予想していたが、あえて驚いたフリをして反応した。


「え、ちょっ……アンタ、なんでこんなとこにいるんだよ!?

 部下の罪を全部背負って、懲役150年って話じゃねえのかよ!?」


ジークは苦い顔をする。

頭の悪いカチュアとは違い、彼はニックとブレイズを覚えていた。

国王の命令に従っただけとはいえ、この2人を監禁した事実を覚えている。


「我は王女殿下のご厚意により、特別に釈放を許された身だ

 お主らにとっては到底納得できる話ではないだろうがな……

 信じてもらえぬだろうが、我はあの時のことを後悔している

 赦しは乞わない 恨まれて当然のことをしたのだ

 だが、これだけはわかってほしい

 騎士には、男には、父親には……

 この命に代えてでも守らねばならない存在があるのだと……!!」



その言葉で、ニックは真相に辿り着いた。



ジークは愛娘(パメラ)を人質に取られていたのだ。

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