抗う者たち6
「──あの、皆さん
アタシの質問を理解してますか?
もう一度お尋ねしますけど、
先日の対策会議ではどのような意見を出し合ったんですか?
なぜ議事録が無いのでしょう?
団長であるアタシに誰も報告しに来ないのはどうしてですか?」
「……」
「……」
「ほら、それえええ!!
何!? なんなの!? なんで黙りこくるの!?
まさかアタシが不在の間、ずっとそうやって黙って座ってただけなの!?」
「いえ、そういうわけでは……」
「やはり難しい問題ですし、なかなか結論には……」
「結論じゃなくて、どんな意見が出たのか聞いてんだけど!?
アンタたち、各国の代表としてここにいるんだよねえ!?
頭良いんだよねえ!? なんで言葉が通じないの!?」
緊急対策会議。
それは銀騎士団員たちによるハンストを機に、これまでの彼らの失態を鑑みて、
今後の在り方をどうすべきか話し合うための場である。
話し合いの場のはずである。
「じゃあ、アタシがと〜〜〜っても簡単な意見を言うからさあ!
それについてどう思ったか答えなさいよ!
『銀騎士団を解体しましょう!』
はい、そこのアンタ! 感想言って!」
「……」
「ほら、またあああ!!
アンタたしか、銀騎士団の立ち上げに深く関わってたよねえ!?
あんだけ『皆さん優秀な人材ばかりですよ』って言ってた人が、
なんで今はだんまり決め込んでんの!?
使えない連中ばっか送ってきやがってよおおお!!」
「いや、あの、本当に優秀な経歴の方々を選んで……」
「何十年前の経歴だよ!!」
ミモザは机を叩いた。
薄々わかっている。
ここに集まった有識者たちは誰も責任を取りたくないのだ。
彼らは東西諸国から出向いている各国の役人であり、
自分の発言が何かしらの問題を引き起こさないように気遣っているだけだ。
銀騎士団はミルドール王国の意思で結成された組織ではない。
各国の有識者が自国から高齢者の数を減らそうと画策し、
王国復興を餌に老人たちを集め、立ち上げられた騎士団なのだ。
彼らは、この老人会を解体されては困るのだ。
「あの、では今後また怪我人が出ないように注意を呼び掛けるとか……」
「え、何それ……
今までアタシがやらなかったと思ってんの?
言ったよ?
『石像倒されちゃ困るからウロチョロすんな』ってさあ!!」
「では、勝手な行動をしないように見張りを置くとか……」
「置いてるってば!!
あのジジイ共が妙な真似しないように、
貴重な若い労働力を配置してるってば!!
それでもあいつら、監視の目を盗んでやらかすんだよ!!」
「では、石の広場を立ち入り禁止にするというのは……」
「やってるーーー!!
もうやってるーーー!!
それ守ってくれてんのは一般の人たちだけーーー!!」
会議が難航する中、1人の若い兵士が悪い知らせを持ってきた。
「ミモザさん、大変です!
銀騎士団の皆さんが市場で暴動を起こしています!
どうも彼らは炊き出しの食料だけでは足りず、
店舗を襲撃して略奪行為を繰り返している模様です!」
「……ねえ、今の聞いた?
略奪ですって
もう完全にただの犯罪集団じゃない
責任取るのは誰? ……え、アタシ?
なんで? 嘘でしょ? 勘弁してよもう〜」
ミモザは笑うしかなかった。
すると突然、さっきまでモゴモゴしていた役人が険しい顔つきになり、
若い兵士に向かって大声で怒鳴りつけた。
「そういう問題が起きないように見張るのが貴様らの仕事だろう!
一体今まで何をやっていたんだ! 気持ちが弛んでるんじゃあないのか!」
「え、ちょっと
なんでそっちに怒鳴ってんの?
怒りの矛先を向けるべきは、どう考えても略奪ジジイ共でしょうよ
彼は『悪い知らせは早く持ってこい』って言いつけ守ってくれてるし、
ちゃんと仕事してるってば」
「いや、しかしですね……」
「またモゴる〜〜〜
……とにかく会議はこれで終わり!
今は現地で暴れてる犯罪者をしょっぴくのが最優先!
捕まえた連中は本国に送り返すから、その受け入れ準備しといてね!」
「「「 ええっ!? 困りますよそんなの!! 」」」
会議室に残された有識者たちは様々な意見を出し合った。
──ミモザが現地に到着した頃には、もう暴れている者はいなかった。
市場にいたのは商人だけでなく当然客もおり、中には非番の兵士や冒険者などの
荒事への対処に慣れている者たちがそれなりに存在したのだ。
所詮、相手は老人。
取り押さえるのは容易かった。
不可解なのは、捕らえられた者たちの中にあの人物がいたことである。
ロイド。
銀騎士団の面々がストライキを始めたきっかけは、
この男が怪我を負ったことに対する怒りが原因だったはずだ。
それがどうだ、彼はピンピンしているではないか。
石像に潰されたという足は両方健在だ。
「あの話は嘘だったんですか?」
ミモザの中に怒りは無い。
ただ呆れていた。
それと、彼の無事な姿に少しだけ安心感を覚えた。
「ヘッ!
この俺様が怪我なんかするかよ!
急に倒れてきた石像の足をぶっ壊してやったって話を、
周りのジジババ共が勝手に勘違いしやがっただけだぜ!」
やっぱり怒りが込み上げてきた。
「ロイドさんを勝手に怪我人扱いすんじゃねえ!」
「そうだそうだ!」
「勘違い! 勘違い!」
ミモザは彼らの野次には反応せず、淡々と事後処理を行った。
幸い、市場の人々は団長のせいではないと理解してくださり、
それほどの被害は発生しなかったことから責任の追及はされなかった。
こうして、銀騎士団員による理由なき反抗は終わりを迎えたのだ。




