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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
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蛇4

石の広場にて、銀騎士団の高齢者たちがハンガーストライキを始めてから2日目、

団長のミモザは不可解な光景を目の当たりにした。


彼らは普通に朝食を取っていたのだ。


それは彼らが持参した物ではない。

ハンストの話を聞いた近隣住民が心配し、

自腹を切って炊き出しを行なった結果だった。


再度説明するが、ハンガーストライキとは

“要求が通るまでは食事をしない”という方法により抗議する行為であり、

一度でも食べ物を口にすれば、それはもうハンストではなくなる。


それがどうだ、彼らは誰一人として遠慮するそぶりは見せず、

ボランティアの若者におかわりを要求したり、味付けに文句を言う始末だ。


食べてもいいハンストなんて前代未聞だし、

もはや彼らが何をしたいのかわからない。



ミモザは最大限いい方向に考えようとした。


彼らはこちらの事情を汲み取り、

これ以上抗議を続ける理由が無くなったと判断し、

無意味なハンストはもうやめたのだと。


しかし、現実はそう甘くない。


「おう、団長さんよお!

 俺たちは1日も待ってやったんだ、

 改善案の1つや2つは用意できてるんだろうなあ!?」


熱々のシチューが盛られた皿を手に、抗議団のリーダー格であるジェフが凄む。

そんな彼の勢いに乗せられて他のメンバーも一斉にミモザを睨みつけた。


目を見ればわかる。


彼らの中では、まだ戦いは続いているのだと。

たとえ食事を取ろうが、彼らはハンストを行なっているのだと。



ミモザは色々と叫びたいが、そこは我慢して平静を装う。

感情的な彼らに、感情的に返しても状況は変わらない。

相手が何を言おうが冷静に、そして事務的に対処するのだ。


「改善案については昨日のうちに使いを走らせ、

 各方面の関係者たちに現状を伝えておきました

 今頃、緊急対策会議を開いて意見を出し合っているはずです

 ……正直、あなた方がこの場にいる必要は全くございませんので、

 解散してお体を休ませるべきかと思うのですが、どうでしょう?」


「対策会議、だと……?

 おい、なんで騎士団長のアンタが出席してないんだ!?

 人任せにすんなよ! 仕事サボってんじゃねえぞ!」


「そうだそうだ!」


「無責任! 無責任!」


ミモザの眉がピクリと動く。

会議に出席したくとも、それを引き留めたのは他ならぬジェフ氏なのだ。

彼自身も、他のメンバーもそのことを忘れているのだろう。


いや、最初から気にしてなどいなかったのかもしれない。

彼らはただ、文句を言える相手が欲しいだけなのだ。




その後も状況は好転せず、ただ時間だけが過ぎ去った。


彼らは平然と昼食を取り、それを指摘すれば

『俺らに何も食うなと言うのか!』と反論され、

対策会議に向かおうとしても『逃げるな!』と足止めされ、

ミモザや若い兵士一同は、ただただ無力であった。


ミモザの中では、もう答えは出ている。



銀騎士団の解体。



それが最善策だということは誰の目にも明らかだ。

しかし、そうもいかない事情がある。


銀騎士団に志願した高齢者たちは大陸中から集まった外国人であり、

ミルドール王国だけの判断で進退を決定することはできない。

ましてや彼らの大半は“帰ってきてほしくない存在”なのだ。

各国のお偉いさんや迷惑老人の家族が、騎士団の解体を阻止するだろう。



そんな八方塞がりの状況の中、

王城勤めの兵士が慌てた様子で駆けつける。


「ミモザ様!

 ここにいらっしゃいましたか!

 王女殿下から緊急のご用命です!

 至急、銀騎士団本部へとお戻りください!」


王女。


フレデリカ。


支離滅裂な老人どもなんかよりも重要視しなければならない相手。

フィンを洗脳し、パメラに重傷を負わせた敵。

そんな彼女が、このタイミングで一体なんの用だというのか。

できれば従いたくはないが、立場上それは無理な話だ。


王女の蛮行を止めるには入念な準備が必要となる。

真正面から挑んだところでジークに叩き潰されるのがオチだ。

敵の弱点を探るためにも、今はまだ騎士でいなければならない。



「おう、団長さんよお!

 なに帰ろうとしてんだよ!

 結局まだ何も解決してないってのによお!」


「まったく、これだから最近の若者は……

 上に立つ者としての責任感ってもんが無くて困る」


「リーダー失格! リーダー失格!」


老人どもがごちゃごちゃと騒ぐが、ミモザはまともに取り合わず、

若い兵士たちに現場を任せてその場を後にした。






本部に帰還したミモザは言葉を失った。


てっきり王女たちが待ち構えているのかと思って覚悟していたが、

そこに敵の姿は無く、だがそれよりも気分を害する物が置いてあったのだ。



タチアナの石像。



石の魔女の被害を受けたこの国において、

誰かの石像を作ろうなどと考える者はいない。


いや、彫刻家なら彫りたいと思うかもしれないが、

まだ石化から復活していない被害者が大勢いる中、

それを口にできる雰囲気ではないのだ。


呆然とするミモザに代わり、運搬役の兵士が汗を拭きながら呟く。


「やけに重い荷物だなと思ったら、

 中身はタチアナ様の像だったんですねぇ

 よく出来てるとは思いますが、

 なんだかタチアナ様らしくないというか……

 もっと元気な表情で作ってあげればよかったのに」


彼の言う通りだ。

その像はなんだか驚いているような、怯えた顔をしていた。

能天気でムードメーカーな彼女らしさを感じられない。


ミモザは自分に言い聞かせる。


これはただの石像だ、と。


タチアナは過去に一度、石化したことがあるのだ。

石化から復活した者には耐性がつき、二度と石化することはない。

今や王国民なら誰でも知っている常識だ。


だが、それでも嫌な予感は拭い切れない。



彼女とは昨日の朝以来会っていないのだ。

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