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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
111/150

初動1

情熱的に抱き合う2人の元へ、パメラは近づこうとした。

しかし、柱の陰から登場した人物によって彼女の歩みが止められた。


「王女殿下……否、次期国王陛下の邪魔をする者は、

 たとえそれが我が娘だとしても容赦せんぞ」


それは、この場にいるはずのない人物……元黒騎士団団長ジークだった。

彼は、国王の命令に従って悪行を犯した団員たちの罪を一手に引き受け、

懲役150年の罰を受けて監獄に繋がれていたはずだ。


能書きはいい。

パメラは斧槍を力強く握り込み、その巨漢へと突撃した。



「──遅い」



次の瞬間、パメラは壁に埋まっていた。



一体何が起こったのか、彼がどんな攻撃をしたのか、

それを把握できた者はその場にいなかった。


ただ一つ言えるのは、今のフレデリカは無敵だということだ。


「さて皆さん、もう帰っていいですよ

 ゆっくり休んで英気を養っておいてください

 わたくしたちの結婚式は盛大に執り行う予定なので、

 その準備で忙しくなりますからね」


圧倒的強者を前に、誰が逆らえようか。

親衛騎士たちは血まみれのパメラを壁から引きずり出し、

暴君の機嫌を損ねないよう、急いでその場を立ち去った。






医務室に運び込まれたパメラはすぐに緊急手術を受けることになり、

残された無力な3人にできることは何も無かった。


ミモザは頭を抱え、タチアナは涙を流し、

キリエはただ空を見上げ、流れる雲を目で追っていた。


「……あなたの仕業ですか?

 フィン殿があんな風になってしまったのは」


ミモザは一瞬、何を訊かれたのかわからなかった。

が、すぐにその言葉の意味を理解して反論した。


「やっ、違うわよ!?

 たしかにアンタに『奪っちゃえ』って唆したけど、

 姫様には一切そんなことは吹き込んでないからね!?

 アタシだって何が起こってんのか、わけがわかんないわよ!」


たぶん嘘は言っていない。


まあ、どうでもいい。

今は何も考えられない。



いや、どうでもよくはない。

彼のあの様子は明らかに変だった。

自分の意思で動いているようには見えなかった。


操られていた。


だが、どうやって?


彼は弱みを握られているのか?

人の心を操る魔法でもあるのか?

それとも惚れ薬のような物が存在するのか?


きっと、考えても答えは出ないだろう。

行動するしかない。行動するしかないのだ。



「手分けして解決策を探りましょう

 私は王子殿下から『魔法で人を操れるのか』を聞いてみます

 ミモザお姉様には『惚れ薬』について調べてもらいたい

 タチアナは、フィン殿の家族が無事かどうか確かめてきてくれ」


動け動け動け。

時間が無い。


なぜそう思うのかはわからないが、キリエの中では真実だった。

今自分たちが何もしなければ、本当に取り返しのつかない事態になる。


それは予感ではなく、確信だった。






──タチアナは相棒からの指示に従い、フィンの家族の元へと急行した。

鳥人族である彼女には羽があり、文字通り飛んでいった。


まだ頭の整理はついていない。


フレデリカ王女による王位継承宣言。

及び、フィンとの婚姻発表。

なぜか釈放された最強の騎士ジーク。

今際の際を彷徨うパメラ団長。


何もかもが急展開すぎるこの状況に、

タチアナはどう対処したらいいのかわからなかった。


だがキリエは己の判断に従い、決断した。

あんな相棒の姿は見たことがない。

本来なら年長者であるミモザが仕切るべき局面を、

あの消極的な性格のキリエが見事やってのけたのだ。


適材適所。


空というフィールドを自由に行き来できるタチアナは、

親衛騎士団の中で最も機動力に優れた人材とみて間違いない。

だからこそ最速で状況確認を行える彼女を向かわせたのだ。

フィンの家族の安否が最優先。キリエはそう位置付けた。


そしてタチアナはその要望に応え、

フィンの家族と合流することができたのである。



「えっと、つまり……

 王女様があいつと結婚して、次の王様になるってことは……

 俺、王様の兄貴になるってことだよな!?

 超ラッキ〜!! これでもう働かずに生きてけるぜ!!」


「ちょっとちょっと! 何言ってんのさ!

 フィンのお兄さんなんでしょ!?

 弟の様子がおかしかったんだよ! 心配じゃないの!?」


「はあ〜? 心配ぃ〜? なんで?

 あの美少女と結婚できんだから、なんだっていいじゃんかよ

 チキショー! 羨ましいったらありゃしないぜ!

 ……でもまあ実際、王女様のお相手として相応しいと思うぜ?

 俺と違って優秀で誠実な奴だし、人気者だからなぁ」


「ん〜〜〜!!

 もういいよ!!」


タチアナは怒りを露わにし、上空へと飛び去っていった。



一番どうでもいい男、ジャスティン。


たしかに彼はフィンの家族ではあるが、

勤勉な弟とはまるで正反対の性格をしており、

1年ほど前から兄弟の交流はパッタリと途絶えていた。


それどころか両親や妹も彼を好きではなかった。

手紙を送っても返事が来ないし、帰省したことがない。

故郷の家族と疎遠なのは、彼自身が招いた結果だった。



キリエはその、彼の両親や妹の安否を確認してもらいたかったのだ。


人選を間違えたわけではない。

言葉が足りなかったのだ。

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