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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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残されし者8

ミルドール王国北部の山岳地帯では、

2人の親衛騎士が足止めを食らっていた。


一刻も早くアル・ジュカ公国へ向かわねばならないのに、

雪崩(なだれ)の影響で山道が塞がれていたのだ。


鳥人タチアナが羽ばたきながら馬人キリエの元へ降り立つ。


「キリエ!

 空からぐるっと見てきたけど、

 あっちに迂回すれば行けそうだよ!」


「ああ、よかった!

 一時はどうなるかと思ったが、

 これで任務が続行できるな!」


「うん、急ごう!

 王国を救うのはボクたちだ!」


鳥人タチアナは馬人キリエの背に跨った。




──石の迷宮第1キャンプ。


「くっ……!

 放してください!

 わたしは善良な冒険者です!

 こんなことして、必ず後悔させますよ!?」


サロメが意識を取り戻した時には両手両足を縛られていた。

その特殊な縄には魔力を抑制する効果が備わっており、

彼女が信用されていないことは明白だった。


「あやうく巻き込まれるところだったぞ……

 咄嗟に壁際に避けたおかげで助かったが、

 もし私たちに当たっていたらどうする気だったんだ?」


「射程圏内に入ってきたあなたたちが悪いんです!

 当たらなかったんだからいいじゃないですか!」


予告もせず、いきなり魔法攻撃を仕掛けたのがまずかった。

緊急ならともかく、伝える時間はあったのだ。

「避けて」なり、「どいて」なり、それだけでよかったものを、

彼女は心の中で思っただけであった。


「君のその耳は……エルフか?

 魔力と知力に長けた種族だと聞いているよ

 魔女の呪いに関して知っていることがあるなら教えてほしい」


「エルフじゃありません

 わたし……ハーフエルフなんです

 汚らわしい人間の血が混じるわたしは里を追い出され、

 行く当ても無く彷徨い、冒険者になるしかありませんでした」


「……そうか、苦労したのだな

 それで、魔女の呪いについて何を知っているんだ?」


「冒険者になった後もハーフエルフへの差別は続き、

 行く先々で心無い人たちから迫害を受けました

 パーティーを組んでも、いいように利用された挙句追い出され、

 わたしの評判を落とすようなことをギルドに吹き込まれ、

 いつしかわたしは実力を隠して雑用係に専念するようになりました」


「そう、つらかったんだね

 魔女の呪いについて教えてくれないか?」


「あの、そういうのやめてください

 さっきから子供扱いして、失礼なんですよ

 エルフが長寿な種族だということは常識ですよね?

 あなたの10倍以上生きてるかも、と想像できないんですか?」


「冒険者免許を確認させてもらったが、

 ()()は俺の妹よりも歳下じゃないか

 はぐらかさずに、魔女の呪いについて聞かせてくれ」


「雑用係として各地を転々としているうちに、

 わたしはある噂を耳にしました

 石化された人々を元に戻せる薬が完成したのだと……

 その材料となる石の薔薇がこの迷宮で拾えるのだと……」


「身の上話はもういい、

 早く知っていることを話せ」


「噂を聞きつけて集まった冒険者たちを見て、

 わたしは落胆せざるを得ませんでした……

 ここに来た人たちはみんな、お金のことしか頭にないのです!

 誰一人として石にされた人のために戦おうという者はいませんでした!」


「おめえも同じ目的で来たんだろうが!!

 種族がどうこうじゃなくて、その性格の悪さで追い出されてんだよ!!」


「はい……? そうですけど……?

 わたしには邪悪な人間の血が流れてますからね

 少しだけ性格がきつくなってしまうのも仕方がないんですよ

 さっきも言いましたけど、いきなり大声を出さないでください

 ああ、学習能力が無いんでしたね

 さすがは薄汚い人間の血が混じっている種族ですね」


「〜〜っ!!」


「アリサ、よせ……

 もういい、彼女は何も知らない

 もし知っていたとしても話す気は無いようだ

 これ以上時間を無駄にするわけにはいかない

 早く城へ戻り、部下からの報告を整理しよう

 順調であればそろそろ戻っている頃合いだ」


パメラの説得に応じ、アリサは拳を引っ込めた。

いけ好かないハーフエルフは縛ったままにしておき、

翌日の石の雨に備えて一行は休息を取ることにした。




深夜。全員寝静まったかと思いきや、

パメラは横たわったままの姿勢で質問を投げかけた。


「──フィン、彼女をどう思う?」


フィンは焚き火に薪を足し、声を潜める。


「ちゃんと休んでくださいよ団長……

 どう、というのはつまりアレですよね」


拘束されながら大きなイビキを立てるサロメに目を向け、

少しの間を空けてから口を開いた。


「まあ可能性はあると思いますけど、

 年齢を考えると違う気もします

 免許が本物であれば、の前提ですが」


「やはりそう思うか

 明らかに態度が怪しいものな

 帰ったら彼女の素性も調べよう」


石の魔女。

ミルドール王国を危機に陥れた元凶。

彼女こそがそうなのでは、と2人が疑うのも当然であった。


アリサのように種族補正で呪いにかからなかったわけではない。

石にされたエルフならこれまでに何人か見ている。

彼女は呪いを防ぐ方法を知っており、それを実行したのだ。


まるで最初からこうなることがわかっていたかのように。

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