表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
106/150

略奪者1

フレデリカ王女は母親譲りの美貌の持ち主であり、

賢さと勤勉さ、そして慈愛の心まで持ち合わせた

非の打ち所がない存在といっても差し支えない。

彼女は国内外を問わず多くの民から愛され、

尊敬の念を込めて“聖女様”との呼び声が高い。


そんな彼女に、親衛騎士セシルは不満を募らせていた。

自分が嫌われているのはもう仕方ないとして、

理不尽な命令ばかり下されるのは不愉快極まりない。

特にここ最近は更に扱いが酷くなった気がする。


「セシル

 これからアル・ジュカ共和国へ行き、

 リュータロー君が元気でやっているか見てきてください

 彼のお友達が近況を知りたがっていますので、早急にお願いします

 ……でも馬車を使うほどの急用ではないので、徒歩で向かってください」


この調子だ。

件の少年からは毎月手紙が届いているし、近況は知っているはず。

それなのに険しい山岳地帯を歩かせる理由はただ一つ。私への嫌がらせだ。



ハンッ!

何が聖女だ、ふざけやがって。

みんな騙されているんだ。

この女の本性を知らないんだ。


無茶振りする時はいつもこうだ。

私を庇ってくれる者たちのいない時を狙って命令してくるのだ。

過去に犯した失態をネタに、いつまでもネチネチと責め続けるのだ。


落ち度は私にある。それは充分に理解している。

自分の何がそこまで王女を怒らせたのか、団長がこっそり教えてくれた。

私は団長から与えられた任務を放棄し、その事実を隠した。

今となっては本当に馬鹿なことをしたと反省しているし、謝ろうともしたんだ。


なのに、この女ときたら謝罪の機会を(ことごと)く潰してきたのだ。

私が口を開けば『あ、そうそう』と会話を遮り、一切喋らせてもらえない。

それをさも私が“謝らない女”であるかのように吹聴し、

取り巻きに悪い印象を植えつけることに成功したのだ。



思えば彼女は最初から敵だった。




母の死を機に、私の人生は大きく変わった。


母は過去を語らない人で、謎多き女性であった。

過去どころか、どうやって女手一つで私を養っているのかもわからなかった。

母の葬儀には多くの同種族(カメレオンマン)の男性が参列し、

その中にはなんと、国王陛下の御姿もあらせられた。


父を知らずに育ち、唯一の家族を失った私を不憫に思ったのだろう。

陛下は私に住む場所と、特別な仕事をお与えくださった。


娘のわがままにつき合ってやってほしい、と。


どうやら王女は興味本位で読破した騎士物語に触発されたらしく、

自分の騎士団を結成したいと言い出して臣下を困らせているそうだ。


私はその任務を喜んで引き受けた。

平民出の私にそのような大役が務まるのかは不安だったが、

まるで父親のように優しくしてくれた陛下のご期待に応えたかったのだ。


私の不安とは裏腹に、パメラ団長をはじめとした騎士団員たちは、

異分子であるこの私を快く受け入れてくれた。


王女とは姉妹同然に育った彼女らを差し置いて、

私なんかが副団長でいいのかと疑問を口にしたが、

その点についても特に異論は無いようだった。


ただ1人、フレデリカ王女を除いて。



午後のお茶会に誘われて参加した際、

王女は小さくため息を吐いたように見えた。

その時は私の見間違いかと思って特に気にしなかったが、

次のお茶会でも、その次も、彼女は同じ行動を取ったのだ。


他の団員には見えない角度で、私にだけわかるように。


私は徐々に王女と距離を置くようになり、孤立した。

一体、彼女から何を吹き込まれたのかは知らないが、

初めは好意的だった団員たちも私を避けるようになった。

王女のいない所では普通に話しかけてくれるのだが、

取り巻きモードになると私のことが見えなくなるらしい。


きっと彼女らも王女の腹黒さには気づいているはずだ。

だが、職を失えば家族に迷惑がかかるので逆らえないのだろう。

仕方がない。もう失うものが無い平民女とは立場が違うのだ。



難しい立場にいながらも、団長だけは態度を変えなかった。

王女の前だろうと構わずに私と会話し、存在する者として扱ってくれた。

そんな団長の行動に感化されたのか、まず謝ってきたのはミモザだった。

続いてキリエとタチアナも態度を改め、無視されることは無くなった。


彼女らは皆、口裏を合わせたように『自分が勝手にやったことだ』と言い、

それがまた王女への不信感を強める結果となった。


そういえば、カチュアからの謝罪は未だに無い。



まあいい、もうどうでもいい。




この任務を終えたら、私は親衛騎士団を去るつもりだ。


もうじき王女は成人を迎える。

おままごとは卒業だ。

あの小さな暴君のわがままには充分つき合ってやった。

陛下もご理解してくださることだろう。


自分自身、よく理解している。

所詮、私はなんの取り柄も無い平民女に過ぎなかったのだ。

特別な力があるわけでも、頭が切れるわけでもなく、

失敗を隠そうとするような心根の持ち主だ。


パメラ団長のような本物の騎士にはなれない。


この場所は私にはふさわしくない。

最初からわかっていたことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ