表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
105/150

恋慕5

「ハッ!」


パメラはフィンの足払いを跳んでかわし、

空中で尻尾を横薙ぎ回転させた。


「フンッ!」


その攻撃が避けられるのは織り込み済みで、

振り向きざまに訓練用の棒を振り下ろす。


しかしそれを読んでいたと言わんばかりに、

フィンは相手の着地に合わせて反撃を繰り出す。


訓練用の棒がパメラの胴鎧を捉え、

これが実戦であれば真っ二つになっていたであろう衝撃を受け、

彼女は自らの敗北を認め、その場に武器を置いた。


「勝負あり!!」


審判の合図で2人は向かい合い、騎士式の敬礼を交わした。

半刻に亘る模擬戦を見学していた黒騎士団員たちは立ち上がり、

その激闘を讃えて最大級の賛辞を送った。



「──また一段と腕を上げたな、フィン

 ミモザの職場に通い出してから調子が良いみたいだが……

 まさか、仕事そっちのけで自主訓練とかしてないだろうな?」


鋭い眼光で睨まれ、フィンは少したじろぎながらも弁明する。


「いえいえ、仕事をサボったりはしてませんよ

 あそこは残業が無いので、その分、訓練の時間を確保できるんです」


「それは……羨ましいな」


パメラに心休まる暇は無い。

親衛騎士団と黒騎士団、両方の団長を兼任しているだけでなく、

王女が苦手とする数字の管理を引き受け、一部の大臣たちの不正を暴き、

国民からの不満をどう処理すればいいのか、天手古舞(てんてこまい)なのだ。


実質、彼女がいなければ国の運営が成り立たない状況。

それを理解している上層部がどれだけいるだろうか。


いや、理解は求めていない。

全ての国民を幸せにしたい。ただそれだけだ。


「……さて、私は書類仕事に戻らせてもらう

 黒騎士団の皆は引き続き訓練に励んでくれ

 フィン、久々に手合わせできて良い運動になった

 また時間が出来たらよろしく頼む」


「ええ、こちらこそ是非

 何か手伝えることがあれば、いつでも頼ってくださいね」


爽やかな笑顔で言い残し、彼は訓練場を後にした。



頼ってくれとは言われたものの、

パメラはそのありがたい申し出に甘んじようとはしない。


あの男がそばにいると、気が散って仕事にならない。


フィンという男はやたらと紳士的で面倒見が良く、

下心無しに女性をエスコートし、見返りを求めない。

その上、勤勉さと誠実さを兼ね備えているだけでなく、

心の内には熱いものを秘めているのだ。


無名の兵士だった頃から、いや、兵士になる前からそうだったのだろう。

彼の元には定期的に同郷の女性たちが訪れ、近況を報告し合っている。

その中には必ず妹エリンの姿があり、あの子は少し危ない感じがする。


ともあれ、彼は良く出来た男だと思う。

だからこそ距離を置いておきたい。


今は恋愛などしている余裕は無いのだ。




パメラはある問題に頭を抱えていた。


人の悪意。


こちらは一刻も早く王国を元通りにしたいというのに、

それを阻む者たちが一定数存在するのだ。

そいつらに復興の邪魔をしようという気は無いのかもしれないが、

結果的に妨げとなっているので同じことだ。


具体的には、石化治療薬の偽物が出回っているという案件だ。


王国では、石化から復活させる者の順番をリスト化しており、

それを公開し、国民の理解を得た上で治療を行なっている。

だが、全ての国民が納得しているわけではない。

それがどんなに合理的な理由で決定された優先順位だとしても、

自分の家族や友人、恋人などを優先したいという感情は抑えられない。

そんな彼らの思いにつけ込み、偽物を売りつけて利益を儲ける連中がいるのだ。


これまでに3つの犯罪組織を摘発したが、未だに被害者が続出している。

他人を不幸にしてまで得た金に、一体なんの価値があるというのだろう。

善良なパメラには到底理解できない感覚だ。


ともかく連中を野放しにはできない。

徹底的にぶっ潰し、後続が現れないようにしなければならない。


それが彼女の信念、使命なのだ。






──書類仕事が一段落つき、パメラは夜風を浴びに外へ出た。


王都の方角には色とりどりの眩しい光。

特にイベントを催しているわけではなく、あれが本来の光景だ。

城下町にもポツポツと灯りが見え、それが酒場の位置を示している。

歓楽街は言うまでもない。王都にも引けを取らない輝きを放っている。


この国は石の魔女による甚大な被害を受けたものの、

今は希望に満ち溢れ、良い方向へと進んでいる。

そのきっかけを作ってくれた英雄たちは今、この大陸にはいない。

彼女たちの功績を無駄にしないためにも自分が頑張らなければいけない。


短い休憩の後、パメラは仕事を再開しようとしたが、

たまにはミモザと酒を交わそうと思い立ち、銀騎士団本部へと出向いた。



ちょうど終業時間を迎えたらしく、1人の好青年が建物から出てくる。

パメラは彼に声をかけようとしたが、それは未遂に終わった。


フィンに続いて現れた女の姿に、なぜか動くことができなかったのだ。


キリエは生真面目な性格で、あまり感情を表に出すタイプではない。

その彼女がお洒落を施し、彼を背に乗せ、頬を赤らめていた。



パメラは黙って2人を見送り、その場を立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ