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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『姉妹戦争』編
102/150

恋慕2

銀騎士団本部。


そこは老人の溜まり場と化していた。


待合室には100人ばかりが集まり、その多くは友人同士で楽しげに会話し、

この場所へ来た目的を忘れているようだった。

少数の者は掲示板を眺め、壁に当たるほど顔を近づけて

自分にできそうな仕事は無いかと探している。


彼らは王国復興のために大陸各地から駆けつけてくれた者たちだ。

銀騎士団はこうした高齢の有志たちに仕事を斡旋する組織であり、

決して病院や介護施設の類ではない。


個室で診察を受けているお爺さんも、れっきとした騎士団員なのだ。

立ち上がるのに息子さんの肩を借りている、あのお婆さんもそうだ。


「おい嬢ちゃん、なんか仕事くれや

 俺はこう見えて昔は鉱山で働いててよ、

 体力にはそれなりに自信があんだわ

 そこらのジジババと一緒にされちゃ困るぜ」


ヘラヘラと笑う爺さんを他の団員たちはムッと睨みつけ、

団長のミモザも辛辣な視線を向けて注意せざるを得なかった。


「ロイドさん、ついさっきも同じことを言ってましたよね?

 仕事ならもう紹介したでしょう 早く現場に向かってください」


彼に斡旋したのは、石の広場の監視員だ。

あの場所には数え切れないほどの石像が立ち並び、

何かの拍子で倒れたり、誰かが悪戯しないか見張るのが仕事だ。


まあ、首無し兵士が復活して後遺症も無いことから、

石像が破損しても問題無いとは証明されたのだが。


とりあえず、ただ石像を眺めるだけの楽な仕事だ。

立ってようが座ってようが、好きにすればいい。

なんだったら寝てても構わない。そこにいるだけでいい。

何か問題があれば現場の兵士が対処する手筈になっている。


基本的に、労働力として期待できない者たちはこの現場に回される。

役立たずだからではない。きつい言い方になるが、足手まといなのだ。

彼らにやる気があるのは当然として、問題はその能力だ。


中には若者以上に活躍してくれる優秀な団員も存在するが、

そんなのはごく一握りのレアケースだ。

大体は高齢ゆえに身体機能が衰え、力の要る作業を任せられない。

べつにそれはいい。全然構わない。

自分の非力さを自覚している団員たちには、

事務作業を必要としている現場で働いてもらっている。


で、問題となるのが“やらなくていいことをする人たち”だ。

このグループはとにかく余計なことをしたがる。

どんなに注意しても重い物を1人で運ぼうとしたり、

治さなくてもいい物を勝手に修理しようとして壊したり、

上司の指示に従わず、自分流のやり方を貫いて怪我したり……と、

『彼らに仕事を与えてはならない』とミモザは悟った。


現在、団員の数は約1000人。

そのうち半数はこの問題グループに属しており、

銀騎士団結成以来、ミモザの心が休まる日はまだ来ない。





夜になり、ミモザは本部を後にした。

もう1ヶ月も連続で泊まり込み、精神的に参っていたのだ。

さすがに息抜きが必要だ。これ以上働いたらおかしくなってしまう。

ふらふらと街へ向かう彼女の背中を、警備の兵士たちが敬礼で見送る。


とにかく酒だ。

体が酒を求めている。

寿命が縮まろうが知ったこっちゃない。

今夜はぶっ倒れるまで飲んでやる。

そう決めたのだ。



歓楽街。

昔はよくここで仕事をサボって飲み歩いていた。

飲んで歌って、知らない人たちともすぐ打ち解けて、

自分の知らない業界の情報を教えてもらったりしたものだ。

ミモザにとっては懐かしの場所だが、今の気分にはそぐわない。


1人で飲みたい。

そう思ったのはいつ以来だろう。

思い出せない。まあいい。移動だ。

貴族街の一角に小洒落た居酒屋があったはずだ。

あそこなら誰にも邪魔されず、自分のペースで飲めるだろう。


そう踏んでいたのだが……。



「あっ……」


店の前には意外な人物、親衛騎士のキリエが立っていた。

彼女は真面目な性格ゆえ、これまで酒を口にしたことはない。

そんな彼女が興味津々に居酒屋を覗き込んでいるのだ。

1人で飲みたいとか言ってる場合じゃない。

ここは人生の先輩として、酒の飲み方を教えてやるべきだろう。


「いえ、これは、その、違うんです……

 私はたまたまこの場所を通りすがっただけで、

 決してミモザお姉様が思っているようなことではないんです」


この慌てようときたら。

キリエはもう右も左もわからない子供ではないのだ。

べつに酒の1杯や2杯飲んだところで誰も咎めたりはしない。

むしろ彼女がどんな反応を見せるのか知りたい。

ミモザは困惑するキリエを強引に居酒屋へと連れ込もうとした。


しかしものすごい力で反発され、キリエはその場を微動だにしない。

魚人のミモザが水中では無敵であるように、

馬人のキリエは地上でその健脚をフル活用できるのだ。


「なーによー! ちょっとくらいいーじゃないのよー!

 ……じゃあアンタは飲まなくていいから、アタシには飲ませてよー!

 もう頑張りたくないけど、明日も仕事なのー! 燃料が必要なのよー!

 パメラに騙されたとはいえ、アタシがやんなきゃいけないのー!」


正直、ミモザは自分でも何を言っているのかわからなかった。

まだ酔っていない段階でこれ。だいぶお疲れの様子だ。


「ちょっ、静かにしてください!

 聞かれたら困ります……!」


喚き立てるミモザの口を、これまたものすごい力でキリエが押さえつける。


(ん、聞かれたら困る……?)


店内に目を向けると、そこには1人の青年の姿があった。

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