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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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はじまり1

“石の広場”には数千体の石像が立ち並び、

汚れを磨いたり、供え物をする人の姿が散見した。

精巧な作りのそれらは生きているかのように表情豊かであり、

まるで魔法で石に変えられたのかと思わせるほどだった。


事実、そうなのだ。


「──今から10年前、“石の魔女”がかけた呪いにより、

 ミルドール王国の民は次々と石に変えられてしまいました

 王様は世界中から集めた冒険者と共に、魔女に対抗しました

 そして冒険者たちは多くの犠牲を払い、魔女に勝利しました

 しかし、石に変えられた人々は今もそのままです 終わり」


「終わんじゃねえよ」


竜人(ドラゴニュート)の少女が黒髪の少女にツッコミを入れる。

そう、この話はそれで終わりではない。

石にされた人々を元に戻す方法が見つかったのだ。


「“石の迷宮”ってとこで解除薬の素材が採れるんだよね!

 ガンガン集めてジャンジャン売って大儲けだー!」


猫精(ケットシー)の少女が一人で盛り上がる。

他の2人も成功した未来を想像し、つい口元が緩む。


彼女たちは迷宮の噂を聞きつけてやってきた、金目当ての冒険者だった。




王国内での活動許可をもらいにギルドを訪ねたが、

そこは同じ目的を持つ異国の冒険者たちで溢れかえっていた。

彼らに並ぶという概念は存在せず、我先にと他者を押しのけ、

押し返されたりを繰り返すばかりで現場は混迷していた。


「チッ、こいつらみんな金目当てかよ

 まったく余裕の無い連中は醜いもんだねえ」


「アリサ〜、あたしらもおんなじだよ?

 それより人がいっぱいで受付が見えないよ!

 こんなんじゃ真夜中までかかっちゃうよ!」


「はいはい、登録なら私がまとめてやっておくから、

 アリサは食料の買い出し、ユッカは宿の手配をお願いね」


「おう、任せとけ!」


「あんがとね、コノハ!」


3人は解散し、それぞれの仕事を済ませた。




翌日、迷宮には既に40組以上の冒険者パーティーが来場し、

解除薬の素材を求めて活動していることが判明した。

つい最近まで放置されていた場所だというのに、

一攫千金のチャンスが転がっているともなれば話は別だ。


膨大な研究の末に錬金術士が完成させた石化解除薬。

その素材となる“石の薔薇”を落とす魔物が出現するのだと云う。

それはとても貴重な存在で、高額で取引されている。


彼らは金が欲しいだけで、見知らぬ石像のために戦うわけではない。

やれ金の亡者だの、偽善者だのと罵る人もいるだろう。

だからどうした。それで救われる人がいるのだ。

この国には今、強欲な偽善者こそが必要だ。


「そんじゃ、いっちょ暴れるとしますかねえ!」

「いっぱい稼いで大金持ちになるぞー!」

「あんまり情報の出回ってない魔物だから慎重にね」


そして少女たちは石の迷宮へと足を踏み入れた。




そこは名称通り石の床、石の壁、石の天井で構成される迷宮だった。

それだけが名付けの理由ではない。

出現する魔物たちもそのほとんどが石のような肉体を持ち、

持ち前の硬さを活かした物理攻撃力・物理防御力で侵入者たちを苦しめた。


ストーンスライムという魔物は特段強くはないものの、

石の迷宮ならではの厄介な攻撃を仕掛けてくる。

天井と同化し、頭上から降ってくるというものだ。

いくら屈強な冒険者といえども直撃すればただでは済まない。



「うおりゃああぁっ!!」


そんな石の魔物を両刃斧(ラブリュス)で粉砕する少女の姿があった。


伝説の生物ドラゴンをルーツに持つ、竜人のアリサ。

真っ赤な髪からは闘牛のように勇ましい角が突き出し、

鱗に覆われた太い尻尾はワニの如き凶暴性を連想させた。

その印象通り、デタラメな怪力で敵を薙ぎ払う純粋な戦士である。



「たぶんあれも魔物だよ!

 ちょっと動いたような気がする!」


猫精のユッカは五感に優れ、天性の身のこなしと高い素早さが自慢だ。

手斧(ハチェット)を2本装備し、手数の多さで弱点の非力さをカバーしている。

元々小柄な猫精種族の中でも発育が悪い方で、実際の年齢よりも幼く見える。

ただ、そのおかげで狭い場所にもスルスルと入っていけるので利点は多い。



「私の解析によると、こいつら物理防御は高いけど

 魔法に対する耐性はほぼ無いみたい

 ……って言っても私たち、誰も魔法使えないんだけどね」


コノハは少し変わった能力を持つ人間である。

敵の弱点を看破したり、本人にしか使えない不思議なカバンを持っていたり、

はたから見ればそれは魔法も同じだ。


身体能力は低いものの、一応パーティーのリーダーを務めている。

弱いながらも(まさかり)小盾(バックラー)で堅実に立ち回り、意外としぶとい。

彼女の真価は作戦の立案や商人との交渉など、頭を使う仕事にある。




深層を目指して突き進む3人の前に顔見知りの冒険者パーティーが現れた。

彼らも3人組で、手負いのオークが仲間の肩を借りて足を引きずっている。

身長差が激しいので大きく腰を屈めており、余計に歩き辛そうな印象を受けた。


「よう! アリサじゃねえか!

 やっぱりお前らも来てると思ったぜ!」


こちらに気づいたゴブリンが肩に乗っかっていた手を払いのけ、

オークはバランスを崩しそうになったが、エルフに支えられた。


「この先とんでもねえ奴がいるから、お前らも気をつけろよ!

 うちの前衛がたったの一発でこの有り様よ!

 おそらくあいつがお目当てのブツを持ってるんだろうけど、

 今日のところは引き上げさせてもらうぜ!」


そう言い残し、彼らは去った。

頑丈な肉体を持つオークが一撃で満身創痍になるほどの強敵。

大金を得るためには倒さねばならない相手だ。


とりあえずライバルが1組減り、彼女たちにとっては好都合だった。

竜人や猫精などの種族名にルビを振っていますが、

初回以降は「りゅうじん」「ねこせい」など、

好きなように読んでいただいて構いません。

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