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第四話 新メイド「クリスティーナ」

新しいメイドの登場です

主人公の成長をぜひご覧ください

クリスティーナが来てから季節が巡り、俺は6歳になった。相変わらずクリスティーナはマナーや作法に厳しかったが、それ以上に俺の話を親身に聞いてくれた。ばあやではあまり構ってくれなかった俺にとっては願ってもないことだっただけに、俺は一日のほとんどをクリスティーナと共に過ごすようになっていた。






「クリス、この世界は広いのか?」

「そうですね、私も行ったことのない場所ばかりで申し訳ないのですが・・・・・・そうですね。今日は絵本を読んで差し上げましょう」






クリスと呼ぶほど仲が良くなり、毎日いろいろなことを聞いているうちに俺はこの世界について何も知らないことを思い出した。個性を求めるばかりこの世界の情報についてあまり収集していなかったのは痛恨のミスだと思った。しかし、俺は日本で言う小学生にはなったはずだが、今しがたクリスが提案したように絵本は少し幼稚だと感じた俺は、もう少し難しい専門書を要求した。





「絵本なんて子どもの読むものだ。もっとこの世界の地図とか、経済とか農業・・・・・・あと機械について記したものはないか?」





最後の機械については大いに期待していた。俺は元より飛びたいのだ。クリスとの話でこの世界に魔法はないことは理解していた。それならば移動手段として車や航空機はあってしかるべきだろうと感じていた。もし飛行機がないのなら、俺がまず最初に作ってやろうとすら思っていた。しかし、クリスの答えは俺を満足させるものではないかった。






「何を仰るかと思えば・・・・・・坊ちゃまはまだ子どもではありませんか」

「子どもだからと言って読まなくていいなんて言う法律はないはずだ! 機械についてとか、飛ぶことのできる本はないのか?!」





俺は思わず興奮を抑えられずに捲し立てると、クリスの表情が目に見えて曇っていくのが分かった。俺は何かまずいことを聞いたのかと思ったが、そもそもこの世界の常識というものすら知らないのだから仕方がないと開き直ってみることにした。





「俺はあの大空を自由に飛んでみたいんだ! 人間なら誰しも飛んでみたいと思うのは本能だろう?」

「そんなことを考えるのは坊ちゃまと、一部の野蛮な考えを持った下賤な者たちだけです」






クリスの言った『下賤』という言葉に俺は、一抹の記憶が蘇った。それはばあやも同じことを言っていたからだった。ばあやは下賤という言葉の他に、空は災厄をもたらすとも言っていた。飛行することが下賤で災厄?一体飛ぶことの何が悪いと言うのだろうか。俺は正直な疑問をクリスに聞いてみる。






「どうして飛ぶことが下賤なんだ?」

「・・・・・・坊ちゃま、空は災厄を齎す場です。そのような場は坊ちゃまには似合いません。どうか諦めてください」

「答えになっていない!」

「坊ちゃま、進んで危険に御身に晒されることはメイドの私にはできません。どうかご容赦を」





クリスまでもばあやと同様の反応を示すことに俺は嫌悪感を抱いた。駄目だと言うならばどうして教えてくれないのか、俺は未だに信用すらされていないのかと憤慨にも似た感情を抱いた。そして、俺はばあやと同じ反応をするならばと、過去に倣うことにした。





「もういい!」

「左様ですか、それはよかったで・・・・・・坊ちゃま?」






俺はベッドのシーツを剥ぐと、自分の身体に端を結び付ける。忍者の真似事ではあるが、理論上は子どもの軽い身体くらいならばふわりと風を受けることは出来るだろうと考えた。そして、俺は窓を開くと何をするのかぽかんとするクリスを睨むと窓に足をかける。





「飛ぶことができぬならせめて落ちてやる!」






クリスは大層驚いて俺の下に駆けだす。俺はその驚愕の表情を見ることで憤怒の感情を鎮めることに成功すると同時に窓から外に飛び出した。結論から言おう。二階からでは高さが足りなかった。俺は着地に失敗し腕を骨折したのだった。落ちた瞬間のクリスの悲鳴と言ったら傑作だった。着地の衝撃で意識が飛びかけたが、それ以上に俺の耳をつんざくクリスの絶叫と言ったらまさに断末魔だった。すぐに医者が呼ばれ、治療を受けていると医者がうるさいくらいに安否を心配するものだから俺は言ってやったのだ。






「三階ならこうはならなか・・・・・・おえええええ!!!!」






そういえばそうだった。着地に失敗して腹部も強打したのだ。喋った瞬間、肺や内臓が悲鳴を上げて、俺のせっかくの皮肉を消し去ってしまった。これは無念である。そう思いながら俺は一旦寝てやることにした。決して意識を失ったのではない。いや、意識を放してやったのだ。



二日後、俺はようやく目を覚ましたらしい。目を覚ますと同時に腕が悲鳴を上げたため、不覚にも声が出てしまった。その瞬間、クリスが俺の視界に飛び込んできた。その可愛らしい顔を喜色と心配の涙に染めて覗き込んでくる。






「坊ちゃま!! お医者様! 早く! 早く!!」

「クリス・・・・・・」

「坊ちゃま、大丈夫ですか!?クリスは心配しましたよ!!」






ああ、なんと役得なのだろう。こんな美少女に解放されて目を覚ますなんて、前世の俺からは想像もできなかったことだ。クリスの大声で医者がすっ飛んできてからは、そんな俺の華やかな時間は消し飛ばされ、年端も行かない少年である俺の無垢な身体を隅から隅まで検査された。それもクリスの前でだ。俺は初めて美少女の前で息子を曝け出してしまった。なんという破廉恥なのだ異世界め。そんなイベントを乗り越えた夜、なんとか元気であることをアピールしまくり、医者を返した俺は早速大層と筋トレを始めてみた。これぞ不屈の男、という感じでまさに個性だ。まあその結果はこっぴどくクリスに叱られたわけだが。しかし、クリスはどこか悲し気な表情で俺の傍を離れなかった。ああ、悲しそうな顔もかわいいとはけしからん、そう思って眺めているとクリスは突然深々と頭を下げてきた。






「坊ちゃま、この度は大変申し訳ございませんでした。私の言動が坊ちゃまを・・・・・・」






そう言い始めるクリスを俺の言葉で遮る。こればかりは個性を求める俺でも少しばかり罪悪感を感じてしまったからだ。俺はベッドから身体を起こし、クリスに向き直る。






「飛び降りたのは俺で、飛び降りる決断をしたのも俺のはずだ。クリスは悪くない」

「ですが・・・・・・」

「ごめん、本当はそうじゃない。心配させるつもりはなかったんだ。ただ、俺のやりたいことを無下にされたのが嫌だったんだ。だから、俺の方こそ結果的には怪我をしてお前を心配させてしまった。ごめんなさい」






俺は心からの謝罪をした。そういえば前世では謝罪こそ形式的には何度もしてきたが、心から謝ったことなんて何度あるだろうか。こんな嫌な経験を思い出しながら、俺はクリスの言葉を待った。クリスはなんて言おうか迷っているようだった。だが、俺はやりたいことを通したし、言いたいことを言ったのだ。今度はクリスの番であると思った俺はクリスの言葉を待ち続けた。すると、意を決したクリスは俺に近づいて折れていない方の腕を優しく撫でてくれた。






「坊ちゃま、先代の世話係だった私の祖母からも坊ちゃまの行動について何度も聞かされているつもりでした。ですが、坊ちゃまとお会いしてからというものの、そのような行動は一度もなく、きちんと目を見て話せる方だと認識を改めていました」






クリスは俺の世話係をする前のことを思い出すかのようにゆっくりと、そして申し訳なさそうに言葉を紡ぐのだった。俺は確かにクリスはばあやより話を聞いてくれるし、厳しいが愛のある教育だと感じていた。しかし、いつからだろうか。俺は普段も前世でも、人の目を見て話すことが苦手だった。自信がないことを悟られたくない、人の目を見るのが恥ずかしい、本当の自分は空っぽであることを見透かされるのが嫌だった。なにより怖かったのだ。しかし、クリスと過ごすようになり、いつしか俺は自然とクリスが何を教えてくれるのか、クリスが何を考えているのかを知りたくなったのだ。そして、クリスは話を続ける。






「坊ちゃまが窓から飛び降りるとき、身体が動きませんでした。坊ちゃまが何を考えているか理解できなかったからです。ですが、坊ちゃまがお眠りになられているときによく考えてみました。坊ちゃまがどうしてそのような行動に出られたのかを」





クリスはいい子だ。俺は少なくともこの館の人間しか知らない。だが、前世でもここまで俺を見て、考えてくれる人がいただろうか。俺はやはり自分をあまりにも見せてこなかったのだ。クリスがここまで考えてくれると言うことは、俺をきちんと見ていてくれていたからなのだろう。俺は自分というものを少し持つことができたと感じることができた。そしてなにより、それを気付かせてくれるクリスという人物に俺は嬉しくなった。






「あなた様は仰られた。空を飛びたいと・・・・・・私はあなたの言葉を端から否定してしまった。主に対してあるまじき行為でした。謝罪をお受けくださいますか?」

「一つ条件がある」

「はい、なんなんりと」





クリスは目を瞑って覚悟したようだった。確かに主に対しての否定や怪我を負わせたことは失態だろう。だから、罪を背負いたいと言うのなら、それで罪悪感が消えるのならと、俺は条件を告げた。






「クリス、これからはもっと俺の話を聞いてくれ。俺は知りたいこと、やりたいことだらけなんだ。だから、ずっとそばにいてくれ。そして、教えてくれ。この世界のこと、お前のことを」







俺の真摯な言葉に対するクリスの回答は聞くまでもなかった。華麗な所作でメイド服の裾を摘まみ、一糸乱れぬ動作で俺に最敬礼を見せてくれた。俺は満足してクリスの顔を上げさせる。そして、俺の条件である要求を早速行使する。






「では、空を飛んではいけないことについて教えてくれないか?」





クリスティーナは可愛いのです

飛び降りるのは危険ですのでお控えください


本日もあと二つ投稿するつもりです

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