第二話 俺、爆誕
第二話です
異世界転生初めてみました!
歪みに入った私は光と共に意識が遠のいていき、それと同時に猛烈な熱さで目を覚ます。私は目を開くとそこは正に異世界、とはいかなかった。高い天井と数人の人間に囲まれた部屋の中で、私は抱えられていた。目の前の私を持ち上げている老婆らしき人物が頬を緩めて何かを言っている。私にはその言葉の意味は分からなかった。言語がまるで違うのだ。
「おぎゃー!」
私は声にならない声で叫ぶ。どうやら私は赤ちゃんらしい。確かに新しく転生したことを確認して私の意識は眠気を催した。
それから月日を経て、私は少しづつこの世界の言語を理解し始めた。と言ってもまだまだ幼い単語と、拙い発声能力ではまともには喋ることもできないが。しかし、私は赤ん坊ながらに少しずつ理と自分が置かれている立場については観察したつもりだ。どうやら私はそれなりに身分のある家系に生まれたらしい。調度品や召使がいる所を見れば、それなりであろうことはわかる。果たしてどれほどの身分なのか、はたまたどのような身分制度があるのかを調べるのはこれからの課題だ。そして、一番重要なことであるのは俺の性別だ。実はこれも理解している。なぜなら、召使いの老婆が私の、いや俺のムスコをしっかりと洗っているのを目撃したからだ。
「坊ちゃま・・・・・・立派な・・・・・・お世継ぎ」
「おぎゃー!!!」
それから数年の時間を経ると、言語もほとんど理解できるようになっていた。やはり言語は習うより慣れろである。日本では文法などは学んでも話すこと等できるとも思わなかった自分としては、まず第一歩目の小さくはあるが、貴重な成長だ。そして、俺はついに5才になったらしい。自我がきちんと芽生え、手足をしっかりコントロールできることを確認した俺は、ついに異世界で羽ばたくことを決意する。
「この世界では絶対飛んでみせる!」
そう小さく囁くと、さっそく行動に取り掛かる。まずは怪我をしないことを第一に高いところから飛び降りることにする。とりあえずはベッドからだ。程よく5歳児には高い高低差に頬を上げて飛び降りる。
「ほっ!」
一瞬の出来事ではあったが、このふわりとする浮遊感と若干の重力を感じることの感覚に、子ども時代の感覚が蘇ってくる。まあ今は子どもではあるのだが。それはさておき、この世界では俺の予てよりの願いであった、飛行するとこまで行きたいところである。自分の身分がどれほど高いかは知らないが、ある程度ならおそらく事業を起こせたりする自由はあるだろう。そんな妄想に耽る毎日だったが、さらに私の異世界での行動はこんなものでは済まない。前世では何もできなかった、いえ、何もしなかったのだから、この異世界ではとにかく個性を見出そうと決意した。個性を身に着けるにあたって、私はまずは個性が強い人物を参考にしようと考えた。しかし、如何せん俺の今の身の回りには個性がまるでない。メイドは毎日飽きもせず同じことの繰り返しだ。それでは俺の個性は育たない。だから、俺は見本を見せることにした。
「ばあや、一つ頼みがある」
「はい、なんでしょう坊ちゃま?」
俺は俺を取り上げた老婆に身の回りの世話をされていた。そして、このばあやに無理難題を吹っかけることにしたのだ。まあ、なんせ今の俺は子どもだ。少々の我儘くらい許してもらうではないか。なんなら俺が立派に個性を身に着けた大人になったら武勇伝として語ってもらおうとも考えている。そこで、俺がばあやに頼んだのはもちろんあれだ。
「空を飛びたい!」
俺がやりたいことを言いきり、ばあやの反応を待つと、ばあやは面白そうに笑うのだった。
「おやおや坊ちゃま、そんな下賤な真似はいけませんよ」
「下賤だと?」
ばあやは何をバカなとでも言いたげに俺の願望を一蹴するではないか。そもそも空を飛ぶことがこの異世界ではできるのか、はたまたどうして空を飛ぶという行為が下賤なのか、疑問は止まなかった。俺はばあやにその疑問をぶつけてみることにした。
「どうして空を飛んではいけないんだ?」
「空は災厄をもたらす場所、それ故現在は国王陛下の管轄の下、我々が豊かに暮らすことができるのですよ」
さっぱり意味が分からなかった。この世界では空は何か脅威の象徴なのだろうか。それにしては俺はこの異世界に生まれてこの方災厄など見ていない。それに国王とやらは空をどう管轄しているのだろうか。疑問は増すばかりである。そして、ばあやは俺の頭を撫でると立ち去ろうとする。まだまだ聞きたいことがあるのだ。俺はばあやを引き留める。
「ばあや、なぜ空は災厄をもたらすのだ?」
「あらあら坊ちゃま、ばあやは忙しいのですよ?」
「少しだけ、少しだけだから!」
ばあやをなんとか引き留めようとするが、子どもの力ではばあやの動きを止められすらしない。ばあやはそのまま俺を部屋に残していってしまった。部屋の残された俺はこれではいけないと思った。これでは俺の華麗なる異世界デビューが果たせない。俺は何としても個性豊かな人間になるのだ。そう決意してからは早かった。ばあやが部屋に再び戻ってくるとノックをする。
「坊ちゃま、お昼ご飯の時間ですよ・・・はあっ!坊ちゃま!?」
ばあやは顔を真っ青にして部屋を見上げる。そこには天井まで届きそうなほど積まれた本とそこに立つ俺がいた。俺は満面の笑みでばあやを見下ろす。
「やあ、ばあや」
「いけません坊ちゃま!危険ですから早く降りてくださいませ!」
あたふたとするばあやを面白く見下ろしていると、とても気分がいい。俺は自分の願望をこれからばあやに見せつけるつもりだ。俺のこの頑強で雄大な願望への飽くなき探究心を見せつけられるこの興奮はもう止められない。俺はゆらゆらと本の塔を揺らし始める。
「坊ちゃま!どうか降りてきてくださいましっ!」
金切り声を上げ始めるばあやをよそに、俺はついに華麗なる子供時代の武勇伝その一である伝説を残そうとしていた。まさにこんな行為こそが俺の求めていた個性である。ゆらゆらと反動をつけた本の塔はついに倒れ始める。重力に従いゆっくりと俺を地面に倒し始める。
「きゃあああ!!!」
ばあやの絶叫と共に本が轟音を立てて崩れ、部屋の埃と本が舞い上がる。ばあやが急いで倒れた先に俺を探しに来る。
「坊ちゃまっ?!!」
そこには満面の笑みでばあやを出迎える俺が、ふかふかのベッドで大の字になって寝そべっていた。
その日は本当にひどい目にあった。昼飯どころか夕飯も抜かれた上、さらには尻を叩かれたのだ。しかし、こんなことでへこたれて堪るものか。俺はばあやを質問責めにし、答えに窮すると逃げるばあやに対して奇行を繰り返す。ある時は階段をローラ付きのそりで下り、扉を壊した。またある時はゴムを何本を繋げて特大の人間パチンコを作成し窓ガラスを破壊した。さらには一番大きなカーテンを外し、二階からパラシュート降下をして足首を捻ったりした。そんなことを繰り返した俺はばあやも含め館のメイド全員に「破壊神」とあだ名されるようになっていた。そんなことを数カ月も続けていると、さすがにばあやも疲労の色が見え始めた。俺はその頃には一通り館を壊し終え、ついでに自分の骨も折っていた。骨を折ってさすがに横になっているとばあやともう一人若いメイドが入ってきた。若いメイドはこの館では見たことのない顔だった。
「坊ちゃま、ばあやはお役御免です。お暇を頂きに参りました」
あれ、やり過ぎたのだろうか。俺は疲れた顔で挨拶するばあやと、後ろに控えるメイドの景色を間抜けな顔で見ているしかなかった。
あと一話も順次投下用意してますので、ぜひ読んでください!