第十四話 いざオワリ領へ!
今回はシャルロッテ、ではなく対決回です
俺は馬車に揺られ長閑な風景を楽しみながらオワリ領へ向かっていた。オワリ領は公爵家という大貴族だけあって、その領地もとても大きい。特にオワリ領は王国の中でも武装国家という役割であり、非常事態時の戦闘員及びその指揮官役になり得る言わば将軍職である。しかし、武装国家であるが故に食料自給率はかなり貧弱で、むしろ考えないという一極集中方式にしているらしい。その証拠に、隣接する領地であるアグリム伯爵家が治めるアグリ領と相互に交易を行い、保護をする代わりに安く農産物を輸入しているのが現状だそうだ。俺はそのアグリム伯爵家の領地の広大な農地を眺めながらオワリ領へと向かっていた。
「坊ちゃま、間もなくアグリム伯爵家の別邸を通過します。手紙にはぜひともアグリム伯爵家にも顔を出してほしいとの要請がありましたが、いかがいたしますか」
もちろん一緒に連れて来たクリスがきちんと俺の正面に座ってお仕事をしてくれている。二人旅なんてなんて優雅なのだろう。馬車に揺られるクリスも格別だ。それはそうと、確かにアグリム伯爵家からもシャルロッテの手紙に混じって招待状が入っていた。一体どういった繋がりなのかは俺も心辺りがないが、俺は会いたいと言う人には会っておくタイプだ。もしかしたらとてつもない個性ある人かもしれない。是非参考にさせて頂こう。そう考え、俺はアグリム伯爵家の別邸に辿り着いた。
「ようこそおいでくださいました。ビスマルク殿下」
「こちらこそお招きいただき感謝します。アグリム伯爵」
俺を出迎えたのはアグリム伯爵、その人ではなくその息子であるマルコ・アグリムである。年はだいたい20歳くらいだろうか。とても人当たりのよさそうな感じがにじみ出ている。さて、本題はどうして俺を招いたかである。俺の気を察してくれたのか、マルコはにこりと人のいい笑みを浮かべて説明してくれるのだった。
「殿下をぜひ我が領地にお招きしたかった理由は、現在ボルドー殿と取引している農産物についてのお礼を申し上げておきたかったからです。本来は父が出向くべきなのですが、このような形となってお会いできた幸運に感謝しております」
マルコは俺から見てよくわかる、平凡な男だ。だが、俺はそんなマルコを嫌いではない。本心から感謝していると感じさせる感謝と言うのはなかなか人を愉快にさせる。俺は前世でもこんな笑顔をできただろうか。俺がそんなことを考えるも、その取引とやらが気になった。
「どうして俺に?」
「現在、我がアグリ領地内で生産される農産物の買い取り先は、主にオワリ領です。しかし、そちらのボルドー殿に提案していただいた馬糞の有効活用と、殿下の街との繋がりを新たな得たことで、アグリ領民の暮らしぶりは少しずつ良くなっています。これは殿下に感謝せねばなりません。」
俺は初めてボルドーの働きに感謝している人を見かけた。普段は鼻の下を伸ばすインテリだとばかり思っていたが、きちんと仕事はしているようだ。仕方ないから俺も心の中で少し褒めてやった。そして、なによりマルコの領民を思う姿勢が感じられ、俺としては非常に好感を持てる人物だと感じていた。それにしても20歳くらいだとは言え、よくもここまでしっかりしているものだと俺は感心していた。
「だいぶご苦労なさっているように見えますが?」
「お分かりになられますか?」
マルコは笑顔の裏に疲労の色を滲ませ、鼻をポリポリと掻きながら俺に話してくれた。
「主要取引先であるオワリ領とは長い付き合いなのですが、少々気の強い方が多く・・・・・・はい。それに比べてボルドー殿は農産物を適正価格で・・・・・・」
ああ、俺はなんとなく察してしまった。おそらくは保護国と農業国のような関係で主従関係があるのだろう。守ってやっている側という尊厳が大きくなりすぎているようだ。逆にアグリ領はそれに辟易していると。確かに同じ王国とは言え、領民に差が出過ぎるのは軋轢の種だ。お互いに助け合ってるはずなのにね。どれだけ安く買い叩かれているのだろうか。俺は苦労の絶えないマルコに同情の念を抱いていた。
「これからも我が街と良い関係を続けて頂きたいですね」
「それはもう! ぜひ良しなにしていただきたい!」
俺は固い握手を交わして盟友と感じたマルコと別れることにする。これはシャルロッテと話すときに話題にすべきことだなと、俺は我ながらいい伝書鳩だと思った。そこからはついにオワリ領へと向かう。領地に入った途端、関所のようなものが複数存在し、何度も止められるが、シャルロッテからの招待状を見せると途端に背筋を伸ばして通してくれる。そのようなことを数回行ってようやく本丸と言うべき領内に入ることができる。これはマルコが苦労するのも頷ける。それに、やはりオワリ領は武装国家と言うほどあって要塞である。まるで信長の野望を詰め込んだかのような様相には苦笑いを禁じえない。おそらく戦国時代の安土城のような一際大きな城にシャルロッテがいるのだろう。てか、少し遠くから見ても異様な存在感だ。
「まさか・・・・・・城の天守閣に要塞砲が乗ってるとは」
俺は城下を抜け、本丸に辿り着き下から上を見上げる。まさかの天守閣からど太い大砲がはみ出ている。一体何に使うのだろうか。そもそも天守閣ってそういう役割だったかと苦笑いをしていると、シャルロッテが挨拶に出て来た。
「お久しぶりにございます、ビスマルク殿下」
「やあ、シャルロッテ姫」
俺は軽く挨拶をするに留めておいた。これまでの関所のやり取りで挨拶的なことは飽き飽きしていたからだ。そんな疲れを知ってか、シャルロッテはさっそく城の中へ俺を案内してくれた。さすがに城だけあって内装もなかなかである。俺が物珍しそうに物色していると、シャルロッテが襖の前で止まり俺もそれに続く。
「先に父上を紹介いたします。ビスマルク殿下が来るのを楽しみにしていたんですよ」
「そうか、それはありがとう」
「ええ、ではご健闘を」
「え、どゆこと」
俺に一抹の不安を植え付けていくシャルロッテに、俺は手を打つ間もなく襖の奥にいるであろうシャルロッテの父親に面会させられる。
「父上様、ビスマルク殿下がお越しです」
「もす!」
「もす?」
俺は変な掛け声と共に開く、襖の遠い奥に鎮座する存在に目を奪われる。シャルロッテの人物像からして日本美人を地で行くような性格を想像していたために、これは裏切られた。だって、目の前にいる男の顔が西郷どんなんだもん。俺があっけに取られていると、西郷どんはずかずかと俺に歩み寄ってくる。俺はそののしのし歩く姿を見て若干押され気味ではあったが、なんとかポーカーフェイスで踏み止まる。そして、西郷どんは俺の顔の目の前で挨拶をしてくる。
「もすっ! 殿下っ! よくぞ来られたっ! もすっ!」
「こ、こちらこそ・・・・・・もす?」
声でかっ! 顔近っ! もす?! 初対面の距離の詰め方じゃないって! 語尾に『っ!』ってつけないと喋れないのか!そんな顔の圧で威圧されていると、俺は肩を抱かれて部屋に勧められる。だから距離感っ! 俺は今圧倒的存在感を放つ西郷どんに為す術もなく個性で押し負けていた。いや別にこの人になら負けたとは感じていないけどね。それでも猛牛と化す西郷どんに対して、俺はとりあえず対話によるコミュニケーションという現代人御用達の技能で勝負を挑むことにした。
「おっほん! お初にお目にかかります。ビスマルク・マクシミリアン・デ・メ・フェルディナンドです。今回のオワリ領への招待、誠にありがたく・・・・・・」
「ワシの名はオビワン・ブルボン・オダでごわすっ!」
こいつも話聞かねぇ~この世界では話を聞かない流儀でもあるのかよ。てか、オビワンて。ライトセーバーで戦うあの惑星戦争を英語で言う映画の人ですかい。織田の家名といい盛り過ぎだろ少しは自重しろ! 今ある要素だけでも織田、西郷、オビワンと三つですよ、三つ! 次元すら超えていくのかよ。少しくらいフォースと共にあれよ。俺は笑顔を張り付けたまま鼻息の荒いオビワン西郷どんと距離を取りつつ次の作戦を考える。とりあえず距離を稼いでアウトレンジ戦法だ。相手の手の出しようないところからの一方的な攻撃、これこそがオビワン西郷どんへの最適解だ。
「オビワン殿にはせっかくですのでゆっくりとオワリ領での暮らしぶりでもお話頂けたら・・・・・・」
「それは良いっ! それならまず立ち合いと行きましょう! もすっ!」
「え」
お前は脳筋タイプも属性追加かよ。やってらんねえ。俺はとりあえず話を進めるためにもついて行くことにした。向かった先は稽古場のような道場だ。俺はこの場に来るべきではなかった。着いた途端オビワン西郷どんが脱ぎだし、ぶっとい竹刀を振り回し始めたからだ。俺はこれから何が起きるか分からずぽかんとしていると、シャルロッテが俺に竹刀を渡してくる。俺は意味が分からずシャルロッテに訳を聞いてみることにした。
「これってどういう状況?」
「さきほど殿下がお話をと言われましたので」
うん、ここは言語が通じない世界線らしい。フォースで話し合えと? 冗談じゃない。俺はただでさえ左手が使えないのだ。話し合いに来た相手を普通武術に誘うか? 体育会系ってみんなこうなのか。これならまだ近くで某日体大コールを聞いていた方がまだいい。今の俺の気分を叫ぶとしたら『帰りたい帰りたい帰りたい!』ってな所だろう。知らない人は日体大コールを聞いておこう。あれは日本じゃない、聞けばわかる。俺は今そんな気分だ。さて、話し合いというか殺し合いに引き出された俺だが、そんな俺を見かねてクリスが助け舟を出してくれる。
「オビワン様、ぶしつけな申し出ですが坊ちゃまは剣が・・・・・・」
「女は黙っておれっ!」
はい、俺の怒りのボルテージが今吹っ切れました。剣を握った瞬間理性であるもすっ! まで消えてるし、それ以上に俺のかわいいクリスに対する暴言、これはいただけない。俺、やっちゃうよ? 本気? 出しちゃうよ? 俺の目が座ったのを感じたのか、オビワン西郷どんはにかりと笑う。その顔もむかつくんだよ。俺は渡された竹刀と向き合う。確かに俺は左手が使えない。だが、俺は人とのハンディキャップがあろうと、守りたいものを守らないという選択肢を行使するほど頭が使えないわけではない。俺はオビワン西郷どんとの戦いで見せつけなければならない。クリスが俺にとってどれだけ大切なものなのかを。
「では、試合開始っ!」
次回もお楽しみに




