転生しても楽じゃない!略して転楽!
頑張って最初の内は連続投稿していきたと思ってます!
皆さんよろしくお願いします!
私の夢は空を飛ぶことだった。空を見上げた時のあの雄大な感覚と、その中に自分が浮遊するという妄想を繰り返しては空を飛んでいる航空機に羨望の眼差しを向け続けた。そんなどこにでもいるような子ども時分だった私はある時思い立った。私も空を飛べるのでは・・・・・・と。
そう思ってからは行動は早かった。私の住む地域はとある片田舎の雪国である。簡単に飛ぶという行為を達成できるのである。私は家の屋根、といっても平屋の地上3メートルくらいの高さだが、そこに登った。目線の高さを考えるとおよそ4メートル。私にとっては今まで見たこともない景色の高さに高揚感を覚えた。そして、その高揚感もそのままに私は雪原に向けて自由落下を開始する。その時の浮遊感と男特有の股間が浮き上がる感覚は、それは想像を絶するものだった。まさにこの時、私は空を飛ぶこと、正確に言えば落下することだが、それでも空を飛ぶことに惑わされることとなる。
それからは少しでも高く雪を積み、そこから飛び降りることを繰り返した。周りからどれだけ止められようと、とにかく飛びまくった。そしてある時、私はしくじった。とある小高い砂山を発見したのだ。もちろん私は登る。そこから見える景色に満足し、下を見下ろす。砂山だけに下にも柔らかそうな砂が堆積していた。しかし、今までと違うことはその高さだった。今まではおよそ高くても3メートル程度だったが、今回の高さは5メートル程度だった。私は恐れる感情と共に飛んでみたいという感情の両方が巻き上がってしまった。そこで気持ちを落ち着けるために、一度帰り道を確認する。確認することでいつでも帰れるという安心感を得るためだった。しかし、その道は断たれていた。それは物理的にだった。砂山だっただけに、登った際にそのか細い道が崩れてしまっていたのだった。私は少し焦った。それと同時に、飛び降りれれば帰れるじゃないかという楽観的思考も湧いてくる。私は後者を選択した。その飛び降りた瞬間の感覚は今なお忘れもしない。恐怖を克服したという達成感と、今までにない浮遊感に飛び降りている最中の私はまさに最高の快感を得ていた。視線を向ければ落下地点は先ほど砂山の頂上から見た岩・・・・・・岩? 私は飛び降りている最中のほんのコンマ何秒に先ほどの情景を思い起こしていた。見た景色と言えば砂が堆積した柔らかそうな足場である。だが、現実はそれは違った。現実はとんだ飛距離が短く、砂山の真下は本来山を削ったために残っていた大きな岩石が砂山から生えていたのだった。私は今そのおぞましいまでの岩石に向かって落ちている。足から落ちても痛いだろう。他の場所を打っても身体に重大な影響を与えるだろう。私は重力に逆らえずに岩に激突した。
岩に激突した私は足の痛み、尾てい骨の痛み、そしてなにより呼吸困難に陥った。横隔膜が動かず呼吸ができない。なんとか空気を取り込もうと空気を求めるも、出るのは身体から捻りだされる僅かな飛沫だけ。このまま自分は死ぬのだと、そう思ったが私はなんとか呼吸を取り戻す。あれほど求めていた空気を存分に吸った時、ようやく遅れていた恐怖が押し寄せる。私はそれ以降飛ぶのを止めてしまった。
そして今の私は現代日本のサラリーマンだ。言われた仕事をこなし、下げたくもない頭を下げることもお手の物。毎日同じサイクルを回し続けるネズミのような存在だ。自我がないも同じ私は一体何をすればいいのか、毎日そればかりを考えていた。そして、ある会社からの帰り道、空を飛ぶ飛行機を見た。それは夜空の中で煌めく一番星のように煌めきながら頭上を通過していく。その光景を見つめながらつい口走ってしまった。
「飛びたい・・・・・・」
「それはまことか」
独り言に返答があったことに一瞬脳が怯んだ。しかも、脳に直接語り掛けるような音にびくりとして周囲を見渡す。先ほどまで夜道を一人寂しく歩いていたが、後ろにはギリシャ神話に出てくるようなおじさんが立ってた。私は困惑しながら擦れた声で問う。
「あなたは・・・・・・」
「我は多次元世界を結ぶ神、数多の世界の不足を補う者。そなたの願い、あちらの世界では叶えられるやもしれん」
「え・・・・・・」
神と名乗るおじさんは何もない空間を指さす。すると、神を信じない私ですらびっくりの渦を巻く空間の歪みが出現する。まさにこれは、日本人が、日本人たるものだれもが夢見るあれではないか。
「異世界転生?」
「最近の日本人は理解が早くて助かる」
「で、でもチート能力とかそう言うのは・・・・・・」
そう言うと神は大きな溜息を吐いて私を憐れんでくる。そんなに多くの日本人を異世界に送ったのだろうか。私でも、その世界では役に立てるのだろうか。そんなことを考えていると、神を自称するおじさんは説明を始める。
「チート能力? とかいうそんなものはないのが普通なのだ。最近の日本人はこれだから困る。むしろ、この世界で学んだ知識は他の世界では稀に見る高水準のもの・・・・・・それが異世界でチートと言わず何とする」
「は、はあ・・・・・・」
腑抜けた返事になってしまったが、神を自称するおじさんは大層めんどくさそうにそう説教してくる。確かに、これまで見て来た異世界モノは全て現代世界よりもはるかに時代が遅れている。元々持てる知識が財産とはよく言ったものだ。とまれ、私は神に説教されなぜか感心してしまっていたが、これも神の力かと話を戻す。
「まあ、私は能力は望みません。しかし、質問があります」
神は私の質問をしっかりと待ってくれる。私の願いは、確実に叶うのか。そんな疑問が過ったが、そのことは最終目標であって、私が重視すべきはその過程である。だからこそ私は神を自称するおじさんに問う。
「その世界では私は、私の存在は必要とされるのでしょうか?」
私の問いに神を自称するおじさんは、神の顔になる。そして、私の目を真っすぐに見つめると答えを出す。
「それは君次第だ」
私は少し恥ずかしい気持ちを抱いた。この恵まれた日本ですら自我がなかった私だ。厳しい異世界でなら私でも、なんていう生半可な気持ちで務まるはずがない。私は意を決して歪みに入ろうとする。神はそんな私に勧告する。
「本当に良いのだな?」
「はい」
「この日本でやり残したこと、やらなかったことはないのだな?」
その言葉に私の心はびくりとする。自分探しをすると言って外国に行くのは愚かなことだ。今の自分を知り、海を渡ってさらに自分を探すのだ。何もしていない自分が探しものなどおこがましいにもほどがある。だが、それでも私は新たな一歩を踏み出すきっかけが欲しかっただけの弱い人間なのだ。だからこそ、このチャンスだけはものにしたかった。そして、迷いなくもう一歩を踏みぬく。
「やり残したことだらけですよ。だから行くのです」
その言葉を聞いた神は歪みの先を鮮明の映し出す。私は遂にこの世界を止めるのだ。そして、異世界で為すのだ。異世界では自分を自分たらしめるべく決断し、行動するのだ。なにより、私の夢である飛ぶことを叶えてみせる。その決意と共に歪みを潜り抜ける。その瞬間、眩いばかりの光が私を包んだ。
いかがでしたでしょうか
今日のうちにもう2話ほど連続投下準備しております。よろしければ続けて読んでくださると嬉しいです!