~第三話~
村に入ると、さっきまで薄暗かったはずの道は、パッと明るくなり、色鮮やかな花が辺り一面に咲いていた。空も雲が一つもなく、空気がおいしかった。
「復調村へようこそ。この村ではたくさんの人が快適に暮らしています。ぜひ、ゆっくりしていってください。」
まるで夢のようだ。僕の前ではまるまると太っている狸と、筋肉質の狸が言葉を発していた。もしかしたら、僕はいじめられたせいで死んでしまったのかもしれない
最初に見たときは、腰が抜けそうになったが、今の技術を持ってすれば、狸の姿のロボットくらい簡単に作れるだろう。
そして、二匹の狸の間には、十七歳くらいと思われる人が立っていた。前髪は目に少しだけかかっていて、黒色のスーツを着ている。鼻が高く、唇が薄い。おまけに身長も百八十くらいはあった。
「私の名は霧神零矢。この村の村長だ。君はここに来るのは初めてだよね?」
「は、はい・・・。」
この村の村長なだけあって、風格がある。話をしているだけで、相手のペースにもっていかれそうになる。
しかし、冷静になって考えると、夢か現実かも分からない場所にいるのは危険である。早くこの場所から出ないといけない。
「あ、あの。帰りたいときはどうしたらいいですか?」
「もう帰りたいのかい。せっかくこの場所に来たんだ。少し遊んでいかないかい。案内してあげるからついてきなさい。」
気が弱い僕は断ることができずに、言われた通りに零矢と名乗る男について行った。
どこを歩いていても花が満面に咲いており、その美しさに魅了され、我を忘れて見入ってしまう。
「どうだい。復調村の景色は最高だろう。私のペットの狸たちが一生懸命に育てているんだよ。そろそろ食堂につくから、楽しみに待っていてね。」
狸のロボットは、零矢のペットという設定になっているらしい。
話を聞いていくと、この村には数え切れない程の人間と狸が生活していることが分かった。しかも、皆幸せそうな顔をしている。
この村こそ、僕が求めていた快適な暮らしができるのかもしれない。僕の期待は高まるばかりで、この村から出たいなんて考えは、一切残っていなかった。
「着いたよ。ここが食堂だ。」
零矢が指をさした先には広く、おしゃれな建物が建っていた。広さは、二十五メートルプール六個分くらいはあるだろう。
「こんな広い所で食べるんですか。」
「どうした。何か不満でもあったかな?この村ではルールとして、夕食は村人全員で集まって食事をとるんだよ。今日は特別に君が来てくれたから、みんなでお祝いをするんだよ。でも、最近はありがたいことに人口が増えてきているから、もう一つ食堂を建てるか悩んでいるんだよ。」
こんなにも大きな食堂をもう一つ建てるとなれば、どれくらいの費用と時間がかかるだろうか。
この村は謎が多い。案内されている途中に人間が働いている様子は全く見受けられず、みんな自由に生活している。それで、どうやって経済がまわっているのだろうか。
「いえ、不満は全くないです。ただ、広すぎて驚いただけです。」
「そうか。この食堂に初めてきた人は、だいたい君と同じようなことを言ってくれるよ。では、早速中に入ろうか。」
そう言って扉を開け、僕たちは食堂の中へと入っていった。
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