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~第二話~

「おい稲村。お前まだ生きていたのかよ。てっきり自殺したかと思ったよ。まあ、俺らにとってはそのほうが都合がいいんだけどね。みんな思っているぜ。お前がいないほうが、学校生活が楽しくなるって。そうだよな、お前ら。」

「その通りだよ。お前は邪魔なんだよ。一人ぼっちはこの教室から出ろよ。俺たちの空気を汚すんじゃないぞ。」

 周りから聞こえてくる高笑い。大丈夫、いつものことだ。

こうなった以上、言われた通りにするしかない。僕は席を立ち、早歩きで教室を後にする。

「あれ?稲村君が逃げちゃった。みんなからひどいことを言われて可哀そうに。」

僕にも聞こえてくる程の声の大きさで、確実に精神的に追い詰めてくる。あいつらのことだから、これも計算していたのだろう。

見ての通り、僕はいじめられている。いじめの主犯は青山悠斗で、彼を中心にいじめが起こる。僕はそんな彼らに、うんざりしている。

だから、僕は夏休みが長くなって欲しいのだ。


 あいつらのいじめは、授業中でも止まらない。

「稲村、ここの問題の答えが分かるか?」

 今日は日付と出席番号が一致していた。僕が最も恐れている日だ。

僕は頭が良いわけではない。むしろ悪いほうだ。

「え、えっと・・・。わかりません。」

 ギャハハ

 教室に響き渡る笑い声。先生もさすがに驚いた様子を見せていた。

「お前たち笑うな!真剣に考えて答えているんだぞ!それを笑うなんて。稲村の気持ちを考えろ!」

 先生のおかげでシーンと静まり返る教室。しかしこんなので怯む青山ではない。

「真剣だからこそ、面白いんだよ。こんなに簡単な問題なのに、真剣に考えても分からないなんて、ただの馬鹿じゃないですか。」

 先生は青山のこの発言に対して少し共感してしまったらしく、「笑うのだけはやめろよ」という一言で、この話を終わらせた。そして、普段通りに授業を始めた。

いつもは頼りがいのある先生だけど、今回ばかりはとても小さく見えた。

授業が終わった後、青山たちは武勇伝が増えたと盛り上がっていた

この後は給食だったので、比較的に安全な時間を過ごした。


給食を食べ終わり、昼休みになった。借りていた本の返却の期限が近付いていることに気づき、返しに行くことにした。

図書室にいると、やけに落ち着いた。それも当然のことで、彼らが図書室に来ることは滅多にないからだ。

本を返し、図書室を一周する。気になった本が見つかったので、それを借りた。

特に図書室にいる必要はなかったし、机を荒らされるのも嫌だったので教室に帰った。

「はーい、注目!今から楽しい、楽しい宝探しゲームを始めるぞ。挑戦者は稲村君。制限時間は昼休みが終わるまでです。ちなみに、稲村君の筆箱を隠しています。では、始めてください。」

 突然、宝探しが始まった。

しかし、友達同士がする、悪ふざけのような可愛いものではない。

これは、悪質で陰湿ないじめだ。とりあえず、自分のロッカーの中を見る。

「稲村君。そんな単純なところには入ってないよ。もっと面白い所に隠しているから、頑張って探して見つけ出してくれよ。」

 そんなことを言われたので、ごみ箱の中を漁ってみる。

「うわ、汚いぞ。ゴミ箱に手を突っ込むなよ。どれだけ必死なんだよ。」

 教室にはドッと笑いが響いた。

そんなことを気にしている場合ではない。早く見つけないといけない。見つけられなかったら、一体何をされることだろうか。

それからも、死に物狂いで教室中を探し回った。

 キーンコーン、カーンコーン

 チャイムが鳴ってしまった。これから何をされるのだろうか。怯えながら、青山の方を見た。

「残念でしたー。答え合わせをします。ついてきてください。」

素直に青山について行くことにした。すると、青山は教室を出た。

そして、迷うことなくトイレに向かった。個室の扉を開け、堂々と答えを示した。

「誰も教室内とか行ってないよね。なに勘違いしちゃってるの?」

 僕の前に広がる光景に、言葉も出なかった。

僕の筆箱は、トイレの水に浮かんでいたのだから…。

キャハハハ

 青山の取り巻きたちが、耳が痛くなるほど高い声で笑っている。

ひどすぎる。いくら何でも、ここまでするだろうか。

「さすが青山。隠し場所が最高だよ。」

 取り巻きからの共感を得られて、青山はあからさまに満足そうだった。

「お前は、クラスの中で汚物だ。したがって、お前の持ち物も汚物ということになる。だから、水で流してあげるよ。その代わりに、中学を卒業しても決して水に流せない思い出にしてあげるけどね。」

 またもや、取り巻きたちが大笑いをしている。

汚物の持ち物は汚物という謎理論を押し付けられても、どうすることもできなかった。

そして、青山はレバーを躊躇うことなく勢いよく引いた。

「良かったね。綺麗になったじゃん。好評だったら定期的にしてあげてもいいよ。」

嘲笑いながら、取り巻きと教室に帰っていった。僕はその時の憎たらしい笑みを、どれだけ時が経ったとしても、どれだけ幸せな生活をしていたとしても、決して忘れることはできないだろう。


 とてつもなく長かった学校を終え、重い足を動かして帰っていた。

ふと顔をあげると、前から五人くらいの中学生の男子が歩いてきた。一人一人が爽やかな顔立ちをしている。

「今週の日曜日にカラオケ行こうぜ。」

 その中でも、ひと際イケメンで、真ん中にいた男子が提案した。

「良いじゃん。何時から行く?」

「それはラインで決めよう。」

 僕の横を颯爽と通り過ぎた。

僕は立ち止まり振り返った。そして、膝から崩れ落ちた。

それは、王様にひれ伏す奴隷のように…。

彼らの背中は次第に遠くなっていく。僕のような人間は、それを追いかけ続ける。だけど、追いつくことはできずに、同じような生活を繰り返す。

僕以外のみんなは、幸せそうな顔をしている。朝に公園で出会ったガキといい、さっきの中学生の男子といい、どいつもこいつも幸せそうだ。本当に羨ましい。

そんな顔を見るたびに、憎しみの感情とともに、強い劣等感を抱いてしまう。

僕はいじめられるせいで、こんなにも辛い生活をしているのに、みんなは幸せなんて不平等だ。


実は、親にはいじめられていることを隠している。だから、学校の事を聞かれると、噓をつくのが辛い。嘘をつくたびに、少しずつ心が濁っていくようで嫌だった。

でも、このことを親に言ったらどう思うだろうか。泣いて悲しむだろうか。怒って学校に連絡するだろうか。もしかしたら、どちらともかもしれない。

「人生辛いなあ。もっと楽に生きられたらいいのになあ。」

 どうせ早く帰ったところで何もすることがないので、寄り道をして帰ることにした。

鳥居をくぐり、頬から伝ってくる汗を手の甲で拭いながら階段を上った。

上りきると、爽やかな風が祝福してくれた。この場所は落ち着くので、僕のお気に入りの場所だ。ここにいるときだけは、頭からこびりついて離れない悩みも吹き飛んでしまう。

しかし、少し違和感があり、辺りを見回した。すると見覚えのない道と上の部分が欠けた、古びた看板が立っていた。

(復調村へようこそ)

 この世界で生きている限り、人間は必ず悩みを抱えている。そんな人々のために創られたのが、この復調村だ。ここでは、様々な人が幸せに暮らしている。ぜひ、一度でもいいから来てほしい。

 看板を見ていると、余計に気味が悪い。

しかし、僕は引き寄せられるように、その村へ入って行ってしまった。

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