家族の在り方
俺にとって弟は本当に大切な存在だった。何かあれば相談に乗りたかったし、一緒に野球や音楽の話でずっと盛り上がっていたかった。もっと一緒に居たかった。でも気づかせてくれたんだ。別れは悲しい事だけじゃないって。離れていても繋がっている。弟が繋げてくれた家族の為にも。
啓貴:おーい、隆斗。ボール投げるぞ
隆斗:投げて投げて!!ボク、もっと上手くなって家族を球場に連れてくんだ!!
啓貴:良い志じゃねえか。俺も負けてられないな
当時は小学生と幼稚園生。俺はあと2年もしたら中学に上がるけど、弟の隆斗は入れ違いで小学校に入学する年頃だ。俺は弟がこの歳でやりたい事がはっきり決まっていて頑張っている事が誇らしかったし、時々周りに自慢して逆に尻を叩かれて頑張る事もあったくらいには。
―♬夕方5時のチャイム♪―
啓貴:ん、隆斗。次の投げで終了にしよう。5時のチャイム鳴っちまったからな
隆斗:えぇ、もっと練習したいよ~
啓貴:駄目だ。ルールを守れないやつはスポーツ競技においてもルールを守れない人間になる。今からその練習だと思えば何の苦痛にもならないぞ
隆斗:分かったよ。これで終わり。えい!!
啓貴:よし、隆斗の今日のコンディションもばっちりだ。明日も練習に出られそうだから、学校と幼稚園から帰って来たら、ここの練習場にまた来ような。
隆斗:うん
俺と隆斗は、支度を済ませてキャッチボールの許可が下りている練習場から出た。5時の割には、日が大分傾いてきていたため少しだけ急ぐことにした。
啓貴:隆斗、少しだけ急ごうか。ちゃんと周りも見ながら歩くんだぞ
隆斗:分かってるよ。急がば回れって言うもんね
啓貴:何か合ってるような少し意味違うような気もするけど、まあ小学校とかに入ったら詳しく学んでみるといいよ(笑)
隆斗:ボク、小学校入ったらお兄ちゃん自慢する!!
啓貴:そうなれるように頑張るよ
横断歩道まで辿り着き、青になったと同時に渡り出した。隆斗は背が低いため、車が来ると丁度見えない高さにある。少し前を歩いて車にゆっくり走ってもらえるように俺なりに意識していた。
すると、赤で止まっているはずの方角から一台のバイクが高速で俺の後ろを走り去り、それと同時に鈍い音が響いた。
啓貴:隆斗⁉
振り向くと、後ろに居た筈の隆斗が見当たらない。
隆斗:兄ちゃ…
啓貴:隆斗!!
そこには少し跳ねられたのであろう斜め先に捩れて血を流して倒れている弟がいた。
啓貴:隆斗、大丈夫か!?隆斗!!
それを見ていた周りの大人の人達が駆け寄ってきて救急車と警察を呼んでくれていた
啓貴:隆斗が…隆斗が…
女性:落ち着いて、君、この子のお兄ちゃん?
啓貴:そうです
女性:取り敢えず弟君の様子は私達大人が一旦見るから、歩道の方に上がって救急車が来るのを待とうか。お父さんとお母さんに連絡取る事になるんだけど、掛ける番号分かる?
啓貴:えっと…この時間だとお母さんは家に居るはず。お父さんはまだ会社だと思う…
女性:救急車の人達が来たらちゃんとそれを答えるんだよ
啓貴:分かりました。お姉さん、弟は助かりますか?大切な家族なんです
女性:助かるよ。また一緒に居られるから。ね
その後、救急車と警察が現場到着をし、俺は身内という事で救急車に同伴者として乗せられる事になった。警察官の人には名前と家の電話番号を伝えたうえで、事件ではなくバイクに引かれた事故である事もしっかり伝えた。その後、弟は当たり所が悪かったのか、俺、お父さんお母さんの三人に見守られながら旅立っていった。
啓貴:隆斗…ごめん。本当にごめん。俺、ちゃんと守ってやれなかった。叶えたい夢だってあったのに
父:お前の言う通りだ。この子は家でもずっと夢について語ってくれていた。小学校に上がったら兄ちゃんと同じ少年球団にでも通わせてやろうかと思っていたんだがな…
母:皆のアイドルみたいな感じの子だったのにね。これからこの悲しさを埋め合わせられるかしら
(悲しさを埋め合わせる。違う…隆斗が居なくなった悲しみは隆斗でしか埋め合わせする事が出来ない)
啓貴:ねえ、お父さん。隆斗とまだ一緒に居られないの?
父:そうだなぁ、でも事故死になるから一旦警察の方に遺体を引き渡さないといけない
啓貴:引き渡し…?
父:今回の場合は事故死。そうなると死体検案書が出される事になるらしいんだ。今は難しいかもしれないが、いずれ調べてみるか警察署の人が行う課外授業で質問してみるといいさ
母:そうだわ。啓貴と警察の人が言っていたけど、バイクで引いて行った人ってどうなるのかしら
父:そうだな。ちょっと今から担当の警察の所に行ってみる。お前たちはここで隆斗と一緒に居てやってくれ
啓貴・母:分かった
その後、お父さんが聞いてきた警察の人の話によると、赤信号で止まっていた車と青信号で交差点に入ろうとしていた車のドライブレコーダーっていうものに弟を引いた人物とバイクの特徴が映っていたらしく、それを元に周辺の防犯カメラも捜索中なんだとか。そこが分かれば隆斗の遺体は戻ってくるっていうんだって。
母:ねえ、隆斗のお骨を分骨するのはどうかしら
父:そうだな。隆斗の身体が戻って来たらその手配もするか。なあ、啓貴
啓貴:なに?
父:隆斗は近いうちに骨だけになって帰ってくる事になる。それは理解しているね
啓貴:何となく分かる
父:骨だけになった人は骨壺の中に納められる事になるんだが、それを身に付けるアクセサリーに分骨と言って、骨を分けて供養や形見にする方法がある。お前はこれに関して賛同するかどうか。これを聞いても良いか?
啓貴:うん。俺、ずっと隆斗と一緒に居たい。俺だけが助かったんだ。きっと何か託されたんだと思う。だから、俺はそれを見守ってもらうんだ。その、ぶんこつっていうやつお願いできるならやって欲しい
父:分かった。母さん、ペンダントを三つ容易しよう。啓貴の分もだ
母:分かったわ
俺はこの時以降至って平静を装っていたけど、そんな事は小5のガキにはそんな事出来なくて。学校でも先生が隆斗の死について簡単に事情を説明してくれたけど、必要以上に気を遣われるばかりで息苦しさが増していくばかりだった。
そして、犯人はちゃんと見つかったらしい。この時お酒に飲まれて記憶に残っていなかったらしいけど、報道で映っている映像が自分かも知れないと思っていたらしいけど、警察が来るまでは家で大人しくしていたのだとか。
男子1:おーい、啓貴。部活行くぞ
啓貴:分かってるよ。今行く
俺は中学に上がると、少年野球団を抜け、学校の野球部に入った。弟がいた事は知ってる奴は知ってて知らない奴は本当に一切知らないという環境になった。勿論先生達は小学校からの引継ぎの関係で事情を知っていないといけなかったから全部資料にも記載されている上に直接話している。それでも時々周りから不思議な目線を送られる事があり、平静と苦痛の裏返しした気持ちを抱えたまま過ごしていた。
母:啓貴、隆斗の分も野球も勉強も頑張るのよ
啓貴:あ、ああ。分かってる
父:目の前で死なれてるんだし、5年しか生きられなかったんだ。その分は必ず頑張るんだぞ
俺はこうして時々親から【隆斗の分も頑張りなさい】と言われる事があった。確かに大切な一人の弟だった。隆斗の事は今でも大切に思っているけれど、俺は俺なんだ。隆斗を重ねられたままの人生なんて真っ平ごめんだ
高校に入った。俺はずっと続けいた野球部が高校に無かったために軽音部と吹奏楽部を兼部する事にした。勿論学校生活忙しい事前提だった。本当は軽音だけにするつもりが肺活量でチューバにかわれてしまい入部する事に。
女子:啓貴さぁ、中学まで野球部だったって言ってたのによく軽音楽部と吹奏楽部兼部しようと思ったね。
啓貴:いや、別に野球もそこそこに忙しかったしなぁ…楽器の練習を一からやらないといけないことくらいしか大変さは無いからあまり苦はないかもしれない。楽器二つっていうのも大変かもな
女子:啓貴強。流石野球やってただけあるわ~
啓貴:体力と肺活量だけだからな。技術は中学の時からやってる人に比べたら全くだろ
女子:ま、男子比率とかも圧倒的に少ないから頑張ってね~
啓貴:チューバの先輩男子だし。俺寂しい奴じゃねえっての
こういった学校の生活が始まって直ぐの頃、道徳の授業で【家族を紹介しよう】というテーマが貼り出された。クラスメイトの中には親同士が離婚していたり再婚していたり、死別している人がいたりと複雑な環境で過ごしている人も遠巻きに聞いている人もいた。少し似た境遇を持つ人が居ると思うと俺自身安心する部分もある。
先生:今回皆さんには家族について紹介してもらいます。御両親でも兄弟でもペットでもどんな関係性でも構いません。配った手元のプリントに書いて2回先の道徳の授業内で出席番号順に発表してもらいますので、紙を忘れたり間に合わなかったり等の事が無いように気をつけてください。それでは作業の方取り組んで下さい。
男子:啓貴~誰紹介するよ
啓貴:俺弟紹介しようかな~
男子:おま、弟いるのか
女子:啓貴弟いるの?どんな子?
啓貴:紹介する時までは秘密だ。折角紹介するのに今言ったら意味ないだろ
男子:ケチ臭えって思ったけど確かにな。当日楽しみにしてるわ
啓貴:先生
先生:啓貴くん、どうしました?
啓貴:俺、弟紹介したいんですけど、死んでていないんですよ。それでもいいですか?
先生:問題ないですよ。寧ろ紹介してあげたらどう?弟君の為にもなるよ。きっと
俺は当日死んだ弟を紹介する。そのお陰で進みたいと思える道を考えられるようにもなってきてる。それも紹介するんだ。
先生:それでは、今日の授業は家族紹介です。出席番号順に発表をしてもらいますので、1番の人は前に出てきて準備をしてください。他の人も前の人が終わったらすぐに準備できるように支度しておいてくださいね
生徒:はーい
先生:じゃあ、次は啓貴さん。紹介スピーチお願いします
啓貴:はい、俺は弟を紹介します。モニターに映している写真の小さい方が弟です。もう一人は俺!!
男子:やかましいわ。先進めw
女子:何してんの。腹捩れるわw
啓貴:弟の名前は隆斗といいます。将来はプロの野球選手になるんだって言ってキャッチボールを毎日頑張ってました。なんですけど、俺が小5で11歳の時に目の前で交通事故に遭いました。兄ちゃんって言った後は還って来ませんでした。当時5歳で本当にこんくらいの小さい身体だったんだけど、本人が一番辛そうでした。トラウマで1ヶ月くらい寝れない程立ち直れませんでした。俺だけ無傷で助かったんですけど、それでも今も音楽や野球が好きなのは隆斗のお陰だし、今首に掛けてるこれは弟の分骨した骨が入ってます。5年間しか一緒に居なかったですけど、弟の事は大好きだし自慢の家族です。めちゃくちゃ自慢します!!俺が死んだ時にアイツにとって自慢の兄貴になれるように精一杯生きるのが最大の目標です。こんな俺ですが応援してやってください!!以上です!!
先生:ありがとうございました。弟くん凄い小さい時に亡くなってたのね。因みに覚えてる限りで良いんだけど、どんな性格だったんですか?
啓貴:the弟っていう感じで、凄く甘え上手でした。今生きてたら小5になってるはずなのか~
男子:え、啓貴。弟生きてたら一緒にやりたかった事みたいなのあったのか?
啓貴:一緒に少年野球団に入って球場踏みまわしたかったかな
女子:逆に啓貴の将来の夢は何なのか気になる
啓貴:俺、教員になろうかなって思ってる
先生:あら
女子:今のお調子っぷり的に何故!!
啓貴:俺みたいに、家族に目の前で死なれている人もどこかには少なからず存在してるかもしれないだろ?年齢に関係なく。だから、そういった精神的に参ってるけど、周りには話せないタイプの人でも平等に関わっていられるようになりたいんだ。社会に出た時にもう少し気楽に居られるように味方で居たいんだよ
女子:思った以上に真面目な答えが返ってきた…
啓貴:うるせぇ。俺の人生は隆斗と共に回ってるんだよ。悪いか
先生:それじゃあ、質問タイムもここまで。啓貴くん発表ありがとうございました
クラスの中ではそこそこに印象に残ってくれたようで良かったと思った。それに加えて他の先生や噂で聞きつけた同級生達も頭の片隅に置いてくれているようだった。何より、それで贔屓目に見てくる人が居なかった事だ。俺は今までで一番居心地の良い学校生活を送れる事になったし、部活でも勉強でも特に困る事は無かった。
男子:啓貴、今度迷惑じゃなかったら弟君の墓参り行かせてくれないか?
啓貴:良いけど、どうした
男子:いや、普段軽音部でも勉強でも世話になってるしな、お前の兄貴良い奴に成長してるぞって報告したくてな
啓貴、お前もしかしてもしかしなくとも優しい男と書いて優男だな?
女子:私もその墓参り同行させてもらおうかしら…
啓貴:今度は何の理由を聞かされるんだ…
女子:この間の写真凄く弟君可愛かったし、ちゃんとお兄ちゃんやってた啓貴がね。言い方悪いけど、しっかり者だったんだなって新たな発見
啓貴:一言余計なもん入ってたなw
女子:私も右に習えじゃないけど、他人から見た啓貴の印象を弟君に報告したいだけ。お兄ちゃんの独断と偏見だけの人生観以外の事を聞くっていうのも弟君にとっては新鮮かなって思って
啓貴:なんだここの人達
こうやってそんなこんなでたまに同級生や先輩後輩と墓参りに行く事も時々あった。お陰様で墓石自体は凄く綺麗さを保つ事が出来たから、弟にもご先祖様にもお礼が出来て一石二鳥ではある。周りの人が弟に何の報告をしているのかは細かい所までは知らないがな!!
こんな高校生活を送った俺はある種特殊な過ごし方だった。高校では本当に周りの人に恵まれたと思うし、純粋無垢の割合強い人たちが集まった集団生活だったんだと後になって分かった。というか、単純に器の広い人達の集まりだったんだと思う。未だにこの時繋がった人達は今でも連絡のやり取りをしているし、血縁関係があるわけでもないのに弟の話をしただけで墓参りにも足を運んでくれる律儀な考えを持つ人達だ。これからもずっと大切にしないとな。弟がくれた大切な縁だ。
高校卒業を目前に控えた頃、海外で少し流行し始めていた流行病がどうやら日本でも流行り始めたらしいぞという話になってきた。卒業式が行われる頃には世間的にこの話で何処の局もテレビ番組内で持ちっきりだった。俺の高校でも卒業式に保護者・在校生の立ち入りが行えず、式の時間自体も短縮で行うように上からの指示に従うしかなく、30分で終わった。尚且つ校歌や国家の斉唱もできなかった。俺の場合高校生活で影響が出たのはここだけでよかったが、高校生活これからだっていう後輩達が可哀相に思える。俺はその代わり大学の入学式やその年の年間行事が行われない事になった。
男子:卒業式短縮とか何だかあっけなかったな
啓貴:でも、鉄板の校長の長話が無くて良かったんじゃないのか。お前の場合は
男子:それには一票
啓貴:ま、立って聞いてて立寝してこけて笑い者にされるのまでは目に見えてるけどな
男子:何で俺がそういうオチに持って行かれないといけないんだよ
啓貴:元々そういう性格だから
男子:うるせ
啓貴:そうだ、お前高校卒業した後どうするんだっけか
男子:俺は実家の稼業継ぐ為に専門学校に行くよ。啓貴は大学進学だろ
啓貴:まあな、教員免許取得は最低短大の出だし。俺の場合は4大に行くけど
男子:本当に真面目だな。多少弟の為とはいえ、ここまで真を貫くやつあんまり見掛けないけど
啓貴:それは人それぞれだろ。著名人でも小さい時から~っていう人もいれば、環境がそうさせた人だっているくらいだし
男子:まあ、頑張れよ。俺ら同級生はお前のその夢応援してっから
啓貴:おうよ
大学のスタートの象徴である入学式は行われず。右も左も分からないまま授業のカリキュラム設計や専用サイトの利用方法、オンデマンドでの授業形態が広げられていった。授業形態に慣れていない教授達が困惑するのは勿論だけど、同期で入ってきた人の顔も名前も分からないまま大学の授業が展開されていく新入生も困惑の渦だった。
担任:オンラインだけどクラス会開くって言って御免ねぇ。集まったのは15人かぁ~2クラス合わせて40人くらい在籍してるんだけどねぇ~
啓貴:先生、一つ質問なんですけど良いですか
先生:俺の個人情報じゃなきゃいいよ
啓貴:こうしてクラス会開く事って珍しくないですか?
担任:他のクラスでは開いてなさそうな話は聞いてるな。そもそもここの大学が取ってるこのクラス担任制っていうのがそもそも珍しいし、今年からここに来てる俺も新入生みたいなもんなのよ。だから年間行事とか分からなくてね
男子:うわあ、デッカイ新入生だ
啓貴:失礼な!!
担任:まあ、今年入ってきた学生よりかはでっかいだろうな。年齢と経歴は!!
啓貴:先生、ヘタに張り合わなくて良いですよ。寧ろ言い返さないでください!!
女子:これ、実際に対面になったら大丈夫なんですかね…ここのメンツ…
先生:画面越しでも分かる、見る限りに大分個性が強そうな人が集まっているけれども…んで、どう?授業とか対面ではないけど受けてみて。何か不安とかある?
啓貴:俺教職の授業も平行して履修してるんですけど、結構体力と精神面消耗しますね…浪費という言い方の方が正しいのかもしれないんですけど。直接その場で気になった事とか聞けないのがストレスといいますか…
担任:そうだよな。あれか、啓貴は対面重視・得意派か。文字の方が強い派とかではなく
啓貴:どちらかというと先生があげて下さった前者派の人間だと思います
そんなこんなでオンデマンドのクラス会はお開きになった。今までは声しか知らなかったけど、一部の人は今回のオンラインクラス会で顔を確認する事が出来た。これなら来年度以降対面が本格化したらある程度の距離までは仲良くする事は出来そうな気はした。でもさっきの先生に対する同期の言動的に望ましいものとはいえるものではないなと誰が見ても分かる行動があると考えるとな…。弟の事を話すのは困難を極めて行く一方のような気がしていた。時世的な事を考えると少し寂しいようなでも気楽のような大学生生活を送っているように思えたけど、それを紛らわせてくれる出会いもあった。
あくる日ネットサーフィンたるものをしていると、ずっと追いかけていた音楽作品が生放送先を変更する事になったと発表があった。有料会員では無かった為、時々アーカイブ登録をし忘れていていると観る事の出来なかった元生放送先。それが1週間登録し忘れても誰でも観る事が出来る形になったから余計に観に行きやすくなった。
いざ変更先の放送を見ていたら、メインで出演されている方3人以外にお一方スタジオ専属のDJが出演者に加わったようだった。それは現在活動休止中の【未来志向】というユニットのDJ担当であるDJ RYU-TOさんだった。確か隆斗がいなくなる前後くらいの時はよく未来志向さんの曲は聴いていたなと思い出した。同じ名前の人が居るねってよく話してたっけな。
この回はどうやらRYU-TOさんがスタジオ専属DJになったという事でそもそもDJとは何なんだろうねという話コーナーの一つとして取り組む事になった。
湯田:続いてのコーナーはこちら!!DJとはなんぞや!!
北川:ねえ、湯田さん湯田さん。コメント欄で【何ぞやとか使わな過ぎて聞いたの小学生の時以来】って書いてる人居るんですけど、ジェネレーションギャップ
湯田:嘘、マジで!?
日ノ出:湯田さん、北川さん、RYU-TOさん困ってるから早くコーナーやりましょう
湯田:そうそう、RYU-TOさん宜しくお願いします
RYU-TO:よろしくお願いします
北川:えっと、RYU-TOさんって普段進行を担当する事ってあるんですか?
RYU-TO:僕無いんですよ。元々僕はソロ活動に入る以前にユニット活動を行ってたんですよ。その時も基本的に相方が進めてましたし。僕はここのパッドっていう所から音を出して突っ込む事が殆どで、声出して突っ込むのは会場に来てる観客の人達の方が多かったです
湯田:という事は、進行初めてですか
RYU-TO:初めてです。ドキドキしてますよ。大丈夫かなぁ
湯田:では、時間も惜しい所ですので早速宜しくお願いします
RYU-TO:はい。じゃあ、まずDJというのはですね…
進めていくうちに言いたい事や内容自体は大体分かるのだが、話している内容が少しずつグダグダになってきた
日ノ出:RYU-TOさんw進行大丈夫そうですかw
RYU-TO:うん、ちゃんとスタッフさんとの事前の打ち合わせで、ある程度話は纏めてあったんだけどこんがらがって来ちゃいました
湯田:一応ここでコーナー終了なんですけど、これ大丈夫でした?
【放送事故決定にしますか?】
北川:湯田さん、日ノ出さん、RYU-TOさん。あの…カンペがほぼ一番アウトな答え出しましたw
湯田:【放送事故決定にしますか?】だってw本当にこれ今後も続けるコーナーなんですよねw
RYU-TO:僕、リニューアル最初のコーナーやらかしました歴史に認定してもらった方が良いかもしれない
啓貴:嘘やろ…wどうやったらこうなるんやw
こうして初回からスタッフさんに放送事故認定扱いを受けるRYU-TOさんと、それを観ていたキャストやリスナーは何故か好感度爆上がりになった。後々本人はいじられキャラへと変貌しつつあったのだった。
このリニューアル配信があった3ヶ月くらい経った頃、大学生活も年度的にそろそろ1年生が終了という時期に差し掛かっていた。所謂期末課題提出追い込みの期間というわけだ。そりゃ夜中まで起きてるはずだわ
【RYU-TO:まったり配信】
啓貴:ん?RYU-TOさんこの時間から何かの配信?もう夜中の1時だけど…
ふとした時にRYU-TOさんが個人配信をされている事を知った。物試しに覗いてみると、一人で作業部屋らしき場所から、コメント欄に居るリスナーさんと会話をして楽しんでいる様子だった。
RYU-TO:最近皆さんどうでしたか
ハル:どうでしたかって大分アバウトですね
RYU-TO:言葉が抜けるんだよね。調子とか近況的なものはどうでしたか
雑食恐竜:この間の生放送で大爆笑してて腹捩れました。元気出た~w
タカヒロ(啓貴):大学の期末課題の作業してました(1年生)
RYU-TO:そうか、ここにはギリ未成年の人も居るのね。大学生活頑張って下さい。あれ、授業形態どうなってるんだっけ
タカヒロ:大学生生活全部オンライン授業で、誰とも会えてないです~久しぶりにここで固定された人以外の人と話しました
RYU-TO:にしても、そうそう。今コメントにもあったけど、この間のリニューアル生放送ね。そうなんだよ。初めての進行でスタッフさんに放送事故認定受けてね…んふふふ
その時の状況を思い出しているのか、笑いのツボに刺さったまま暫く喋る事が出来なくなっていた。
タカヒロ:RYU-TOさん大丈夫ですかwww
RYU-TO:いや、本当にああいった進行ものって慣れてなくてさぁ。普段のライブとかKENJIの方に頼りっぱなしだったし、もっとトークスキル上げないとなって改めて実感したんだよね
KENJI:ん?呼んだ?
RYU-TO:おま、何でコメントしてるんだよ
ハル:きゃー!!KENJIさ~ん!!
雑食恐竜:え、相方の人がコメント欄入してるんすか。えぇ~w
RYU-TO:【PLLL】おいおい、ここの配信機能使い倒す気か
KENJI:電話機能♪電話機能♪因みに俺も初めて使ってる~♪
雑食恐竜:マジで電話機能遣おうとしてるんですか
ハル:キャー、今日のKENJIさんテンションお高め~
RYU-TO:こっちの画面だと右下に誰から掛かってきてるのか見えてるのよ
タカヒロ:マジか…
RYU-TO:んまあいいか。KENJIだって分かってるし。今回だけだぞ
KENJI:【RYU-TO元気か~?】
RYU-TO:んふふ
ハル:いや、本当に急だわぁ。今日は別の形でお二人の供給が多くて嬉しい
タカヒロ:今日初めて観に来てこれは豪華。最高
KENJI:【取り敢えず、その笑い込んでる具合からして元気だな。お前さんは】
RYU-TO:元気だよ。というか、ここの個人配信じゃなくてもお前別のツールで同時配信できるだろ
KENJI:【まあ、そうだけど。今までの個人配信も普段は作業BGMにしながら観てたのよ。観てるだけだったんだけど、たまには乱入してやろうかなって思ってな】
RYU-TO:曲作業の方は大丈夫なのか
KENJI:【今日の晩はな。明日以降また作業に取り掛かる予定になってるから】
雑食恐竜:いや、もう公開処刑という名の事務連絡になってるんやが
タカヒロ:本当だ。これ一歩間違えたら情報漏洩になりやしませんかね
RYU-TO:俺の方は何もそういった内容喋ってないから情報漏洩にはなってないのよ。KENJIの方が問題なだけ
KENJI:【俺の方もこれ以上には情報漏らさない習慣付けてるから大丈夫だぞ~。心配してくれてるリスナーさんありがとうね~】
雑食恐竜:これ、いつまで公開処刑のお電話するんですか?
RYU-TO:どうしましょうかねぇ…KENJIさん?
KENJI:【まあ、乱入して皆を驚かせたり楽しませたりする事が出来たら良いなっていうくらいの気持ちで電話掛けたから、また別のツールさんの方でもたまにはコラボしようや】
RYU-TO:その時予定が合えばな
KENJI:【んじゃ、この後作業の最終準備入るからまたな】ッピ
RYU-TO:あいつ本当に何しに来たんだ
タカヒロ:YOUは何しに配信へ
ハル:うまい!!
雑食恐竜:山田君座布団3枚持ってきて!!
RYU-TO:んふふふ
雑食恐竜:タカヒロさんワードチョイスのセンス高いですね
タカヒロ:何かこの時間になってワード選びのキレが…w普段の生活で使いたい…>_<
ハル:ここに来る人癖強いですね
タカヒロ:あれですか、今日の乱入事件は【KENJIさん配信乱入事件【お前別のツールで同時配信できるだろ】】って事で
ハル:もう、それに決定w
雑食恐竜:よ、言葉の達人!!
RYU-TO:ここに辞書か何か作ってる人居ます?
タカヒロ:俺、辞書は酷使するだけの人なんですけど~w
この日を境に俺はRYU-TOさんの個人配信リスナーになった。国語科関係の大学生をやっている所までは薄っすらRYU-TOさんや常連さんにだけバレる程度の情報を書き込んでいた。観始めて2ヶ月くらいしてリクエスト大会なんかがあると、ほぼ毎回に近いくらいにSNSの方で相互フォローになる人が1人2人と出来始めていた。勿論弟の事はSNSでも配信の中でも話はしない。これは俺の事以上に繊細な情報だし、俺一人では済まされないような事だから。まあ、皆は特にこれだけは気をつけろよ。
翌年2年生は緊急事態宣言が出たり解除されたりの影響が大きかったように思う。対面授業がメインになったり、オンデマンド形態の授業がメインになったりと混合になってしまった影響で、周りの人達と距離が掴めきれずに一年間が終わった。直接会って連絡先を交換した人もいるがどちらかというと教職の授業でよく顔を合わせる人が多かった。他の選択必修授業は対面になる割合が低くて会ってみたくても会えなかった人もいる。これはこれで早く終わった気がする1年間だったけど、もっと会って会話してみたかったな。
大学生活は思った以上に寂しい生活が続いているが、それでもネガティブが勝つような事は無かった。高校時代の同級生達は勿論だけど、俺にはRYU-TOさんの配信とそこで繋がったリスナーさん達が居てくれる。どうやら、中には少し不登校気味だった人も居るらしい。今は親承認のアカウントで観ているというコメントを1度見掛け、最初と最後の挨拶を行っているリノスタさんという人が。深く関わって良いのかはよく分からないけど、死なれるより居場所があるだけマシだと思う。直接会っている関係性なら相談に乗ってやりたいんだけどな…。
そこから更に2年の月日が流れた。情勢は少しずつ緩和されていき、それと比例するように配信の頻度自体は以前程の開催はされなくなっていた。ご本人のお仕事や体調の事もある。画面越しで見れる事は多々あるし、個人配信が不定期になる事は甘んじて受け入れた。
その間の俺の2年間はというと、大学に例年通りにほぼ近い形で通える事になり、感染症対策を行った上で何不自由ない生活を送れた。両親は共に弟の事を口酸っぱく言うような事はしなくなったが、少し後ろめたいような感情を持っていそうだなという表情が見え隠れする事があった。
就職先として、教員免許を取得できた俺は中高一貫の母校に非常勤講師で入る事になった。まあ、俺は高校からの入学で入った組みだけどな。気持ちを切り替えて教員生活を送って行こう。隆斗、俺はお前の分まで全力で生きるからな。
RYU-TO:【今日は久しぶりにまったり配信。観れる方はどうぞ】
タカヒロ:こんばんは~
ハル:わぁ~い。久しぶりの配信嬉しい!!こんばんはなのです
リノスタ:こんばんは。本日もお邪魔させて頂きます
雑食恐竜:お邪魔します。いつも観に来てらっしゃる人安否確認終了しました
ハル:雑食さん何してるの?
RYU-TO:安否確認w俺も皆も生きてるよ。ここに来てるでしょ。そうだ、皆さん最近は調子どんな感じですか。近況報告できる方いらっしゃいます?
リノスタ:今年大学受験あるので、学校で対策講座受け始めました
タカヒロ:この春から中学高校一貫学校の教員始めました(非常勤)
雑食恐竜:俺は特に何も変りません
ハル:平和で良いけど雑食さんの空気読めてない感が否めないのもいい味出してるw
RYU-TO:無事に就職先が落ち着いた方おめでとうございます。年明け受験で今から対策講座…どことなく少し早い気もするけど、いつ頃…???
リノスタ:10月頃に受験をしに行って来る予定なので、その対策講座を受講する事になりました
ハル:っていう事は指定校推薦か何かかしら
リノスタ:そういうやつ系です
RYU-TO:受験勉強の方頑張ってください。うん、俺世代違うから当たり前だけどもう終わってて…受験時期何してたかな…あと、最近受験時の制度も変わってるみたいだし色々と分からない事も多いなぁ
雑食恐竜:そういえば、タカヒロさん免許取れて教員になれたんですね
タカヒロ:非常勤ですけど学生時代に頑張ってたら教員になれました。明日はまた学校で授業です
RYU-TO:教員って大変だってよく聞くし、それは早く寝よう
タカヒロ:準備が終わってないので配信観ながら支度します。終わったら寝ようと思ってます(多分配信が終わるまで居ます)
ハル:ここに居る人皆RYU-TOさん好きですから
俺は配信が大好きだ。今の生活におけるもう一つの居場所のような状況だから。現実世界でやっている教員の仕事も勿論大好きだ。俺が教えに入った授業で分かったという表情や声を聞く度に教えていて良かったと思える。俺は周りの人に恵まれたんだ。俺は隆斗から沢山のプレゼントを貰った気がする
RYU-TO:さて、今日の配信はここまでにしましょうかね
ハル:今日も楽しかったです
雑食恐竜:明日も仕事頑張ります
リノスタ:勉強のBGMで聴いてたら最後まで居ました。ちゃんと寝ます(笑)
タカヒロ:作業しながら居座ってたら最後まで居ました2号です。おやすみなさい(笑)
RYU-TO:居座りアウト予備軍の人がちらほら…
ハル:RYU-TOさん突っ込まないであげて下さいよw
タカヒロ:明日以降もお仕事全力で挑ませて頂きます(汗)
それから更に2年。俺は教員歴3年目になった。時世の方も大分感染対策に慣れ始めた頃になった。油断は大敵だけれど、そろそろリスナー側の人間同士で会ってみないかという話が挙がった。
ハル:タカヒロさん、近く予定空いてる頃ってありませんか?
タカヒロ:週末なら土日どちらとも融通つきます。ただ、今度の土曜日は午前中だけ仕事が入りそうです
ハル:了解です。後は雑食さんとリノちゃんだけだ…
タカヒロ:結局色んな人誘ってみた結果この4人が集まる事になりそうなんですね
雑食恐竜:呼びました?
ハル:一人居たよ
タカヒロ:ざっきょうさんの生存確認完了しました
雑食恐竜:何年か前にRYU-TOさんの配信で俺やらなかったっけ?その類の案件
タカヒロ:やってました。面白かったのでお返しです
ハル:雑食さんも来たから改めて説明するね―
その後はリノスタ氏も来た為、説明を丁寧に行った。結局人も少ないし皆で今週末土曜日の昼から夕方にかけて居酒屋に立ち寄ろうという話になった。全員成人年齢には達しているようですので…。
ハル:そうだ、ご迷惑かもしれないけど、RYU-TOさんの所に今週末オフ会あるっていう事だけ伝えておくね。本人の知らない所でオフ会やってるの理不尽かなって思っちゃって
リノスタ:え、私にはそんな勇気持ち合わせていないので、お願いできそうでしたらしたいんですが…
タカヒロ:ダイレクトメール形式の送信であれば僕も賛成で
雑食恐竜:伝えられる伝手があるなら思い切って伝えちゃいましょう
結局言い出したハルさんが伝えてくれる事に
ハル:【RYU-TOさんへ 今週末の土曜日昼から夕方にかけて都内のここの居酒屋にて一部の配信リスナーでオフ会を行っている予定です。日時と事務所様の許可が大丈夫なようでしたら是非お顔だけでも覗かせに来て下さればと思いメッセージを送らせて頂きました。いつも私含め、皆で配信楽しく観ております。RYU-TOさんがいつまでも素敵な笑顔とお姿でありますように】
―オフ会当日―
啓貴:えっと…指定されたお店はここか
莉乃:さて場所はここ…っと。あ
啓貴:あ、もしかして大学生になった子?
莉乃:そうですそうです。リノスタです。本名は莉乃と言います。今日は短い時間ですがオフ会宜しくお願いします
啓貴:よろしくお願いします。俺はタカヒロっていう名前でずっと配信に居座ってたヤツです。本名は啓貴って言います
莉乃:あ、お名前の漢字を逆にしてちょっとこう…小細工を…
啓貴:まあ、簡単に説明してしまうとそんな感じですよ
店の前でそうこうしているうちに、何処かで事前に待ち合わせをしていたと思われる男女二人がこちらに向かって歩いてきた
瞳:もしかして、そちらのお二人はオフ会の待ち合わせの方々ですか
啓貴:あ、はい。そうです。もしかして、ハルさんとざっきょうさんですか
瞳:そうそう。私はハル。本名は瞳っていうのよ。今日は好きな方で呼んでもらって良いからね。ただ、ネットでお声掛けする時は、今まで通りハルで宜しくね
啓貴:よろしくお願いします。俺はネットではタカヒロだった者です。本名は啓貴です
莉乃:私はリノスタです。普段皆さんからは莉乃と呼んで頂いておりますが、本名そのままですのでよろしくお願いします
純也:俺は純也って名前です。普段は雑食恐竜っていうリスナー名で居座って周りにヤラれてるのが嬉しい悩みです
啓貴:いや、悩みなんかい
瞳:んふふ。それじゃあ、これ以上の立ち話もなんだし、早速お店の中に入りましょうか
純也:今日はデジタルタトゥーになりかねない話を主に沢山の話をできるように楽しみましょうよ
お店で通されたのは8人席の場所。情勢がある程度落ち着いているとはいえ、まだ少しだけお互いに距離を取って座っていた。
瞳:皆さん今日何飲みます?
啓貴:俺、今日初めて会ってお酒酌み交わすのも何か尺なのでウーロン茶にします
純也:じゃあ…俺はビールのグラスで
瞳:私は啓貴さんと一緒かな。莉乃ちゃんは?
莉乃:私もウーロンで。お酒は飲みなれてません
純也:酒飲むの俺だけか
啓貴:いや、居酒屋を集合場所にした意味
瞳:普通にメニューが安かったから
莉乃:結論出ました。居酒屋でお酒の率が高いかその他の飲み物の率が高いかの議論は割合結果が出ましたので以上解散!!
純也:現役大学生のテンション高っか。しかも瞳さんが出した結果と絶妙にズレてる。いや、飲み物の話だから良いのか?
啓貴:現役の中高生のテンションもこんなもんですよ
莉乃:どうも、これでも元不登校です
瞳:自慢する話じゃないのよ、それ…
莉乃:でも、大学進学まで頑張りました
瞳:偉い偉い
純也:かくいう啓貴さんはどうなんすか。仕事の方は
啓貴:俺、もう今年で3年目なんすけど、大分コツを掴めるようになってきたというか、中高それぞれ今の3年生以外は1周した感じの在校生になったので、新人の印象を持たれずに授業を行えるようになったなって思うようになりました
純也:舐められてたのかい
啓貴:いや、そういう訳ではないんですけど、お友達感覚で関わってくるのが強い環境下だったんで。それをやっと打破できるようになったっていう所ですかね。抜け切れてませんけど
瞳:確かに最近そういう関係性の人学校で増えたようにも見える。学校帰りの中高生のリアクションがそれっぽい
莉乃:少し前までやってました~
瞳:来た、現役大学生。今何年生だっけ?
莉乃:今2年生です。啓貴さんが切っ掛けで教職授業取ってます
啓貴:切っ掛け俺か
瞳:凄いね、会話が一気に真面目になった
莉乃:私も国語科の中高教職履修中なんですけど、何かこれだけはっていう事ありますか
啓貴:取り敢えず、児童生徒に寄り添える環境を幾通りも考えておく。この頃の年齢の子どもって本当に色々な経験をしてる人が来てる可能性があるから。幼少期とはまた違った敏感期だからそれぞれの抱えてるガラスを割っちゃだめだよ
莉乃:分かりました。具体例は後日自分で調べて検討してみます。周りの人にも伝えておこう
瞳:そうしてあげて
啓貴:あと、過労死になりそうって思った時は思い切って休め
莉乃:はい
その時、店の扉がゆっくりと開いた
RYU-TO:ごめんください。ここに大人4名で予約入っている方いらっしゃってます?
店員:あ、はい。いらっしゃいますよ。後からいらっしゃるかもという方ですね。奥のお部屋にいらっしゃってます
瞳:へ?RYU-TOさん!?
啓貴:本当に来て下さったんすか
莉乃:あ、私席少し移動しますね
瞳:それじゃあ私が隣になっちゃう
純也:さっきまでしっかりしたお姉さんだったのに、急に瞳さん壊れ始めた
RYU-TO:あはは、随分賑やかだ。本当に来ちゃったよ
啓貴:RYU-TOさんお忙しいでしょうに、お越し下さってありがとうございます
RYU-TO:いいのいいの。丁度今の時間帯も開いてたし、事務所にもいってらっしゃいって背中押してもらえたからね
莉乃:一気に空気感が配信の時と変わらなくなってきた気がします
純也:確かに。俺絶対リスナー名と顔の勢い違う気がするんだが…
RYU-TO:タカヒロさん?
純也:ブブー違います
啓貴:RYU-TOさんの仰ったタカヒロさんはこっちです
RYU-TO:あ、え…w
瞳:RYU-ROさん、それぞれ自己紹介しますから慌てないでください。取り敢えず座って下さいよ。じゃあ、間違われちゃった男性陣からどうぞ
純也:じゃあ、俺から!!配信でのリスナー名は雑食恐竜です。本名は純也って言います。RYU-TOさんの配信を観始めたのは番組生放送の時の放送事故認定が切っ掛けでした。寧ろ素敵な方だなと思って
RYU-TO:雑食恐竜さんでしたか
純也:宜しくお願いします
RYU-TO:純也さんはリスナー名が雑食恐竜さん…と。よし、今日は覚えて帰るぞ…
莉乃:RYU-TOさん思った以上にやる気満々なご様子…
瞳:可愛いw
純也:この場でRYU-TOさんに可愛いって言えるの、同年代の瞳さんくらいしか居ないと思いますよ
瞳:そう?
啓貴:あの、次の自己紹介入っても良いですか?
瞳:どうぞ
RYU-TO:お願いします
啓貴:本名は啓貴と言います。配信を観ている時のリスナー名はタカヒロという名前で動き回っていました。漢字をひっくり返して読みを変えただけです。配信を観始めた切っ掛けはざっきょうさんとほぼ同じなんですけど、俺はそれに加えて弟と名前が一緒だったのもあります。宜しくお願いします
RYU-TO:へぇ、弟さん居るんだ。啓貴さんはリスナー名がタカヒロっと…
莉乃:弟さんの話初めて聞きました
瞳:確かに。自己紹介終わった後に聞いても良い?
啓貴:良いですよ
莉乃:じゃあ、次は私が
RYU-TO:お願いします
莉乃:リノスタこと莉乃です。今は大学2年生で、不登校だった時期に自分と向き合った結果、啓貴さんの存在もあって教員目指す事にしました。テンションの高さだけが取り柄です。宜しくお願いします
瞳:いや、教員免許の授業を履修してるだけでも頭良いのでは…?
啓貴:頭悪くてもなんとかこなせてしまった人がここに一名
瞳:それは困った
RYU-TO:んふふ…リノスタさんが莉乃さんっと
純也:必死に覚えてる人の隣で何漫才やっとんじゃい。RYU-TOさん笑い声が漏れとるがな
莉乃:んひひひ
純也:ここの人は笑う事以外に目的見失ったんか…
啓貴:それじゃあ、最後に瞳さんも自己紹介行っちゃいましょう
瞳:じゃあいきます!!
RYU-TO:はい
瞳:配信のリスナー名はハルと言います。本名は瞳です。全く名前の痕跡ないですが。この中では唯一RYU-TOさんと同い年同世代人間やってます。宜しくお願いします
RYU-TO:あ、コメントでもよく世代引っ掛かりまくってるって言ってたのはそういう事か…それでもってハルさんの本名が瞳さんっと
瞳:にしても、本当にRYU-TOさんがいらっしゃってから空気感が和んで楽しいです
純也:あ、何か飲み物頼まれます?
RYU-TO:ウーロン茶で
純也:ウブッ…
啓貴:残念でしたね、純也さんw
RYU-TO:どうしたの
啓貴:あ、俺達30分くらい前からここでずっと話してるんですけど、今日は居酒屋でお酒を飲むのかウーロン茶を飲むのかで議論を開いてたんですよ
莉乃:結局ウーロン3のビール1っていう事で、比率壊れという結果が出たので議論解散になったんです
瞳:ずっと純也さんいじられてるからやり返してもいいとは思ってるんですけどね~
純也:画面越しじゃない関係性でやり返すの無理だ…一定の考える時間が無いと出来ない…瞬発力が…
啓貴:他にも色々話してたんですけど、俺説明し出すとホワイトボード出したくなるんですよね。出しても良いですか?
莉乃:え?
瞳:え?
純也:は?
啓貴:一斉に一文字威圧掛けるの辞めてもらえます?w
RYU-TO:んふふw
瞳:ここご飯食べる所だから駄目
莉乃:ホワイトボード出すとかただの職業病じゃないですか
RYU-TO:ここの人達は凄いね。言葉がポンポン出てきて
莉乃:一応国語科のプロと予備軍が居るくらいには…
啓貴:俺は近現代の作品が専門ですけどね。他の分野はまだ勉強中ですよ
瞳:私は色んなアーティストさんが紹介されている本を時間がある時に読み漁ってるだけです
純也:俺は特に何もしていないので周りにイジリ倒されるのがお粗末なオチです
RYU-TO:僕生放送の時とか本当未だに口下手過ぎてDJの事教える時に空回りしてるんだよね…どうしたもんかと考えてるんだけど…
啓貴/莉乃/純也/瞳:知ってました
RYU-TO:ですよね~
半分いつものような明るい笑いと項垂れた様子を見て少しだけいたたまれなさを感じてしまった
啓貴:俺生放送観てて思いましたけど、ベース自体は凄くしっかりされていたので、本当に頑張って準備されてきたんだなって分かりますよ
RYU-TO:本当に?
啓貴:ええ、分かる人には分かります。RYU-TOさんは基礎の起承転結自体はきっちりはめ込まれているので基本的には大丈夫だと思います。ただ、これだけは絶対に伝えたいというワードを強調して盛り込むように意識してみる事や、文章を一字一句整えてるような事はせずに強調ワードに合わせてアドリブ説明を行う。こういった事を行えば、上手く伝えられるのではないかと思います。国語科の教員をやっている身としてのアドバイスなので、あとはご自身でどう解消してみるかお考えになれば大丈夫だと思いますよ。出演者の皆さんもお優しい方々ばかりですから、しっかりフォローして下さると思います
RYU-TO:やった。言葉の本職家の人にアドバイス貰えた
純也:滅茶苦茶専門的なアドバイスが飛び込んできた
莉乃:指導の勉強になります
啓貴:いや、俺はまだ経歴的にそれ程長い人間ではないので…
瞳:そこは堂々と頑張れたって言いなさいよ。RYU-TOさんの為にもなれたんだから。誇りを持って!!
啓貴:はい…
RYU-TO:次回以降の放送僕なりに頑張ってみるよ。出演キャストにも観てくれてる人達にもちゃんと伝えられるようになりたいから
啓貴:RYU-TOさんなりにで良いんですよ
RYU-TO:そうだ、僕配信での呼称考えたんですよ
純也:お
莉乃:気になります
RYU-TO:あのね、ロウリュウ
啓貴:いや、急にサウナ
純也:蒸し暑くなったし日本じゃないのですよ
莉乃:水吹っ掛けて蒸すや~つ~
純也:RYU-TOさん、それ配信してる時に発表して下さいよ
RYU-TO:動き回るより先に口が滑りまして
莉乃:RYU-TOさんにしては珍し過ぎる気がw
瞳:そういえばサウナと言えばフィンランドよね
啓貴:サウナの原産国はフィンランドで合ってます因みにロウリュウはドイツ語でアウフグースって言います
RYU-TO:やっぱり辞書制作の人居ます?
啓貴:俺は酷使する側で~す。ドイツ語は勉強途中なので~
皆お互いに顔を見合わせながら微笑み合うくすぐったい空気感が流れた
店員:いらっしゃいませ
KENJI:すいません、知り合いがここに予約で来てまして
店員:あ、もしかして奥方の席の方々の事ですかね…
RYU-TO:ん?この声
瞳:もしかして
部屋に居る誰もが顔を見合わせている中俺は思い切って箱席の引き戸を開けてみた。そこには
KENJI:お、RYU-TOやっぱりここにいたか
RYU-TO:KENJIかよ。俺がここに居る事何で分かったんだ?
KENJI:お前がファン主催のオフ会に顔を出すってマネージャーから聞きつけてな。どうせ急用で話さないといけない内容もあるし、ここに来て直接伝えた方が早いだろうと俺は閃いてしまったって所だ
RYU-TO:お前乱入好きだな
KEJI:おうよ、驚く顔を見るのが好きなんだ
RYU-TO:それで、その急用っていうのは情報漏洩にならないだろうな
KENJI:当然なる
純也:俺らここにいたら絶対にアカンや~つ~
瞳:私達別室に移りましょうか?
KENJI:普段配信を見聞きしてる人達だっていうから漏洩拡大関係は大丈夫だろうけど取り敢えず聞く。未来志向のファンクラ入ってる人ってこの中にいます?
啓貴/瞳/純也:はい
莉乃:私は入ってません
RYU-TO:あ、例のユニットの話?
KENJI:そういうことです
RYU-TO:何か進展があったのか
KENJI:RYU-TO、前々から会議は行ってきていたけどもうあまり時間が無いからこの場で伝えてく。ユニット未来志向復活祭やるぞ
RYU-TO:おま、それでこそ事務所で話すべき案件じゃないかよ。よりによって店先でなんて…しかもファン主催のオフ会の場だぞ。もっと内密に行ってくれ…
瞳:え、そんな重要な話を居酒屋で
純也:今回のこと人生で一番耳栓持ってきておけばよかったって…
莉乃:私ファンクラメンバーじゃないのに…
普段の様子を見る限り、感情変動の振り幅が極端に大きいわけではないRYU-TOさんですらこの反応だった。勿論俺はこれ以上に嬉しい話はなかった。本当は案件を聞かずこの場に居なかった事にしたいくらいだった。純也さんと莉乃さんの二人はそれぞれ嬉しさの反面気持ちが追い付かないのかテーブルに突っ伏していた…
KENJI:それで、ここから先はRYU-TOにもまだ告げてない案件だ
RYU-TO:まだ何かあるのか…
KENJI:誰か、復活記念のMV出られますよって人ここにいます?
RYU-TO:へ?
啓貴:RYU-TOさんのへ?って今までに聞いたことが無い…w笑い過ぎてお腹死んじゃう…明日には腹筋われてるかもしれん…w
瞳:ひゃー!!MVなんて出てみたい!!夢のようだわ~痛って
瞳さんは思わずテンションを高くし過ぎたのか手をテーブルの角にぶつけてしまった
莉乃:瞳さん、今物凄い鈍い音しましたけど大丈夫ですか
瞳:まあ、大丈夫よ~後になってより酷い痛みが出てきそうな気もしなくもないけど…お冷やで冷やしておく
KENJI:テーマはある程度固まってたユニット活動休止中における“今までの経験”をテーマとしよう
そう言いながらKENJIさんは俺の隣の席が空いていたので、自然な流れで座ってしまった
KENJI:あ、すみませ~ん
店員:はい
KENJI:ウーロン茶1つと串カツ2つお願いしてもいいですか
店員:かしこまりました
そういうと店員は店の厨房へと戻っていった
RYU-TO:テーマか…
純也:俺ら、本当にここに居座ってて良いんですかね…
莉乃:本当にそれなんですよ。MV参加の話は気になりますけど
KENJI:俺はソロ活動してる間本当に色んなアーティストさんとコラボしてたな…あと、今までに無かったような方面から楽曲提供頼まれたりしてたかな…
RYU-TO:俺はKENJI同様色んな所から楽曲提供を頼まれたり、ライブDJ頼まれたりしたけど、それはあくまでユニット活動の頃から有難い事に受けてきてたんだよな。それを考えると進行する時間があるとか、今みたいに、こうしてみた方が良いって教えてもらえる時間に感謝しかないなぁって思う
KENJI:長年の活動休止で得られたものが割と最近な事で
RYU-TO:細かく言うとここ5年くらいの話だな。啓貴さんがリスナーとして初めましてした時が大学の新入生だったって聞いてるから
KENJI:え、その人が今は何をしているんだ
啓貴:国語科の非常勤講師3年目です
KENJI:えげつない時の速さ…そりゃ俺も歳を取るわ
RYU-TO:最後の一言は聞いてないのよ…
KENJI:そういう関係性を持てるファンがいて良かったな。RYU-TO
RYU-TO:だからこそ、そういった意味ではリスナーさんにMV出演の方頼んでみたいなって思う。諸事情あって出演は控えたいっていう事が無ければ是非
啓貴:俺、教えるシーンのようなものがあれば率先して参加したいです
莉乃:それなら、私生徒役に加担したいです。教職の授業でも教員役と生徒役で分かれる事もありますし
啓貴:半分悪ノリだろそれ
莉乃:バレました?
純也:そういう事なら俺、清掃員役で参加してみたいっす
瞳:それ本当に後悔しない?私普通にファンの一人が関わりに行くような自然な流れが良いんだけど
KENJI:そうだ。折角だし、オフ会に皆さんの未来志向エピソードみたいなのあります?
瞳:それでこそ、さっき啓貴さんがRYU-TOさんと同じ名前の弟さんがっていう話気になるかも…
啓貴:俺の弟の話は長いんで、皆さん先に喋って下さいよ
店員:お待たせしました、ウーロン茶と串カツです
俺達ファン4人はタイミングよくやってきた店員にバレない程度にクスクスと笑っていた
莉乃:じゃあ、私から未来志向さんエピソード話そうかしら…
純也:お、プレッシャーぶち壊しスタイル行きますかい
莉乃:私が未来志向さんの曲を聴き始めたのは、幼稚園を卒園するくらいの頃からだったと思います。母が元々大の音楽好きで、色々とジャンル関係なく聴いていた時に、私が個人的に引っかかったのがお二人の曲でした。その時からずっとファンだったんですけど、家庭の経済はそれ程裕福な状態では無かったので、CDを買うのに精一杯でした。大学に進学するのにも奨学金を借りてるくらいなので
RYU-TO:そんな環境下でもずっとファンでいてくれてありがとうね
莉乃:いえいえ。お二人の存在があったからこそ、私自身もずっと前を向いて進んでこられたので
啓貴:それでこそ人生の未来志向って?
純也:あ、それ俺が今言おうとしたこと!!
啓貴:言ったもん勝ちです
KENJI:一人の未来を変えられた事に感謝
KENJIさんがそう言うと、胸に手を当てて慎ましくお辞儀をした。きっと、ユニット結成当初からこの形態を保ってきているんだろう。RYU-TOさんはこの行動に対して一切の文句を言う事無く、寧ろその場の空気と同化したかのような状態から、一緒にKENJIさんと同じお辞儀の仕方をされていた。莉乃さんはその行動につられてお辞儀をし返していた。このアーティストさん達だからこそ、しっかりとした人達が着いてくるんだろうなと思った。
純也:俺、消化不良になり切っちまう前にお二人に対するエピソードぶちまけてしまおうかな…
啓貴:言ったな?その感情ぶちまけに行っちまえですよ
純也:一応俺と啓貴君は10歳くらい歳が違うんですからね
啓貴:アハハ。もう5年くらいの付き合いになってくるとこんな感じになってきちゃいまして
純也:ま、俺も別に良いけどw
瞳:仲が良くて宜しい事♪
啓貴:じゃあ、そのエピソードをお願いしますよ
純也:ええ。俺がお二人の曲を聴き始めたのは、お恥ずかしながらRYU-TOさんが番組の生放送で事故認定された時が切っ掛けでした
RYU-TO:ああ、あの時かwでも、確かにあの時以来、作品のファンですっていう人がユニットの曲を聞くようになったってSNSで呟いてる人見掛けるようになったな
純也:俺もあのうちの一人なんです。元々その作品に表立って関わってる人達のファンだったんですけど、リスナー名の通りハマったら色んな事に対してとことんハマるタイプの人間でして。それも相まって中高生時代のあだ名が“雑食野郎”だったんですよ。野郎だと他の人に対してあまり良い印象を与えないですし、コメントで“野郎”という暴言単語が飛び交うのは良くないなと思って恐竜にしたんです。見た目に似合わないくせして何してるんだろうなって俺自身も思ってるんですけどね
啓貴:確かに恐竜っぽい見た目では無い…ですね
純也:啓貴君ちょいちょい喧しいのよwんで、それ以来ずっとお二人のメッセージ性のある歌詞と流れるような曲風が良いなと思って、個人配信や生放送を頻繁に観るようになったんです
KENJI:もう本当にね、純也さんもRYU-TOの面白い所をより一層引っ張ってくれてる人の一人になってくれてありがとう。心より感謝を
RYU-TO:褒められてるのか貶されてるのかなんだかな…
首を軽く傾げつつそうボソッと笑顔で言い返すRYU-TOさんは、またしてもKENJIさんに続いて胸に手を当てて感謝の意を示した。純也さんは先程の莉乃さんの時の行動を見ていた事もあり、すんなりとお辞儀の形を取った。というか、KENJIさんの一言にニヤニヤしているように見えるのは気のせいだろうか…
瞳:良いですね。一人ひとりのエピソード自体も凄い素敵な思い出になってますし、それに対するお二人の敬意向け方も本当に私尊敬です
啓貴:瞳さんめちゃくちゃ嬉しそうなお顔されてますけど、未来志向のお二人には長い事どハマりされているようで…馴れ初めはどんな感じだったんですか?
瞳:私は元々お二人がデビューして間もないくらいの頃から知っててね。私と同じ年生まれのユニットって当時早々見なかったから嬉しくなってつい…それで曲を聴いてみたら素敵だった。そうしたら少しずつヒット曲が出てくるようになってきて。遠くなってしまうのかなって思ってたけどそうでもなくて。ずっとファンの近くに寄り添ってくれようとする。本当に私にとってのヒーローのような感じだったんです…大げさに言ってしまうと、人生においてかけがえのない存在というか…
啓貴:同年代ファンにしてかけがえのない存在、か…それだけお二人の存在が当時から大きかったんだなぁ
KENJI:若手の方が俺ら以上に感銘受けてる…
RYU-TO:もしかしたら啓貴さんの元にも同年代の素敵なアーティストがもうすぐ出てくるかもしれない
KENJI:何ならもう出てたりしてな
RYU-TO:でも、インディーズ抜けて直ぐの頃からっていうファンの人最近あまり会ってないね
KENJI:本当にそう。流行病が出てくるようになってきて、より一層直接会わなくなってきた。今度は別の場所でソロ活動を始めたらそっち側から新規ファンが来て、ユニット活動期間の姿を知らない人達が周りに集まるようになった。ずっと前から居てくれる人達がパラソル張って外で見守るような形になってしまったんだよね
莉乃:パラソルw
純也:例えが的を射てるw
RYU-TO:こうして、今でもずっと近くに立ち寄っている方が居てくれる。それだけでもまだ、僕らの歩みは止まってなかったんだなって思えるよ。というか、KENJIの場合時々ダンスで番組とかイベントとかに引っ張られる時あっただろ
KENJI:あれでも俺のは独学です
RYU-TO:間奏の時に勝手に踊り出すからたまに良い意味で困ってる…
KENJI:DJの腕が試されるって?
RYU-TOさんからすればほぼ図星だったのか、KENJIさんの肩を思いきり叩いていた
啓貴:俺、動画サイトの検索で2、3本見たんですけど、アレ本当に独学の人がやる動きなんですかね…
瞳:KENJIさんって本当に昔からそういう人なのよ…歌もだけどダンスにも定評があるの
KENJI:瞳さん、これからもずっと共に歩き続けられるように頑張ります。心より感謝を
(にしても改めて思うと凄いな…お二人共、やっぱりファン歴が長くなる人が居るってだけで、これだけ話を続けられるんだ…)
前に話してくれた二人同様、瞳さんに向けても未来志向のお二人は誠心誠意の感謝を向けて下さっていた
瞳:それじゃあ、残るは啓貴さんだけね
啓貴:僕はそんなに一筋縄で終るエピソードじゃないかもしれないですよ
RYU-TO:どういうこと…?
この時俺は、それまで大笑いしながら一緒に居る人達と話していたけど、もしかしたらこの話をしている時は笑顔で居られなかったかもしれない。
啓貴:俺は小学生の時に、お二人の曲をよくテレビやラジオで聴いていたんです。それでこそ、瞳さんのエピソードの時に触れられていたヒット曲を。凄く綺麗な曲だなとか、カッコいい曲だなとか思う事は沢山ありました。当時はよく弟の隆斗とも聴いていたんです。凄くいい思い出でした…
KENJI:なんだか少し淡い感情ばかりが表だっているように聞こえるような気がするんだが…。その、よく一緒に聴いていたっていう弟さんは今どうしてるんだ?
啓貴:いつもここにいますよ
俺はそういって首に下げていたお骨の入ったペンダントを持ち上げた。そこにはRYU-TOの文字も刻まれていた。
瞳:え…
莉乃:噓でしょ…
純也:あ、だから配信でのコメントでも…一切出してな…
リスナーの皆さんは一斉に声にならない悲鳴をあげた
啓貴:俺の弟、隆斗は…5歳の時に、バイクとの接触による交通事故で旅立ちました。俺は当時小学5年生で、目の前で死なれた弟の事をずっと引きずっていたんです。その頃によく聴いていたのが未来志向さんお二人の曲でした。RYU-TOさんを生放送でお見掛けするようになるまでは、弟が生きていられなかった分まで生きてやる。教員になって特殊な辛さを抱えている児童・生徒を助けるんだって。その一心で我武者羅に生きてました。もしかしたら、当時のトラウマを多少強引に封印していたのかもしれません。でも、またこうして巡り会えた。これも何かのご縁だと思ってまた聴いてるんです
RYU-TO:でも、何でそんなトラウマなエピソードを…
啓貴:RYU-TOさん、先程俺なんて言ってました?弟の事話すって言ったんです。それに、改めて調べてみて分かった事が一つ。弟とRYU-TOさんのお名前の漢字までもが一緒だっていう事が判明したんです。これでこそ何かの運命ですよ。俺にとって、今は亡き弟の存在があったからこそここまでやって来られた。改めて出会う事が出来たご縁がある。お二人には感謝しかないんです
RYU-TO:本当に⁉名前が一緒なんて奇跡だね。弟君が僕らとの巡り合わせをセッティングしてくれたんじゃないか
KENJI:嬉しいもんだな、名前が一緒って
瞳:あ、思い出した。飲酒運転をしたバイク運転手が、信号無視をして交差点に進入。横断歩道を渡っていた5歳児と接触したが、止まることなくそのまま立ち去っていった…目撃情報は6歳年上の兄と、複数のドライブレコーダーに映っていた映像のみ。この情報であってる?
啓貴:ええ。弟は確かにそういった話で1週間程、連日のようにテレビで取り上げられていました。それでこそテレビなんて怖くて着けられなかったですよ
KENJI:にしても、あの時の子のお兄さん…か
啓貴:KENJIさん?
KENJI:啓貴さん
啓貴:はい
KENJI:弟さんの事を変な切り出し方で聞いて申し訳なかった
啓貴:いえいえ、そんな謝らないで下さいよ。テレビでの報道の方がよっぽど怖かったですから。それに、俺自身、いつかお二人にはお会いした時に話しても良いって思っていたので
KENJI:それじゃあ、改めて。ずっとファンで居てくれた事。また本腰で戻って来てくれた事。弟さんの分まで、心より感謝を
俺はKENJIさんとRYU-TOさんに向き直り、感謝の意を返した。これには何故か他のリスナー仲間の人達も俺に対してお辞儀をしていた。
その後は無事にオフ会もお開きとなった。最後はしんみりさせてしまったのではないかと思ったが、皆一様に満足そうな笑顔で帰って行った。
啓貴:隆斗、皆に受け入れてもらえてよかったな
この時、何処かで隆斗が笑ってくれている気がした。
俺はこの日の事を日記に書き、学校の上の人達に持ち掛けてみた。学校でSNSを通じて知り合った人達全てが良い人達とは言い難いという話を生徒達に伝えるべきだと。自分自身は奇跡的に誰も身分騙しを行っていなかった事が幸いしていた。
学校の行事予定と被らない頃に特別授業を取らせてもらう事になった。
ファン主催のオフ会から2か月が経ったある日―
【ネットニュース:長年活動休止中だったユニット“未来志向”の活動再開が公式ホームページにて発表。新規楽曲制作中との報告も】
啓貴:等々発表が出た…か
俺は胸元に下げたペンダントを握りしめた。
―それはオフ会があったあの日の事。
瞳:じゃあ、皆さんまたお会いできる日が来ますように。今日はありがとうございましたあ~
純也:お二人共学業頑張ってください。また会いましょう~
啓貴:俺は教える側ですけどね。でも、人生死ぬまで勉強ですから
莉乃:あはは、頑張りま~す
啓貴:そうだ、さっき撮影した写真はそれぞれのSNSにダイレクトメッセージ経由で送っておきますね
瞳:お願いします~
全員がそれぞれの帰路に向かった
KENJI:そうだ、啓貴さん
啓貴:はい?
KENJI:もし、啓貴さんが嫌でなければなんだが、一つ提案があるんだ
啓貴:何の事でしょう
KENJI:弟君の事を今回の復活記念CDの楽曲テーマに盛り込ませてくれないか
RYU-TO:おい、お前さっきの事もあったのに何言って…
啓貴:俺は…俺はそれで、弟が救われてくれるなら。生前大好きだったお二人の音楽の元で、沢山の人に聴いてもらえたなら。きっと喜んでくれると思います
RYU-TO:啓貴さん、本当に良いの?
啓貴:ええ、寧ろお二人の大事な再出発の舞台に、俺なんかが入り込んで良いのか尻込みしているくらいです
KENJI:そうと決まれば、弟君の事改めて教えて欲しい。啓貴さんとのエピソードを。何も知らないまま曲をリリースするという無責任な事だけは出来ない
啓貴:分かりました。やれる限りの事はやります。何でも聞いて下さい
俺はその時の会話以降、お二人とチャットツールを屈指して、やり取りを行った。オンライン会議を行う事もしばしばあった。制作に携わる時間中は、兎に角楽しさや苦しさ、悲しさ等色々な感情がない交ぜとなったのを今でも鮮明に覚えてる。
その後は、実際にMVの撮影にも参加させてもらえる事にもなった。俺は色んな場所で新しい経験を得る・学ぶという、普段の生活なら絶対に成し得る事が出来ない貴重な時間を過ごさせてもらった。このMVの撮影時は、オフ会の時に参加して話していた俺自身の教員役や莉乃さんの生徒役、純也さんのお茶目な清掃員。復活を待ち望んでいたファンの一人役に瞳さんが入る等、当時希望していた役所に全員入った状態で準備は順調に行われていった。
【公式ホームページより:ファンの皆様から、思い出の一枚というテーマでお写真の募集をかけさせて頂きます。勿論、鮮明に写すという事では無く、少々遠巻きにMVの中に紛れ込ませるようにします。皆様による皆様で共に創る一つの映像を目的と致します。今回の為に撮影されたお写真でも構いません。】
俺は小さい時に撮った隆斗との写真をホームページの特設応募ページにて投稿した。これで、歌にしても映像にしても隆斗の事を生きていた証拠として残してやれるんだと思った。少しでも報いてやれるのであれば生きているうちに行ってやりたいんだ。
撮影も基本的にはクランクアップを迎え、後はSNSでの告知等だけになった頃
KENJI:【先日MVの撮影クランクアップを迎えました。かなり素敵な物に仕上がっていると思いますので、公式アカウントでの告知をお楽しみに!!今回撮影に協力頂きました方々との写真もありますが、それは後日!!】
RYU-TO:【未来志向の復活CDのMV撮影無事に終わりました。今回僕勉強してます。撮影にあたりまして、教員役の方は実際に教師をされてる方から国語の授業を今回の為だけに準備して頂きました。手ほどきされている所を撮影しています。そこの所辺りも是非MVを見て頂くと面白いかもしれません。】
公式アカウント:本日18時にMVの一部第1弾を宇宙最速でお届け致します。明日第2弾を同じく18時に公開致します。皆様お楽しみに
タカヒロ:宇宙w
ハル:公式さん久しぶりの本格運営で力加減分からなくなってるのよ。きっと
リノスタ:そういう問題なんですかね
雑食恐竜:俺らはずっと制作に携わってきてるから運営さんが物故割れるのも分かる気がするけどな~
18時の映像公開時間
公式アカウント:お時間となりました。皆様の元へ第1弾の公開です。
タカヒロ:うお、撮影してたあれ凄く一つ一つ大きさだったけど一件バラバラな気がしたんだよな。どうやったらこんなに綺麗になってるんだろう。編集者様に足向けて寝られないわ…
ハル:タカヒロさん凄い度アップで映ってる。残りの部分はどうなってるのかしら…
リノスタ:もう、個人特定いけそうなレベルでお顔ハッキリ映ってますよね
タカヒロ:俺明日学校行ったら指摘されそうな勢いだなぁ…
雑食恐竜:うわ、今日映像公開で明日職場は修羅場や
タカヒロ:尚且つ明日の映像にも俺写真映るかも知れないっす
ハル:あ、オフ会の写真のやつ?
タカヒロ:いや、それもあるんですけど、それ以外にも弟と一緒に映ってた写真を特設ページで情報提供をしたんですよ
ハル:あらやだ。じゃあ、家にCDとDVDのセットが届いたら速攻確認するわ
タカヒロ:それ以前に明日も映像公開されるじゃないですか
ハル:公開されるのはまだ一部だし、テレビのでっかい所でもっと良い状態で眺めていたいのよ
リノスタ:ハルさん、ご迷惑でないようでしたら今度ご予定合わせて、映像確認ご一緒させて下さいませんか?
ハル:良いよん。私大体土日祝日なら家に居る事の方が多いから発売日以降の予定連絡してね
リノスタ:ありがとうございます
雑食恐竜:この間のオフ会以降本当に距離の詰まり方が縮まってますよね…
ハル:直接会って人柄分かったら、画面越しでも安心感がより一層湧いてきてね
タカヒロ:ここの人達は特にそうですよね。映像撮影の時も一緒に居ましたし
リノスタ:その時KENJIさんから【ここ飲み屋じゃないのよw俺も凄く楽しいけれども】って仰って一緒に座り込んでたの本当に面白かったですもん
ハル:でもKENJIさん全体的に楽しそうだったけどね~RYU-TOさんずっとニッコニコだったし
雑食恐竜:タカヒロさんの特別授業の時の喧しさと言えばもう…一時休憩入った瞬間踊り出してましたもんね
タカヒロ:授業の時と休憩の時のテンションの差は現役生と変わらないんですよ。なんですけど、直後にダンスし始めた途端尋常じゃない行動になるのはやっぱりただのご本人の才能なんだよな…
リノスタ:あれ、小耳にはさんだんですけど一つ。カット掛かった直後もまだ少しだけ撮影が続いていて、わざとKENJIさんに焦点を当てていたようでした。そうしたら速攻【これ使いましょう】ってスタッフさんの小声聞こえてきました…あの場では言うのは辞めておこうって思ってたんですけどそういった事がありまして…
タカヒロ:嘘やん
雑食恐竜:KENJIさん…今度お会いするタイミングがあったら絶対に突っ込みたい案件レベルマックス…
ハル:あれ、地味に毎回っぽいのよね~。ラジオとか雑誌のインタビューでKENJIさん大体【俺毎回ふざけてて…】とか答えてる率高くて
雑食恐竜:俺ヤバい人の所のファンにでもなったの?
タカヒロ:俺も良い意味で自信無くしてきたわ~
ハル:MVの撮影風景とかもいくつか観てきたけど、大体ファンサービスという名の騒がしさは楽しいよ♪
リノスタ:何だか男性陣お二人には悪いことした感が強いんですが…
タカヒロ:いや、大丈夫。俺明日の仕事の準備しに戻ります
ハル:頑張ってね~
俺は次の日も今まで通り非常勤講師として中高一貫の学校に出向いた。
啓貴:そろそろチャイム鳴るぞ~席に着け~
女子生徒1:せんせー、昨日SNSで見掛けた情報で気になった事があるんですけど、一つ聞いても良いですか?
啓貴:手短にならどうぞ
女子生徒2:未来志向さんとの関係性って何ですか?
啓貴:ファンと一アーティスト(逃)
女子生徒1:じゃあ、それの延長線上なんですけど、何でせんせーが未来志向さんのMVに出てるんですかー?
啓貴:今後情報解禁の時に話すから。今は口外禁止なんだ。先方との決まりだからしょうがない
女子生徒2:じゃあ、その時にはちゃんと教えて下さいね
啓貴:ああ、分かったよ。ただ、CDが出た後でもタイミング悪く話せない場合もあるからな。そこは勘弁してくれ
女子生徒:えー何でー?
キーンコーンカーンコーン♪
啓貴:チャイム鳴ったぞ。席に着け
(やっぱり聞かれたか。まあ、この程度の聞かれ具合だったら、CDの発売頃までそのままにしていても大丈夫そうだな)
そこからは、ネットで偶然見掛けて聞いてくる生徒達がちらほら居たが、発売される頃になるとそれも収まっていた。
啓貴:今日はMVフル公開。学校の方にはお願いして今日以降にさせてもらったんだよな。頑張って皆に伝えられるようにするぞ
そう、俺は数か月前に申し出をしたSNSの使い方講座をこのタイミングで行わせてもらえることになった。
啓貴:これから、SNSの安全な使い方について皆さんに理解してもらう特別授業を受けてもらいます。これは先生自身の体験談を踏まえて話させてもらいます。それでは早速こちらの映像を見てください
俺はこの日発売したての未来志向さんのMVをモニターで流させてもらった。
女子生徒1:あ、先生が映ってる
男子生徒1:何で先生がこの映像に?
啓貴:先生は色々とご縁がありまして、ユニット活動をされている未来志向さんのMVに出演させてもらいました。一件他と変わらないようなMVを撮らせてもらいましたが、少しだけ事情が違います。ここにメインで映ってらっしゃるRYU-TOさんとKENJIさん以外の人達は、SNSで知り合った人達の集まりです。実際にオフ会たるものも実施しました
女子生徒2:よく先生達が口酸っぱくネットの人とは会うなって言ってるのに?
男子生徒2:じゃあ、何で先生は良くて俺達は駄目なんだ?
啓貴:決して皆さんが駄目で、先生は良いとは言っていません。これはれっきとした危険行為の一つです。その経験を元に、今回は皆さんに注意喚起を行う授業をしていこうと思っています
女子生徒2:せんせー、どこからどこまでの人がネット民の集まりですかー
啓貴:ネット民の言葉は何処で覚えてきたんだ…
男子生徒1:本当だよ
啓貴:今質問があったから答えます。映像の中でいうと、女子生徒役一人、清掃員役一人、ファン役一人と教員役を務めた先生の4人。共通点はRYU-TOさんの個人配信を観始めた5年前の出会いが切っ掛けです。この時はまだ先生は大学生でした。皆も経験している通り、流行病の影響で大学に通う事が出来ない。人間関係が上手くいかないかもしれないと嘆いていた初年度の学年の人です。その時は同居人とオンデマンド授業で一緒になる人以外に話す機会があったのはここの人達だけでした
男子生徒1:外出はしなかったんですか?
啓貴:皆も外に出る事は極力するなって言われた事ありませんでした?
女子生徒1:あった
啓貴:先生もそうです。ご飯の材料の買い出し以外には外に出ていませんでした。それもあって、より一層関わり合いを持てたのが、この一緒に映っている人達です。今回の事例は5年間の画面越しの関わりがあり、互いに嘘を付き合っていないという事が分かっていたからこそ上手く行きました。世の中これ程上手くいった事例は多くありません。テレビニュースで話題となったものとしても、女子大生がSNSを通して知り合った男性に殺されて大学の除籍処分を受けた事例や、マッサージ師見習いの19歳女性がSNSを通して知り合った30代の男性に森林の中で惨い殺され方をされた人もいます。女子大生の例に関しては、後で調べてみたら先生が通っていた大学の先輩だった事が分かりました
男子生徒1:先生、そういった話を真顔で話さないでよ
啓貴:こういった話が身近にあるからこそ、真顔にもなるものです。皆さんも一概に例に漏れる話ではありません。先程ネット民というワードが飛びましたね
女子生徒2:私じゃん
啓貴:先生の場合は偽りなく関わり合った事や、周りの人が悪用しようとしなかった人達の集まりだった為に、使い方を間違わずに済みました。同じ趣味趣向の人だから誰でも会って良いとは限りません。過激派の人に会って、先程の事件と同等のものに出逢ってしまう可能性が大いにあります。先生個人としては直接出会う相手でもSNSで出会う相手でも、大切にし合える相手をしっかりと見極めて欲しいと思っています
男子生徒1:凄い矛盾点
男子生徒2:じゃあ、何で今回授業にしようと思ったんですか
啓貴:皆には、まだしっかりとしたネットリテラシーを身に付けられていない事や、実例に対して実感が湧いていない可能性が十分にあり得えます。この後、応用編の知識について更に学んでもらいます。一度ここで休憩の時間を取りますので、15分後に同じ席に戻ってきて下さい
その後の応用授業においても、色々と聞かれた事に対して答えたり、俺自身が用意してきた内容に生徒皆に応えてもらったりした。全員が全員納得したとは思っていない。第二次反抗期中だ。自分は違うと言って危険を冒す可能性もありそうだ。でも、心のどこかで影響を受けてくれていると祈るばかりだった
啓貴:今春にはCDも発売…か。隆斗の事が色んな人に届きますように。
公式アカウント:【本日は復帰記念CD発売日。各店舗にて未来志向専属のショーケースも設けて下さっておりますので、お時間ある方は是非足をお運びください】
KENJI:【本日は未来志向復帰記念CD発売日です。俺も早速、ミュージックテラスさん渋谷店にお邪魔してきました。ショーケースに居る僕らと写真を撮らせて頂きました。皆様、記念撮影をされる際には周りの方にご迷惑とならないように注意を払ってから、撮影されるようにして下さいね。先日撮影したMVの写真も一緒にどうぞ】
RYU-TO:【本日発売。復帰記念CDの方はこちら。僕は仕事の関係で新宿に居りましたので、ミュージックテラスさん新宿本店の方にお邪魔してきました。早速ショーケースの方に沢山の方にお集まり頂けているようで感激です。僕もその後は記念撮影して参りました。個人的にはMVの勉強シーン制服着てる事まで諸込み突っ込まれておりますが、是非お店でもご自宅でも楽しんでもらえますと僕も嬉しいです。宜しくお願いします】
公式アカウント:【今回のCD発売を記念して3月中旬にライブを開催する事が決定いたしました。特設ページよりライブの同時配信も決まっておりますので、現地参戦を断念される方も含めて沢山の方々と楽しむ時間を過ごしましょう。】
啓貴:公式さんや、2月下旬発売までは知ってたけど俺、そこまでは聞いてないっす…でも、楽しみや~
ライブ当日―
今日のライブは復活記念祭。俺は特別席に招待された。お二人には自分も当落に混じってチケットを取りたいと言ったのだが、どうしてもと言われ断り切れなかった。
この日は復活記念祭という事で、沢山の人から応募が寄せられた。元々同時配信だってあったしここまで来ると、現地参加に当選しなくても家でも観れ…ゲフンゲフン。折角席を用意して下さったお二人に失礼な事を言いかけた…有難うございます。
KENJI:現地参加の皆さ~ん。画面越しに観て下さってる皆さ~ん。お元気ですか~!!
RYU-TO:KENJI、初っ端そのテンションでかっ飛ばして終盤電池切れとかしないか?
KENJI:久々に直接二人で会いに行ける場ができたら嬉しいだろ
RYU-TO:まあ、そこに関しては僕も人の事言えないか
そう会話を交わしてお二人は壇上に現れた。その後繰り広げられていく数々の楽曲たちに俺自身も心を動かされていた。そして、ライブは順調に進んでいき終盤に差し掛かって来た頃、トークタイムを差し込んできた。
KENJI:ということで、一旦お熱冷ましタイム
RYU-TO:僕らもだけど、皆さん水分補給されてね。倒れちゃうと大変だよ
会場の人達皆一様に椅子に立っていた人は椅子に座り直したり、水分補給をし始めたりした。
KENJI:実はね、今日は会場にMVに教師役で出演してくれた啓貴さんが来てくれてるんですよね
RYU-TO:そう、今回復帰記念に合わせて楽曲制作を行った中の2曲の方でご協力をお願いしてまして
KENJI:今ね、俺ボケようかと思ったのよ。でもそれやったら多分炎上するなって思って辞めました
RYU-TO:復帰して早々炎上だけは勘弁してくれって
KENJI:じゃあ、俺ら二人も含めて皆で踊る?
ガヤ:KENJIさん踊ってー
RYU-TO:んふふ
KENJI:何か俺だけになっちゃった
RYU-TO:ねえ、もうラスト3曲なのよ。次バラード寄りばかりだよ!?新曲だよ!?大丈夫⁉
KENJI:ね、という事で今RYU-TOの方からの紹介があったけど、次でラスト3曲になりました
ガヤ:え~
RYU-TO:んふふ
啓貴:RYU-TOさん、いつものツボに入ってしもた…
純也:RYU-TOさ~ん!!
啓貴:いや、待て!?(純也さん来てる~)⇐元吹奏楽部部員
KENJI:RYU-TOさ~ん、生きてる~?
RYU-TOさんはツボに刺さってしまい、ターンテーブルの所でお手振りをするのに精一杯で、返答するのは難しい状況になってしまった様子…
KENJI:ま、この調子だとあと30秒くらいすれば収まる。うん、大丈夫
その言葉通り、RYU-TOさんは何とか立て直し、俺が事前に渡しておいた手紙を代読して下さる事になった。
KENJI:そうそう、この後歌う曲で出演と楽曲制作で協力して下さった啓貴さんからお手紙を預かっておりまして、今回親交の深いRYU-TOに読んでもらおうと思ってまして…準備の程は宜しいですか?
RYU-TO:それじゃあ、代読させて頂きます
KENJI:宜しくお願いします
“KENJIさん、RYU-TOさん。この度は楽曲制作の協力依頼の件、誠に有難うございました。僕は元々音楽好きの一人でしかすぎず、お二人の小さなファンでした。ユニット活動休止中に出会った個人配信を通して、僕は沢山の人と交流をし、絆を深めてきたうえに、教員としてもその経験を生かす課外活動の授業を行う事も出来ました。本当に感謝しています。そして、今は亡き弟、隆斗の事を【名前が一緒なんて奇跡だね。弟君が僕らとの巡り合わせをセッティングしてくれたんじゃないか】という話で盛り上がったうえに題材にして下さった事、心から感謝申し上げます。これで僕は、空で見守る隆斗ともより一層素直に向き合う事ができ、胸を張って教壇に立つ事が出来ると思います。お二人が制作して下さった歌詞や音が、一人でも多くの人の元へ届く事を切に願い、僕も会場の一角で見守らせて頂きます
ありがとう。そして、これからも”
啓貴
KENJI:ありがとうございます
RYU-TO:今回の為にお手紙も書いて下さっててね
KENJI:啓貴さ~ん
俺は急に呼ばれてびっくりしたけど、思いっきり手を振り返した。
啓貴:は~い
KENJI:あ、いたいた
RYU-TO:普通に居場所ばらしちゃってるよ。さて、そろそろ曲の方に入りましょうか
KENJI:はい。それじゃあ、復活記念CDから3曲。僕らの成長と、別れからの成長を成した啓貴さん兄弟のコラボ曲。【旅人】【鈴鳴り】
RYU-TO:最後に【powerful challenger】をお届けして今日のライブを締めくくりたいと思います
KENJI:今日は皆観に来てくれてありがとうね
RYU-TO:僕らは必ず会いに来ます。その時まで
この日は本当に人生で忘れられない1日になった。絶対に忘れない。会場に来た人達と壇上にいらっしゃるお二人と皆で記念に写真を撮って幕を下ろしたあの瞬間まで。ずっと弟の事をひた隠しにしてきた時間も含めて、この20数年は無駄では無かった。手紙で綴った通り、今後は胸を張って人前で授業をしていこう。これが今後の俺の目標だ。弟にとっても自慢の兄で在り続ける為に。
女子生徒1:先生、もうCD発売されたし、記念祭も行われたから聞いても良いよね
女子生徒2:未来志向さんとの関係性って何なんですかー?
啓貴:家族
―FIN―