文学少女はおにぎりと相性が合わない
「先輩、何してるんですか? 」
部室のドアを開け、一番最初に目に飛び込んできたのは、パイプ椅子に体育座りする先輩の横顔と、机の上に置かれた一つのおにぎり。
「せんぱ……」
「話しかけないで、今このおにぎりと戦っているの。」
また何か始まってしまったようだ。先輩は突如として異世界の住人になってしまうことが少なくない。
そのまま時は流れること10分、20分。
しばらく黙っていたが、時計の長針が半周すると同時くらいに、その沈黙は破られた。
僕の一言によって。
「あの……」
「負けた。会議する。」
「負けたの!? ……んですか!? 」
どうやって? そして会議?
「文学部の長たる私がおにぎりに負けた。今から部員5名で会議します。集めて。」
「……はーい。」
1時間後、部長、僕以下4名が部室に集められ、円形に椅子を並べた。
「本を汚さずにおにぎりを食べるには、について話し合います。意見ある人。」
はい、と一番左端の凛が挙手する。
「おにぎりを食べなければいいと思います。」
「ダメ。最初からそもそも論を提示してくる人は会議に向いてません。退場」
次に挙手したのは左から2番目の陸。
「電子書籍に1票。」
「ダメです。文学少女たるもの、紙の本を愛してこそです。退場」
真ん中に座る紗羅が挙手せずに発言する。
「おにぎり食べてから本を読むのはどうですか。」
いや、部長はおにぎり食べながら本読みたいんだよ、また却下されるに決まっている。
「……一理ある。」
あるのかよ!
「でも! 私は文学少女を名乗る以上は一分一秒を惜しんで本を読んでいたいの! 紗羅、あなたはよくやったわ。でも残念ね、退場よ! 」
キィとパイプ椅子を鳴らし、紗羅がカバン片手に部室を去っていく。
そしてまた、僕と部長の2人だけになった。
「みんな帰りましたけど……。」
「君から提案は? 」
「あるけど…怒りそう。」
「怒らないから言ってみて。」
「あの……ブックスタンドって知りませんか?こう、本を開いたままたて掛けられるやつ。」
「え……?」
それきり、先輩はぽかんと口を開けたまま動かなくなった。
「先輩」
呼びかけたが返事がない。
ただの○のようだ。
「先輩、コレあげます。帰りますね……。」
蝋人形と化した先輩の指先に、持っていたブックスタンドを引っ掛ける。
それはしばらくプランプランしていたが、その揺れが収まらないうちに僕は素早く帰路についたのだった。
その日から1週間、部長は僕と目を合わせてくれなかった。
本当はもっと、おにぎり食べる時間で読み進むであろうページ分を圧縮印刷して壁中に貼るとか、それを部員が部長のために必死で用意したのに次の日にはもうサンドイッチにハマっていた部長とか、書きたかったです……。ラノベっぽくなりました。