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9. 仲間探しを諦めさせてもらえない

「じゃあ初級の世界に行くから」

「もう諦めましたか」

「アレはダメ。なんならセーラよりヤバイから」


 セーラの場合、気をつけるべきは敵との戦闘時だけだ。特にボスや強敵相手に回復されたら非常に厄介ではあるが、何かしら工夫して対処する余地はある。


 しかし、トモエは危険すぎる。罠の内容次第では、かかっただけで即死するかそれに近いくらいの被害を受ける可能性が高い。落とし穴の中が鋭い槍だったら、体ごと溶かす酸だったら。天井が落ちてきたり宝箱が爆発したり壁から弓矢が飛んで来たり。これらを悉く起動されたら、まともにダンジョン攻略なんて出来やしない。


 そして最も厄介なのが、罠感知のあるトモエより早く罠を見つけるのが難しいことだ。メイが何かしら対処する前にトモエが行動してしまうため、罠の起動を阻止することが出来ないばかりか、いつ罠が発動するか不安になりながら行動し続けなければならない。


「次の方を紹介しなくてもよろしいのでしょうか」

「うん、止めとく。この流れはヤバい」

「流れ、ですか?」

「次で三人目でしょ。これで三人目もポンコツだったら、私を入れて合計四人。メインキャラが四人の話って多いんだよ。流れ的に三人が強引に押しかけてきて私が振り回されるタイプの話になるのが目に見えてるから」

「はぁ……」


 四人。

 古くからRPGなどのゲームで基本となっている人数であり、漫画やアニメなど物語の主要人物も四人で構成されていることが多い。

 メイはポンコツ三人と固定パーティーになってしまうことを何よりも恐れていた。コメディは好きだけれども、自分が振り回され続けるのは勘弁だ。


「ということで、二人が戻ってくる前にもう行くから。バイバイ」

「ダメです」

「え?」


 席を立とうとしたメイをメグが呼び止める。


「メイには次の方のサポートをしていただきます」

「なんで!?さっきの話聞いてた!?」

「もちろん聞いておりましたが、それでも、です」

「(あ、これヤバい流れだ)逃げ!」


 メグの雰囲気から、四人揃うとか、セーラやトモエの悪趣味とか、そんな話はどうでも良くなるくらいヤバい人物を押し付けられそうな予感がしたメイは、即座に撤退を決断した。逃げるのがほんの少しでも遅れていたり、説明を求めていたら、メグにまたどこかしら掴まれて拘束されていたに違いない。


「うおおおお!」

「逃がしませんよおおお!」


 走る、走る、迷わず、振り向かず、一直線に、次の世界への扉に向かって突き進む。

 後ろでカウンターを乗り越える音が聞こえる。

 猛烈な速さの足音が聞こえる。

 不安になるな、逃げきれると信じ抜け、力の限り走り抜けるんだ!


 撤退判断のタイミングも初動も完璧だった。

 しかしそれでも、メイの望みは後数歩のところで潰えてしまう。


 メグがギリギリのところで追いつき腰に猛タックルを喰らわせる。


「は、はなせええええ!私は次の世界へ行くんだからああああ!」

「もう一人、もう一人だけですから!それが終わったら行ってください!」

「その一人が怪しすぎるんだよおおおお!」

「大丈夫ですよ。セーラさんやトモエさんより……大丈夫ですよ!」

「そこはちゃんと嘘つけよおおおお!」


 強烈な力でメグに押さえつけられているものの、諦めるわけにはいかず、全力で暴れ回る。メグも押さえつけるだけで精一杯という感じで状況は膠着している。


 すると、地面でキャットファイト二回戦をやっている二人の前に、一回戦を停戦させて二人を叱った初老の男性スタッフがやってきた。


「さ、騒いでごめんなさい!でもその扉!その扉の先に進めば大人しくなりますから!メグを離して下さい!」


 この男性がやってきたのは騒いでいるメイたちを注意するため。自分が扉の先に進めば静かになるので助けてくれるだろうとメイは期待した。


 が、その期待は無残にも崩れ去る。


「申し訳ございません。メグの言葉は私共の総意でして」


 絶望しかなかった。


--------


「くそっ、開かない!」


 奮闘むなしくメイが連れてかれたのは、三度目の応接室。ただし今回は外側から鍵がかかっていて開けられない。さっきまでは内鍵だったのに、いつの間にか外鍵に変わっていた。


「窓もない。後は壁をぶち破って逃げるかだけど……」


 コンコンと部屋中の壁を叩いてみるが、薄そうな場所は無かった。


「天井裏とか無いかな?」


 部屋中のどこを探しても抜け道らしき穴は無い。


「こんなことなら針金使った開錠の方法を覚えておくんだった」


 実は、萌姉が用意していた『異世界転移用に覚えておくべき技術一覧』の中に針金開錠の項目があったのだけれど、それを教わる前に転移してしまった。


「それならこれしかないかな」


 目を閉じて数度深呼吸をする。集中力を高め、体の中から沸き上がるソレを強く意識する。


「(イメージ……イメージだ……巨大な拳……すべてを粉砕する……破壊の拳)」


 誰も目にすることのできないソレが徐々にイメージ通りの形になりつつある。自分の体よりも大きな透明の拳。それがメイの右前に浮いている。


「うりゃああああ!」


 メイが扉から少し離れたところで気合を入れて空中を右ストレートでぶん殴る。すると、拳の形をしたそれが勢いよく扉に向かってぶつかった。


 ドゴオオオオオオオオオオン!


 メイがオークに襲われたときに発現した能力。


 『(仮名)強い想いが世界を変える』


 これは、未知のエネルギーを体内から生み出し、それを具現化する能力だ。具現化といっても相手が視認することが出来ないため、見えない攻撃として利用できる。仮名となっているのは、一部の能力はこのように名前未定で発現することがあり、メイがまだこの能力に正式な名前をつけていないためである。


「チッ、魔法的なガードがかかってるのかな」


 激しい音がしたにも関わらず、扉は無傷のまま。試しに扉以外の壁に向かって殴ってみたけれど、壊れるどころか傷一つつく気配はない。殴るたびにボンガボンガ音がなってうるさいが。


「それならもっと威力上げてぶち抜くから!」


 再び目を閉じ、より深く集中し、より強い力で扉をぶち抜くイメージをする。


「はああああ!一撃ぃ!二撃ぃ!三撃ぃ!れんだあああああああ!」


 左右の拳を宙に生み出し、気合を入れて交互に連打する。すると、殴った先の魔法防御的な何かが、衝撃で揺らめきだしたのが見えた。


「よし行ける。これならぶち破れるから!」


 と思ったその時、金属をひっかくような不愉快な音が部屋の中に鳴り響く。


「ぎゃああああ!ず、ずるいからああああ!防御力で勝負しろおおおお!」


 嫌な音に集中ができず、力は霧散した。


「くそぅ、こうなったら耳栓でも作って……」


 この状況でも諦めず、部屋の中に耳栓になるものはないか、無いならソファーの生地を破いて耳に詰めようか、なんてことを考えていたメイだったが、時間切れだ。メグが部屋にやってくる声が聞こえてしまった。


「ほら、早く来なさい!」

「い~や~だ~!」

「もー歩きなさーい!」

「い~や~だ~!働きたくな~い!みんなにお世話されたままが良~い!」


 ズルズルと何かを引き摺るような音が聞こえて来る。


「これでダメだったら追い出します」

「またまたぁ。そんなこと言って、どうせ甘やかしてくれるんでしょ?」

「いいえ、今回は本気です。あなたのお世話係が来ましたから」

「?」


 誰がお世話係だ、と突っ込みたかったが、それよりも何としても逃げなければならないという焦りの方が強かった。


「(このままじゃ詰む。このままじゃ詰む。このままじゃ詰む。このままじゃ詰む)」


 焦ったメイが選んだ方法は、扉が開いたときの死角に隠れ、メグたちが中に入ってきた時にこっそりと抜け出す方法だ。あるあるな手口ではあるけれども、これくらいしか思いつかなかった。内開きの扉なので、実践することは可能ではある。


「(上手く部屋から脱出して、全力で逃げて次の世界への扉をくぐる。この先は敵だらけ。あの能力を使ってなんとか突破できないかな。どう使えばもっとスピードアップできるか。まてよ、追ってくるメグを正面からぶん殴ってその反動でスピード出すとかどうかな)」


 などと考えているうちに、メグが扉の前までやってきた。


「お待たせいたしました」


 ガチャリと扉が開く。


「なんで外開きに変わってるの!入ってきた時は内開きだったから!」

「こんなこともあろうかと」

「どんなことよ!」


 部屋を抜け出せなかったり、途中で捕まる可能性は考えてはいたが、扉の開く向きが変わっていて、作戦そのものが封じられるのは予想外すぎた。


「往生際が悪いですね」

「ぐうっ……」


 メイは両手で頭を抑え、左右に体を少し揺すってから、膝立ちになる。その後、手はそのままに胸を反らして顔を上に向ける。


「くっそおおおお!」


 と、叫んだ後に反った体を戻す反動で上体を前に倒し、両手を地面に着く。


 orz


 苦悩バージョン。


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