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65. 変身バンクは手を抜かない

「おーほっほ、私に負けを認めるためにのこのことやってきましたね、ウェザー!」


 黒い魔法少女コスを身に纏った金髪縦ロールの女性が、甲高い哄笑を叫びながら仁王立ちしている。その後ろでは同じコスを着た女性達が手を後ろで組み、胸を反らし、横一列に並び立っている。


「あら、あらあらまぁまぁ、何でしょうかその無様な格好は。魔法少女たるもの、命より大事な魔法少女服を手放すとは、気が狂ったのかしら」


 対するウェザーは驚くことに私服姿であった。この世界では寝る時と風呂に入る時以外は必ず魔法少女姿を貫いていたウェザーが、宿敵との決戦の前に勝負服を脱ぎ去った。ウェザーの事を知る人物がこの姿を見れば心底驚いた事だろう。


 だがここには関係者しか居ない。ここはジーマノイドに依頼して作ってもらった草原フィールド。一般人に危害を加えないように用意してもらったのだ。その見返りに、この戦いは中継されて一つのエンタメとして提供されている。


「しかもたったの五人ですって。あなたの無茶苦茶な魔法少女論に愛想がつかされたのかしら。それとも端から戦う気が無く敗北宣言でもするのかしら。全裸で土下座でもすれば許してあげなくはないわよ。おーっほっほ」


 黒い魔法少女達の前には、ウェザーとメイ一行だけが立っている。ウェザーの元々の仲間達は見当たらない。


 ここまで黒い魔法少女に一方的に嘲笑されていたウェザーだが、ここでようやく反応を返す。


「ふっ……マニー、あなたは魔法少女というものを何も分かって無いわね」

「なんですって!?」


 マニーと呼ばれた黒い魔法少女コスの女性はウェザーを侮辱し嘲笑していたが、ウェザーはそれに対抗せず、むしろ憐憫の眼差しでマニーを見つめている。


「これはどちらが魔法少女として優れているかを決めるための争い。その場に端から変身後の姿で登場するなどありえないわ」

「何を言って……変身ですって、まさか!?」


 端からも何も魔法少女の争いならば魔法少女コスで登場するのが自然だ。だがそれは『ある行為』を実現するのが不可能なため。ウェザーが私服でここに来たということは、その問題を解決出来たということであり、その事実に気付いたマニーは恐れおののいた。


「見せてあげる。これが魔法少女の登場シーンというものよ!」


 ウェザーは横に立つメイ達と視線を合わせ、頷いた。


「(ああああ、これよこれ、さいこーーーーーーーう)」


 表情を変えないが、ウェザーは内心絶頂の想いであった。


 敵と相まみえる瞬間、仲間と共に視線を合わせるだけで以心伝心するシーンをどうしても経験したかったのだ。なお、『みんな、行くわよ』と声をかけるべきか否かで彼女たちは一昼夜議論していた。

 また、仲間が横に並んでいるというのも良い。仲間内でリーダーとその他のような階級が存在するわけでは無く、誰もが等しく主人公。活躍の場も同様にあり、ラスボスを倒すのは主人公だけが気合を入れて頑張るのではなく全員が協力した攻撃によるもの。その魔法少女ならではの本当の意味での階差の無い仲間感がウェザーは最高に好きだったのだ。命令を聞くだけのロボットと化した僕を沢山作ったウェザーであるが、本心ではそのような仲間が欲しかったのである。


 同じ横並びでも、リーダーだけ前に出ているマニーと、全員が横並びのウェザー。

 この時点で既に魔法少女としての在り方で圧倒している(とウェザーは思っている)のである。


 ウェザー達はタイミングを合わせて右手を前に出す。


「!?」


 これもまた、全員同時に出すかタイミングをずらして出すかで白熱した議論をした。


 突き出された手のひらの上にはハート形のコンパクトケースが乗せられ、パカリと蓋が空くと中には大きな宝石を中心において色とりどりの飾り付けが為されている。これもまた、彼女達の渾身のデザインによるものでジーマノイドに作ってもらった一品だ。


「や、やっぱり……」


 コンパクトケースはオルゴールになっており、五人分の曲が重なり勢いのある音楽を奏でる。


「(よし、絶対に決めて見せるから!)」


 五人の服が突如消え、全身が虹色のオーラに包まれる。するとウェザーが地面から僅かに浮かび上がり、音楽に合わせて様々なポーズを取ると、靴、ソックス、スカート、服、リボン、コサージュやリングなど、魔法少女コスチュームを少しずつ順番に身に纏う。ピンク色をベースとしたその服は、今回の戦いのために新たに作り直したウェザーの新衣装であり、ネイルなどの細かい部分に至るまでこだわり抜いた一品だ。


 最後にコンパクトケースが変化したロッドをクルクル回転させてから音楽のキリの良いタイミングでポーズを取れば完成。


「愛する気持ちで皆を守る!プリティラビリオン!」


 これこそがウェザー達が用意した究極の演出『変身バンク』だ。


 絡繰りは簡単。魔法少女服を着ている状態で、上からメイの色付き力で覆って私服を着ているように誤魔化し、その力を変化させて変身しているように見せているのだ。


 もちろん、無色透明の力に単に色を付けられるだけの能力でこんなことは出来ない。詳細かつ繊細な色使いを動きに合わせて実現しなければならないのだ。この訓練が必要であったため、なんとウェザーが今回の話を持ってきてから二か月以上も経過している。


 同様にメイ達も考え抜いた渾身のポーズを決める。ノリノリである。


「正義を貫き、悪を倒す!プリティミラクル!」


 メイは真っ赤な衣装を選んだ。赤とピンクで色被りなどとは言ってはならない。お互いピンクが良いと主張する中で、話し合いに次ぐ話し合い(物理)でどうにかまとまったのだ。


「癒しの力でみんな元気!プリティヒール!」


 セーラの衣装は青色だ。癒し系だからこそピンクが似合うが、セーラはメイやウェザーに対してそのような主張を押し通す気力は無かった。


「ウネウネはみんなのアイドル!プリティトラッパー!」


 トモエは黄色。魔法少女の名乗りとは思えないが、プリティさえついていれば後はノリで押し通す。


「ねればねるほど……テーレッテレー!プリティメディスン!」


 ソルティーユは紫。名乗りは完全にアウトだ。これ以上触れてはならない。


 変身を終えた全員が、ウェザーを中心に戦隊ものよろしくポーズを決める。


「私達プリティピースが、偽物の魔法少女を打ち砕く!」


 最後に決め台詞に合わせて背後で光やら星やら虹やら可愛らしい動物やらを描けば完璧だ。


「な、な、な」


 ここまでの演出をやってくるとは思わなかったマニーは、体の震えが止まらず言葉が出ない。魔法少女としての在り方を見せつけられ、悔しさに打ちひしがれているのか、それとも頑張りはしたものの素人感が否めないつたない変身バンクを見せられて怒りが湧いているのか。


 いや、違う。彼女が今強く感じている想いは、羨望だった。


「あれ私もやーりーたーいー!」


 高飛車キャラはどこに行ったのか、小さな子供の用にダダを捏ね始めた。


「あれほーしーいー!変身もしーたーいー!」


 地面に寝転がってジタバタする勢いだ。そのマニーを見てウェザーが悪い顔を浮かべている。このままではまずいと思ったマニーの側近が、彼女を元に戻すべく声をかけた。


「マム!落ち着いて下さい!」

「いーやーだー!あれやるまでかーえーらーなーいー!」


 帰る帰らないの話では無いのだが、ノリ的に言ってしまった。優秀な側近が駄々っ子をあやす。


「マム!良い方法があります」

「ふぇ?」

「勝てば良いのです。勝って奪えばマムの欲しいものも手に入ります」

「……………………そうか!」


 そうか、じゃねーよ。

 完全に魔法少女としての考えから逸脱していることにマニーは気付かない。


「チッ」


 舌打ちしてツッコミを入れないウェザーも気付かない。むしろ当然の判断だと思っている。こいつらもうダメだ。


「ありがとう。あなたのおかげで助かりました」

「はっ!光栄です!」


 側近は元の位置に戻り、マニーの語気は勢いを取り戻す。


「認めましょう。あなたの魔法少女にかける想いは本物であると」

「負けを認める、ということかしら」

「そうではありません。そもそも私が問題にしているのは別のことなのですから」

「まぁそうなるわよね」


 この二人が絶対的に相容れないこと。それが解消されない限り和解などありえないのだ。


「面白いものを見せて貰った感謝の念を込めて、全力でお相手して差し上げますわ!」

「ははっ!上等だ!」


 魔法少女は上等だ、などと言わない。


 何故地の分で突っ込んでいるのか。それは本来突っ込む役であるはずのメイが……


「(ツッコンだら負けツッコンだら負けツッコンだら負けツッコンだら負け)」


 異常なやりとりに関わるのを拒否しているからである。


「この勝負に勝って、接近戦こそ魔法少女の華だと認めさせる」

「いいえ、魔法少女は遠距離攻撃こそが最高に輝く瞬間ですわ!」


 これこそが抗争の原因。

 どちらが魔法少女の戦い方として相応しいか。

 真逆の主張をする相手を屈服させ仲間を増やす。どちらもそのことしか頭に無かった。

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