53. コソコソ隠れるのは性に合わない
「見つけた」
砂浜から海に入ってそう遠くない海底に宝箱が置かれていた。海の広さはかなり狭くなっており、海中でも動けるモードが継続されていたので、探すのも見つけるのも簡単だった。
「誰が取りますか?」
「どうしよっか」
優先して海を探しに来るチームはいないようで、メイ達の周りに人気はない。十位ということもあり、上位よりも戦略を練る時間が与えられるような設定になっているのかもしれない。だとすると戦略が練られないスタート地点付近の宝箱担当は一位~三位あたりだろうか。
「やっぱりメイで良いと思うぞ。バレバレでも守れるのはメイだけだぞ」
「でもトモエなら罠使って守れるでしょ」
「数で攻められると防ぎきれないぞ。最後の一時間でたくさん襲ってくるから守りにくいし、メイよりもヘイト稼いでるから狙われる可能性も高いんだぞ」
「稼いだヘイトはリタイア時に消えてると思うけど……まぁ確かにトモエは狙われそうだなぁ。開幕のアレも逆効果だったかな」
例のぬちょぬちょぐちょぐちょによって、トモエに手を出したら酷い目に合うと思わせることに成功したが、逆にトモエがコインを持っていると思わせてしまったかもしれない。
「んじゃ私にしよっか。セーラやソルテでも面白そうだけど、結局私とトモエがやられたら守る手段が少なくて厳しそうだもんね」
ソルティーユあたりなら薬瓶を投げつけてけん制くらいは出来るかもしれないが、セーラは回復担当なので走り回ることくらいしか出来ない。せめてソルティーユの薬の効果が分かっていれば戦略を立てようがあるのだけれど、新しい組み合わせにしか興味のないソルティーユがそんな準備をしているわけがない。
「そうだ、まずはトモエが取ってくれない?」
「Me?」
「うん、それで五秒くらい経ったら私に渡して欲しいの」
「なるほど、了解だぞ」
コインを十秒手にしたら消える、というルールの『十秒』が個人で十秒なのかチームで十秒なのかを確認する。
「三……四……五、どうぞ」
「……六……七……八……九……十……十一……十二……消えない……はい、セーラ」
「え?え?」
「次はソルテね。十秒経たないうちに回してね」
数えミスを考慮して少し長めにカウントしたが、チーム合計で十秒経ってもコインは消えなかった。どうやら十秒とは個人で十秒を指すようだ。
また、次にメイに戻ってきた時に五秒以上保持してみたけれど消えることが無かったので、個人合計十秒ということでも無い。
「は、はいっソルテ」
「わわっ」
「こうやってずっと渡し続ければコイン消えないね」
「現実的じゃないぞ」
コイン一枚だけでもめんどくさいのに、今後コインが増えたり他チームと激突した時に受け渡し何てやってられない。
「あはは、そうだね。それじゃ私に返し……あれ、力で覆ったらどうなるんだろう」
手にしていないと判断されたなら、例え行動不能に追い込まれたとしても力で守り続ければ奪われる可能性は低くなるのではないか。
「あちゃーダメか。そりゃそうだよね、もしセーフなら私が有利すぎるもん」
力を経由して触れたときも、手にした扱いになる。流石に対処がされていたようだ。
「リストバンドをポチっと。おお、マイナスが消えてる。このコインで正解みたいだね」
総合十位以内が負う指定したコインを獲らなかった場合のマイナス五千ポイント。その分がチームの得点の横に括弧で括られて書かれていたのだが、それが消えていた。
これで肝心のコインをメイが手にしたことで確定だ。優勝のためには確実にこれを守り続けなければならない。
「よし、それじゃあまずは人が来る前に急ぎで海のまわりを探そう。その後は残り一時間になるまでなるべく人目を避けて宝箱を探すよ」
「途中で戦わないのですか?」
「相手が一チームならやろう。手を出して強かったら速攻逃げる。相手も私達相手に時間をかけ続けられないだろうし、ある程度逃げれば追って来なくなると思うから奪われる可能性は少ないと思う。そんな余裕もないくらいやられたらその時はその時かな」
優勝を目指すならばそのくらいのリスクは負わなければならない。
この判断が大正解で、ここからメイ達の快進撃がはじまった。
「やったー二位まで上がったよ!」
海の付近で未発見の宝箱を四個見つけた後、他の地域に探索の手を伸ばしたが宝箱は見つからなかった。このままではポイントが伸びないと不安になりかけたところで別のチームに遭遇。
フルボッコにした。
トモエの落とし穴からの触手拘束。運良く逃げ延びた一人はメイが力で無理矢理押さえつける。このコンボが成功してあっさりと相手チームを行動不能にしてコインを二枚ゲットした。
そもそもこの世界では身体的ダメージを受けないため、物理的にダメージを与えて行動不能にすることは出来ない。そのため何らかの工夫が必要なのだが、メイ達はそのための効果的な手段を二つも持っていた。
トモエの落とし穴+触手のコンボとメイの見えない力での押さえつけ。どちらも速攻で発動するため不意打ちを仕掛けられたら逃げることはまず不可能。
先手を取れたとしても生半可な攻撃ではメイの防御を破ることは出来ず、力を盾にどんどん近づいてきて、気付いたら足元に落とし穴が出来てしまう。
メイ達にとって非常に有利なルールであり、別チームをガンガン倒してコインを荒稼ぎしたのである。
「一位まであと二千ポイントかぁ……でもそろそろ残り一時間なんだよね」
「時間になれば大量に人が押し寄せてきますから、これまでのように倒すのは難しいと思います」
「ヘイトいっぱい稼いじゃったからねぇ。狙われるだろうなぁ」
トモエの極悪コンボにより見せられないよ状態になった人が間違いなく仕返しにやってくるだろう。もちろん仕掛けられたら落とし穴でけん制するけど、人海戦術で来られたら防ぎきるのは難しい。
「順位変動も収まって来たし、みんな最後の作戦タイムかな」
行動の合間に総合順位を逐一チェックしていたが、上位ランキングは常に動き続けていた。例えば序盤は二位だったチームが今では二十六位まで落ちているし、現在四位のチームはこれまで上位ではまったく見かけなかった名前だ。
その動きが残り一時間を前にパタリと止んだのは、これから先のラストバトルの準備をしているのだろう。
なお、メイ達が陣取っているのは中央草原のやや海より。腰まで伸びる高い草が生えているところなので、座って周囲から姿が見えないようにしている。フィールドのど真ん中ということもあり、このままでは全方向から攻められることは間違いない。
「本当にそこで迎え撃つのですか?」
「うん、そうだよ」
「大変だぞー」
「めんどくさいー」
守りに徹するのならば、方向を制限するために背後が壁になっているところや、身を隠しやすいところ、逃げ道が多いところなどを探すべきである。
しかしメイが選んだのは見晴らしの良い草原。それも今隠れているところのような高い草が生えているところでもなく、隠れるところが何もない場所。
「障害物があると相手の行動も見えにくくなるからね。壁を背にしても良いんだけど、背後からの攻撃が完全に防げるわけでも無いし、それならいっそのこと真正面からぶつかって来てもらった方が受けやすいかなって」
壁があってもそれを壊されるかもしれないし、上に登られるかもしれない。自分たちでは想像も出来ないような攻撃を受けて、鉄壁の守りが崩される可能性が無くは無いのだ。相手の行動が見えればその予想外を少しでも減らすことが出来るかもしれない。
「とまぁ理屈を捏ねてみたわけだけど、それより何よりも、正面からぶつかった方が面白そうでしょ」
『……』
面白そう。
メイの真意はこれだけだ。
四方八方から敵が押し寄せ、あらゆる攻撃を防ぎ続ける。
しかも怒り狂って打ち倒しに来る人が混じっている。
一時間にも渡る猛攻に耐えて優勝できたならば、この上なく最高の気分を味わえるだろう。
「確かにわたくしもワクワクしちゃってるのですよね」
「全力出せるのは面白そうだぞ」
「在庫気にせずニトロ使えるならまぁいっかな」
なんだかんだ言って、好戦的な仲間たちであった。
「それじゃあ準備しようか」
身を隠していた場所から目当ての場所へと移動する。
見通しが良すぎて、すでに何チームかが遠目ながらも目視できる。彼らもメイ達の存在に気付いたようだが動き出さない。警戒はしているようだが、時間が来るまで動かない作戦なのだろう。
「私の全力、果たしてどこまで保つかな」
五メートルほどの高さの見えない力の四角柱を生み出し、四人がその上で待機する。もちろん四人の周囲も力の膜で覆っている。メイは最後の一時間、これをずっと継続しなければならない。それほどまでに長期間力を発動し続けたことは無い。
メイの力は総量があるわけではなく、無限に生み出せると言っても良い。ただし、あくまでもメイの想像が力という形を取ったものなので、想像する精神的なゆとりが無ければ消えてしまう。一時間も同じことを想像し続けなければならない、その難易度はあまりにも高い。
「それじゃあセーラお願いね」
セーラが四角柱の上で座り、その上にメイが座る。後頭部が気持ち良いポジションだ。リラックスできる態勢を維持して、少しでも想像しやすい環境を用意した。
「Meもやるぞ」
トモエはもちろん落とし穴の準備。
罠魔法が届く範囲ギリギリまで渾身の落とし穴を製作中。一旦四角柱から降りて魔法を使わない自作の落とし穴も用意している。
「どれ使おっかなぁ~」
ソルティーユは上空からのアルケミ攻撃。
何が起こるか本人ですら分からないけど、超火力の何かが発動すれば相手を大きく後退せる事が出来るので大事な役割だ。
この戦いにおいては、誰一人不要な者などいない。
困りものな力や性格の持ち主達を、上手くやりくりしなければ切り抜けることは出来ないのだ。
長い長いイベントの最後の最後、文字通りの総力戦が始まろうとしていた。




