51. 新鮮なお魚が美味しくないわけが無い
「コレめっちゃ美味しいよ!」
箸でつまんだ時はしっかりと感触があったのに、泡を口に入れたかと思えるくらいふわっと溶けるような食感が面白く、濃厚だけどべたつかない脂の甘みが口内に広がる謎の白身のお刺身がメイを夢中にさせる。
「絶対お米に合うやつだ」
並べられているお刺身の中から気に入ったものを選んで丼に乗せる。選ぶ時点で食べ過ぎちゃいそうになるのを自制するのが大変だった。
「お米ならこれも合うぞ。というか箸が止まらないぞ!」
トモエが堪能しているのは魚の煮つけ。味がいまいちなお魚であっても煮つけの味付け次第ではご飯が進むもの。それなのに魚自体の味も絶品と来たらそりゃあご飯が進みまくるだろう。
「トロトロ~とっろ~」
「ソルテそんなに脂濃いのばかりだと飽きない?」
「飽きない~」
脂のりっのりのトロの部分ばかりを堪能するソルティーユ。しつこくない質の良い脂とはいえ、そればかり食べていたら気持ち悪くなりそうなものだが、若いからなのか強いからなのか、ソルティーユはひたすらに脂を摂取する。
逆に赤身の部分が好きで、脂は焼き魚から取得しているのがセーラだ。
「わたくし、こんなに美味しいお魚食べたのはじめてかもしれません」
美味しいものが山ほどあるこの世界の住人であるセーラがそう言うのだから、それだけ今回のイベントで用意された魚は特別に絶品なものということなのだろう。
「でもやっぱりこれだよね」
「うんうん、これが無くちゃはじまらないぞ」
「出汁が濃厚でおいしー」
「体も心も温まりますね」
一番人気は大鍋で作った味噌汁。あら汁や猟師汁など、日本では地域によって呼び方や内容が変わるものだ。海産物をふんだんにぶち込んだ魚介系味噌汁は、見た目の豪快さ通りに出汁が湯水のごとくあふれ出ており、その濃厚さが参加者達に大人気だ。
「ふぅ~食べた食べた」
「この貝、とてもミルキィで美味しいですよ」
「カニカニ~」
「ちょっと胃が持たれそうだから海藻サラダ食べるぞ」
「う~ん、まだ私の胃は休めそうにないかな」
なんて会話をしながら山ほど用意されている海鮮料理に舌鼓を打つメイ一行。この後はメイの予想通りで自由時間のため、酒盛りしながら盛り上がっている卓もチラホラ見受けられる。
『みなさま、ある程度食が進んだようですので、ここで先ほどのイベントの結果を発表致します』
『おおおお!』
イベント終了時点でお腹が減っている人が多く、先に夕飯を食べる流れになっていたため、まだ味ポイントの結果発表はされてなかったのである。
『みなさまが装着されているブレスレットの赤いボタンを押してください。収穫リストの横に味ポイントが表示されるようになっております。また、リストの一番下に合計が表示されており、それが今イベントでの獲得ポイントになります』
運営の言う通りにリストを確認すると確かにこれまでは無かったポイントの表記が追加されていて、会場内の至る所で結果に対する大きな声が上がっている。
「うん、確かに表示されてるね。ギーグシャークって九十点もあるんだ。ラッキー」
メイ達は、ギーグシャーク以外の魚の点数を知っていたため、結果を見ても大きな反応は無かった。問題は自分たちのポイントよりも、他の魚が何ポイントで他のチームとの差がどうなったかだ。
『なお、合計ポイントの横にある全種類と書かれたところをタップして頂くことで、全ての海産物のポイントを確認することができます。それを見ながら会場内の料理を食べ比べてみるのをお勧めします』
「もっと早く言ってくれよーもうお腹一杯だよ!」
『申し訳ございません。この料理はイベント最終日終了後の打ち上げパーティーでも提供されますし、イベント終了後は街でも食べられるようになりますので、そちらでの確認もご検討ください』
先にポイントを教えてしまったらポイントが高い料理ばかり優先して食べてしまうため、敢えて発表を遅らせた。味ポイントが低めでも風変わりな食感のものなどあるため、運営としてはまずは前知識なしで食べて欲しかったのだ。
「よし、予想通り!ってマイナスポイントなんてあるんだ。あっぶな」
毒があり、取り除いたとしても食べるところが無いものなどは、マイナスポイントがつけられていた。獲っていたら上位を狙うためには命とりだが、メイたちはその罠にひっかかることは無かった。
『次に、イベント結果上位十チームを宙に投影します。総合順位の上位二十チームも投影しますので、明日の最終課題の参考にしてください』
宙に表示されるそれぞれの順位表。メイたちの結果は……
「よし、四位だ。総合でも十位になったよ!」
「トップとの差も五百ポイントですから、逆転のチャンスはありますね」
狙い通り高いポイントを手に入れ、順位を大幅に上げて優勝が射程圏内に入って来た。しかもこれまでとは違って今回の総合十位は下位との差がそれなりに開き始めている。団子状態から先頭集団に抜け出したのだ。
「なんでだよ!なんでお前らの順位が俺らより高いんだよ!」
「そんなの決まってるじゃない。高いポイントの魚を捕まえたからよ」
メイ達が喜んでいたら、どこからか相手を非難するような声が聞こえる。その方向を見ると、見覚えのある魔法少女姿の女の子に複数人の参加者が詰め寄っているところだった。
「もうあの魚は五十匹も残ってなかったはずだろ!?なら俺たちよりお前たちの方が低いはずじゃないか!」
「そうね、確かに十八匹しか獲れなかったわ。でも他の三十二匹が高かったのよ」
「そんな都合の良いことあるか!」
「ふふふ、もちろん無いわよ」
「え?」
ウェザーの予想外の答えに、詰め寄っていた参加者達は困惑して毒気を抜かれたかのように唖然としていた。
「そうよね、メイ」
「そうそう。っていうか三十二匹も見つけたんだ。すごいよ」
「大変だったんだから。時間ギリギリだったわ」
ウェザーたちの順位は八位。メイ達よりも低いが、ポイント的には大きく差は開いていなかった。
「クラッシャーはもっと変だろ!なんであんなに点が高いんだよ!そんなはずは無いのに!」
「まぁまぁそんなに怒らずに、ネタばらしするからさ」
「あ……わりぃ。怒ってるわけじゃないんだ、でも腑に落ちないんだよ」
元々他人をいたずらに責めるような人はこの世界に呼ばれていない。これまでのイベントで疲れが溜まっている状態で、上手く行ったと思った作戦が大失敗したと知り悔しい感情を抑えることが出来なくなってしまったのだ。そのことに気付いた彼らは素直に反省した。
ちなみに、彼らはギーグシャークをけしかけた目が血走った人たちではない。そちらは疲れ果ててリタイア。今ごろは記憶の修正をしてもらってお休み中。
この夕飯はリタイアした人たちも食べることが出来るので、変に意地を張らずに早めにリタイアして休んでおけば美味しい料理を堪能することが出来た。本人たちはメイたちに僅かながら仕返しが出来たと思って気持ち良くリタイア出来たので満足なのかもしれないが。
「まぁネタばらしって言っても運がかなり良かったってだけなんだけどね」
「確かにそうね。結局のところ勝負はメイが高いポイントの魚を序盤で見つけたことが勝因なのよね」
メイが鑑定に持ち込んだ魚は『カースキス』
鑑定結果は八十ポイントだったが、鑑定時にはこれが全体でどのランクのポイントなのかが分からなかった。しかし、ウェザーが鑑定した魚のポイントを聞いて、ランクがかなり高いのではないかと予想していた。
「私たちの『カースキス』が八十ポイント、ウェザーたちのが二十ポイント。結構差があったんだよね。もし百ポイント以上が設定されてたら、流石に上と下で差が開きすぎると思ったんだ」
「幸いにも、わたくしたちは『カースキス』を五十匹捕まえてあったので、このままで上位に食い込めると思ったのです」
「もっと高いのばかり集めるチームが沢山あったら作戦失敗だったけどね。その点も運が良かったかな」
「もしかしたら高いポイントのは獲るのが難しかったり数が少ないのかもしれないぞ」
「『カースキス』探すの超めんどかったもーん。ギーグシャークもうざいしー」
実はメイ達が獲った『カースキス』は海底の岩場に擬態する魚。よく目を凝らして見ても分かりにくく、細い隙間に隠れたり逃げるスピードが素早かったりと捕獲が大変だった。偶然トモエが見つけて他にも居ないか探したら、丁度そこが多く住み着いている場所だった。当初は数匹のみ捕獲するつもりだったが、絶妙に獲れそうで獲れない感じが悔しくて根性で五十匹捕まえてしまったのだ。
「いやいや、それじゃあなんでお前ら俺たちについてきたんだ?」
「そりゃあもちろん、罠にひっかかったフリをして遊びつつ、ウェザーたちのチームにポイントを稼いでもらうためだよ。『カースキス』は残り少なそうだったから、他の高いポイントの何かを獲らないといけなかったからね」
それに、仮にメイたちのポイントが予想に反して低かった場合の保険の意味もあった。ウェザーたちには別のルートで稼いでもらって、共倒れになることを避けたのだ。
「…………だからクラッシャーは獲らなかったのか!完全に俺らの戦略バレバレだったじゃねーか!」
「マジかよー良い作戦だと思ったのになぁ」
「甘いわね。あんなとこで露骨に相談してたら誰だって罠だって思うわ」
これは勝負事なのだ。相談するなら他の人にバレないように人目のつかないところでこっそり合流してやるべきだ。それなのに人目が多い砂浜の上で相談するなんて怪しさ満点である。
「もしかして俺らのチームメンバーが誰かって知ってたのか?」
「知らなかったわ。参加者これだけ多いと覚えるの大変だもの」
「合流する時に色々と工夫してたみたいだけど、トイレに行った人を監視してたら正解だったよ」
「それがダメだったかぁ。でもパターン変えないと怪しいしなぁ」
「作戦自体は良かったと思うわ。ただ、やっぱりチームが多すぎると不自然なところがどうしても目についちゃうのよ。『四チーム』は組み過ぎだったんじゃない?」
四チーム十六人。
しかし浜で集まっていたのは十二人で三チーム分。
彼らの作戦は、各チーム三人ずつが集まって十二人で怪しく相談して他チームを釣り、低いポイントの魚を集めるフリをして、釣られたチームにその魚を乱獲させることだ。各チームの残った一人は人目を避けて高いポイントの魚を獲りに行く。
相手を罠にはめて自分たちは確実に点数を稼ぐ作戦だった。
この作戦に気付かれないためには、合流時にどうにかして一人だけ離脱させる必要がある。その工夫の一つがメイたちにバレてしまったのだ。
「トイレから何故か別人が出て来て合流して同じチームのように振舞ってるんですもの。そりゃあ分かるわ」
「あんな激しいビーチバレーやりながらそこまで見てたのかよぉ!」
「ふふ、プレイヤーはそうだけど、休憩しているメンバーは別よ」
仲間を応援するフリをしながら、彼らの動向をチェックしていたのだ。メイたちが十二人を追って海へ出た後、トイレから出て来た本来のチームメイトの後をウェザーたちが追い、高いポイントの魚の情報をゲットした。
「四チーム分を確保するくらいだから大量にいる魚なのかと思ったら数が少なかったのは予想外だったわね。足りなかったからメイたちが獲った魚を狙いに行ったのよ」
「そしたらそっちの方がポイントが高かったから、結果的にウェザーたちもそこそこ上位に食い込めたってことだよ」
結局のところ、最初にメイが言ったように運が良かったのだ。
『カースキス』という高いポイントの魚を獲り切れたこと、ウェザーたちの分もギリギリ残っていたこと。その運がこの結果をもたらしたのだ。彼らへの対応も『保険』の範囲内に過ぎなかったのだ。
「ちぇっ、完敗だ完敗。やっぱり上位を狙うチームはつえぇなぁ」
「それでもまだ優勝狙えなくは無いし、諦めないけどね」
「あはは、今度は全チーム対象にする罠でもしかけないと優勝は難しいよ」
「わかってらぁ。って言ってもやられ役になる未来しか見えないがな」
「まったくだ。あははは!」
自分たちが負けた理由を知り、納得できたことで諦めがついたのだろう。スッキリした顔になり、チームメイトたちと軽口を叩き合う。彼らの言う通りに優勝はまだ狙える。ただ、百戦錬磨の上位陣相手に逆転できるとは思っていなかった。今回メイたちにしてやられたことで、心の中で『負け』を受け入れてしまったのだ。半ば諦めてしまった彼らは、明日はエンジョイ勢となるのだろう。
「それじゃあ私たちは優勝を狙いますかね」
「そうね。これなら可能性があるわ」
メイとウェザー
果たして彼女たちは最終日に上位陣を打ち倒し優勝することが出来るのだろうか。
普通に時系列順に説明させれば良かったかな……
それに魚以外も出したかったから『海産物』と書いたのに活用しなかったよ




