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43. 体内時計は信じられない

「それでは皆様スタートラインにお並び下さい」


 千人近くの参加者がけん制し合いながらスタート地点に移動する。

 複数ある丘のどこをスタート地点にするかを決めているのだ。


「どこにしましょうか?」

「中央の隣かな」

「なんで?」

「勘だよ。それにパッ見た感じ、厄介そうな知り合いが居ないから」


 どこからスタートしてもゴールまでの距離は同じ。

 ゆえにどこからスタートしても難易度に差が無いはずなのだが、この手のイベントは不思議なことに中央に人が集まる傾向にある。

 それなら空いている端の方を選べば快適に進めるかと言うと、そうとも限らない。有力選手は狙われないように空いているところを狙うだろうと想定したハンター達がやってきて、激しいバトルが行われる可能性がある。

 それなら中央で人ごみに紛れれば良いかと思えばそれも違う。人が大量にいるということは、邪魔のやり甲斐があるということだ。一度何かが起これば連鎖的に大乱闘が発生する可能性もある。

 その危険性を少しでも排除するために中央隣、でもそれを予想している人が……など結局読み合いになって結論が出ないのだ。


 考えてもキリが無いため、メイはそれなりに混んでいるところの一つを適当に選んだ。


 他に重要になるのが周囲に誰がいるかだ。


 ウェザーや料理争奪戦に参加した面々、他のイベントで驚異的な動きを見せた参加者など、めんどくさそうな人が居なければそれで良い。


「それでは開始します。五秒前、四、三、二、一、スタート!」


 スタートの合図と共に一斉に走り出す参加者達。

 早速仕掛けた参加者がいるらしく、どこからか爆音が聞こえて来る。


「う~ん、派手だねぇ」

「ゆっくり進むで良いんだよね」

「うん、ソルテのおかげで余裕あるしね」


 先にゴール間近までたどり着ければ後から来た人たちを邪魔出来て有利であるが、その戦法は取らない。


「それに、先に行くのが有利だとは限らないんだよね、これが」

「どういうことですか?」

「ふふふ、それは後でのお楽しみ、ということで今回はトモエ大活躍頼むよー」

「お任せだぞ!」


 嫌がらせといえばトモエの罠魔法。

 落とし穴以外を鍛えていないのが勿体ないが、それだけでも十分効果がある。


「んじゃ手始めに、中央の大混雑してる辺りに一発やっちゃって」

「らじゃーだぞ!」


 トモエは落とし穴の魔法を鍛えに鍛えているため、遥か遠くに巨大な落とし穴を作ることが出来るようになっていた。


 早速その力を使って丘の麓に直径十メートルほどの落とし穴を五個ほど出現させる。

 単純に一メートル落ちるだけのシンプルな落とし穴だが、落ちた人が多くて積み重なり脱出が難しく、穴の場所が障害となって進める道が狭くなり混雑度合いが酷くなる。


「お、メテオみたいの降って来た」

「きれいきれいー」


 混乱の中で誰かが思わず使ってしまったのか、それとも便乗した誰かが追撃したのかは分からないが、上空から小さな隕石のようなものが数個降ってきて、人混みに着弾するとともに爆発する。


「綺麗に吹っ飛ぶなぁ」

「あれはあれで、楽しそうですね」


 怪我が無く痛くも無いのだから、吹っ飛ばされる方も案外楽しそうに見える。それを期待して中央の丘に挑んだ人もいるくらいだ。


「さて、私たちも行くかね」

「どんな罠があるか楽しみだぞ~」


 案の定、メイたちの行く先にもたっぷりと先行組による罠が仕掛けられていた。

 地雷、巨大な岩が転がってくる、濃い霧で迷わせる。

 メイたちはキャーキャー言いながらその全てを正面から受け止めて楽しみながら進んでいく。


「うんうん、やっぱりこのくらいカオスじゃないと面白くないよね」

「みんな殺意高すぎだぞ」


 殺意は低くても落とし穴による嫌がらせを連発しているトモエには言われたくないだろう。


「でも単純な落とし穴だけで良いのでしょうか」

「うねうねネチョネチョとかも出来るぞ」

「う~ん、今回は保留で。イベント長いし、手札はあまり見せない方が良いかなって」


 まだトモエがどんな落とし穴を生み出せるのか、完全には把握されていないはず。後々切り札となる可能性があるので、まだ見せたくはなかった。


 そんなこんなで丘を乗り越え、岩場の前の球拾い。

 特に探す必要は無く、そこら中にゴロゴロと転がっている。


「ソルテに任せた!」

「わーい」


 ソルティーユの運が良いから、というわけではない。

 今回はソルティーユのおかげで楽が出来ているので、その流れにあやかって何となく決めただけのこと。


「頼むぞー」

「良い数字をお願いします」

「このドキドキ感が堪らないね」

「これにするー」


 ソルティーユが拾ってきた球はガチャガチャの球のように中央から上下に分かれるようになっている。パカリと空けて中に入っている紙に書かれていた数字は……


「プラス 十五分二十三秒」


 目標時間を僅かに追加する数字だった。


「やった!大当たりだ!流石ソルテ!」

「えへへーぶい」


 白衣をたなびかせ、嬉しそうに微笑むソルティーユ。

 喜ぶのも当然だ。

 メイ達が欲しかったのが、少しだけプラスになる時間、だったからだ。


「そろそろ時間かな。休憩しよっか」

「ソルテ、眼鏡外してくださいね」

「はーい」


 ソルテの普段の目の色は黒。

 しかし現在は赤に変化している。


 これはソルティーユが持っていた薬の影響だ。

 ソルティーユが持ち込んだニトロ薬の相方。

 その中に『一時間だけ目の色が変わる』効果のある薬があったのだ。

 これを三本使うことで三時間を容易に判別できる上、邪魔されようとも経過時間が分からなくなることは無い。


 ただし、追加時間がマイナスになってしまうと厄介なことになる。

 一時間単位でしか計測が出来ないため、三回目の薬の効果が終了した時点で目標タイムを越えてしまうからだ。プラスであれば、三時間後に自分たちの感覚で数えれば大きなズレは無くなる。プラスの値が小さければ小さいほど有利ではあるが、十五分なら当たりの範囲だろう。


 ちなみに、仮にマイナスを引いてしまった場合でも、追加で球を拾ってプラスになるまで粘るとつもりではあったが……


「ああああ!くっそーー!またマイナスだああ!」

「だから言ったじゃない!追加は危険だって!」


 などと、少し離れたところにいるチームのようにガチャ爆死でドツボにはまる可能性もあるため、やりたく無かった。


「うし、それじゃあ作戦通りにゴール付近に五分前までに到着するように調整するよ」

『はーい』


 ここから先はゴツゴツした岩場。

 歩きにくい上に、他のチームが残したトラップが散乱しているために踏破にはやや時間がかかる……と思っていたのだが、ほとんどのトラップは発動済で残っていなかった。


「好戦的なチーム同士がバトルしながら先に行っちゃったっぽいね……」

「ちょっとつまらないぞ」

「運が良いってことでもあるんですけどね」


 近くに居るチームは特に相手を邪魔するようなタイプでは無く、周囲は和やかな雰囲気だ。後ろから追い上げて来たチームに攻撃される恐れもあるにはあるが、ゴール付近で時間を取られる可能性を考えたらここで誰かを攻撃して無駄な時間を使う必要はないだろう。


 ゆえにメイ達は楽に岩場を突破し、遠目にゴールが見えるところまでやってきた。


「おおー派手にやってるねぇ」


 ゴール前は酷い乱戦模様だ。

 爆発は当然のこと、竜巻や地割れ、ゴーレムや小竜のような巨大生物が闊歩し、常に人が吹き飛ばされ続けている地獄と化していた。


「あれに参加するのも楽しかったかもなぁ、失敗したかも」


 メイが狙っているのは、乱戦に巻き込まれないようにゴールすること。

 乱戦そのものに全力で参加することも考えたのだが、念のため確実な方を選んでしまったのだ。


 勝負にこだわるか、面白い方を狙うか、悩むところではある。

 両方狙えるのが一番ではあるのだが。


「まぁ今更だね。時間は?」

「もうちょっと……ううん、そろそろだと思います」

「なら行こうか。とつげ……」


 その瞬間、異変が起こる。


 突然ゴール側に向かって下り坂になる形で大地が隆起し、そこにいた人々が強制的にゴールさせられてしまったのだ。


「あははは、私と同じこと考えてる人がやっぱりいたね。よし、突撃―!」


 ゴール前での争い。それは狙った時間通りにゴールさせないように邪魔をする側と、それを突破する側との争いである。

 防衛側は迎え撃ちつつ、自分の時間になったらゴールすれば良いため、先にこの場所に陣取ることで有利になる。突破されたら仕方ないかな、くらいの気持ちで全力で邪魔が出来る一番楽しい場所のはずだった。


 その、向かってくる人たちがゴールを目指すと思っている油断を突く。


 ゴール近くに陣取っているということは、ゴールに押し込めるということ。

 メイは自分の力で巨大な壁を作ってゴールに向かって押すことで、防御側を全員ゴールさせてしまおうと考えていたのだ。


 どうやらメイと同じことを考えていた人がいたらしい。

 メイが手を下す必要も無く、目の前はガラ空きだ。


「念のためカプセル作るよー」

「わーい、あれ楽しいから好きー」


 四人の体を個別に力で球状に包み込み、ゴールに向かって転がす。

 力の中で体がぐるんぐるん暴れ回るけれども、この世界では酔ったりはしないのだ。


 ゴールから離れていて僅かに残っていた人たちから攻撃が飛んでくるが、力のカプセルが全て弾き飛ばし、メイ達は想定通りのタイミングでゴールした。




「千点もらえたね。これが最大なのかな」


 メイたちの誤差は二分三秒。

 おそらく最大に近いポイントだろう。


「幸先良い出だしだぞ」

「ソルテの薬といい、ラストの展開といい、運が良かったですね」

「これからどうするの?」

「この先で夕飯と宿泊って言ってたけど……」


 ゴールした後に連れてこられたのは、宿泊施設や飲食店が立ち並ぶ小さな街だった。


「今晩はこちらでお寛ぎください。お夕飯や宿泊施設は自由にお選びいただけますが、利用するには先ほど取得したポイントが必要になりますのでご注意ください」

「なんですとー!?」


 高級宿や高級料理店であれば高いポイントが必要ということになる。


「なお、イベントフィールド外に出てのお食事及び宿泊は失格になります」


 つまり、この場所で宿泊することが必須ということになる。


「これは予想外だったなぁ。どうしよっか」

「優勝狙うなら安く済ませるのでしょうか」

「寝ない人とか居そうだぞ」

「それは嫌だよー」


 何も食べず徹夜すればポイントは使わなくて済む。

 それで四日間の長丁場のイベントを乗り越えられれば、の話だが。


「ぶっちゃけ、安い宿の大部屋で雑魚寝ってのも楽しそうなんだよね」

「合宿みたいだぞ」

「トモエはそういう合宿行ったことあるの?」

「無いぞ。でも興味はあるぞ」

「合宿ですか?」

「なになに~?」


 何十人も入れるほどの部屋でくつろぎながら、夜遅くまで友達と騒いで引率の人に怒られる。この手の合宿は、小学校のスポーツ系の団体で多いのではないだろうか。

 合宿とは違うが、大部屋での雑魚寝なら大人でも割と簡単に体験することができる。船に乗るがよい。


 異世界生まれのセーラとソルティーユは合宿など知らないし、メイやトモエは未体験なので興味がある。


「でも体力をちゃんと回復させるには個室の方が良いよねぇ」


 しかし個室だとポイントを多く使うことになる。


 悩みどころなメイ達に、スタッフの人が追加情報を教えてくれた。


「明日の予定についてもお伝え致します。明日は朝の十時スタートになります。内容は制限時間付きの宝探しです」

「制限時間付き?」

「はい、制限時間は十時間。ゴールすると基礎ポイントとして千点獲得出来ますが、一時間経過するごとに獲得できるポイントが百ポイント減少します。また、宝を発見することで百ポイント獲得し、宝は最大で十個まで獲得可能です」


 つまり、素早く十個の宝を見つけてゴールすることで多くのポイントが得られる課題である。


「また、ゴールしたチームはすぐさま次の課題にとりかかって頂きます。次の課題は朝八時まで森の中で過ごすことです。ただし、チームメンバーは必ず一定の距離を取る必要がございます。チーム人数が四人に満たない場合は、こちらでランダムでチームを作らせて頂きますのでご容赦ください」


 翌日の課題について次々と情報が増える。

 しかも一日中どころか、夜中まで課題漬け。


「うん、情報量が多すぎ。個室で作戦会議決定!」


現在の時間が分かるようにして、ノルマが加減する紙をトレードしたり奪い合えるシステムにした方が戦略性が出て面白かったかも、と書いている途中で気付いたけど後の祭り。

まぁ、それやったら初日だけで三話くらいかかっちゃいそうですが。

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