19. 魔法少女(物理)と関わりたくない
「人違いだああああ!?」
「ごめんなさい!」
首を絞められ、押し倒されたからには、人違いで済まされる話ではない。
メイが激怒するのも当然だ。
「とても可愛かったから間違えちゃったのよ」
「ほうほう、それが辞世の句かな。褒めたら許してもらえると思ったら大間違いだから!」
あまりにも露骨な言い逃れに、メイの怒りのボルテージはさらに上昇する。
だが実は、少女の言葉は言い逃れでは無く事実だった。
「本当よ!ホラ、私も小さくて可愛いじゃない?」
「はぁ?」
相手が怒っているにも関わらず自分が可愛いと言い出すとか、正気だろうか。
とはいえ、逆にその不自然さが気になってメイの怒りに戸惑いが混じったので、正しい選択だった。
「私は見ての通り小さくて可愛い魔法少女よ!」
「はぁ?」
フリフリの衣装とキラキラなアクセサリー
常人なら決して身に纏うことのない彼女の姿は、確かに魔法少女っぽい。
「魔法のステッキも……あれ?どこに……あった!」
「……」
ステッキはメイにタックルするときに草むらに投げ捨ててしまった。ステッキの存在意義とは。
「私は【逃げた】仲間の魔法少女を探していて、雰囲気が似ていた人を見つけたから思わず……本当にごめんなさい!」
「うん、ギルティ」
「なんでー!本当のことを話したのにー!」
「今の話のどこに許してもらえる要素があるとでも!?というか、仲間相手にあんた何やってんじゃああああ!」
「ちょっ!ギブギブっ!」
最初の仕返しで、今度はメイが少女にチョークスリーパーだ。
「よし、このまま役所に連れて行こう、突然人を襲ってくる危険人物は元の世界に帰さないと」
「ぎゃーーーー!やめてーーーー!」
連行されてはたまらんと、少女はメイを振りほどき距離を取った。チョークスリーパーが完璧にキまってようと、元々の力の差があるため振りほどくのは簡単なことだ。
「謝るのでそれだけは許して!」
「許さん!」
ここでコレを放置したら、後々自分が酷い目に合う予感がしていた。なんとしてもこの時点で駆除しておかないと。
「それならしょうがない。逃げるしかないなぁ……」
「簡単に逃がすとでも?」
力の差はある。ただ、メイにはまだ見せていないギャグ力が残されている。いざとなったら全力で押さえつけて引き摺ってでも連れて行くつもりだ。
「……」
「……」
少女が一歩後ずさり、メイが一歩追う。
お互い視線を逸らさず、睨み合いが続く。
「そうだわ!あなた、私たちの仲間にならない?」
膠着状態を破ったのは少女の方だった。
「はぁ!?」
当然、意味不明な申し出に困惑するメイ。
「私たちのことを知れば、きっと一緒に活動したくなると思うわ」
そうすることで、少女を元の世界に帰したいなんて思わなくなるだろう、という作戦だ。
「断る」
「即答!話くらい聞いてよ!」
「断る」
「そこをなんとか!」
「断る」
「なら力づくでも!」
「ことわ……え?」
油断していたわけではない。
話をしながら相手が逃げる隙を伺っているだろうと考えていたメイは、最大限の警戒をしていた。
だがまさか、逃げるのではなく向かってくるとは。
「ぎゃっ!」
今度は正面から押し倒されて、マウントポジションを取られてしまう。
「これで話を聞いてもらえるわ」
「くっ……どけぇっ……」
ギャグ力を使うべきか、いや、切り札はギリギリまで隠しておきたい。
「さあ、これであなたも私達『魔法少女組』の一員だわ」
「オイコラ、勝手にメンバーに加えるな!っていうかなんだその物騒な名前は!」
「私は組長のウェザーよ」
「今組長って言ったから!」
「何かおかしなところでも?」
たった二文字によって、愛と勇気と正義の魔法少女とは真逆の暴力的なアレの雰囲気が醸し出されている。
「もうやだこの世界……」
「うふふ、あなたなら組員の資格十分ですわ」
「そんな資格捨てます」
魔法少女組の資格は、簡単に捨てられるものでは無かった。
「小柄であること、大人の色気が無いこと、愛でたくなる可愛らしさがあること、これだけでも合格間違いなし。力が無いのが残念ですが、判断力と決断力は抜群。戦でも十分活躍できますわ!」
「はやくおおきくなりたい」
危ない、メイの目のハイライトが消えかけている(一日ぶり)。
「セーラ助けてええええ」
「押さえつけられてるメイも可愛いですわ。ぐへへへ」
「やっぱり使えねえええ!」
自分でなんとかするしかない。
このままだと怪しい暴力的な変態集団に強制的に仲間入りさせられてしまう。
「ちょいやー!」
「ぐはっ!」
頭を起こしてウェザーに頭突きをする。組み敷かれた状態での一撃は力を込められず軽いはずだが、攻撃が当たった瞬間に合わせてギャグ力を発動し、吹き飛ばす。能力をなるべく隠しての反撃だ。
「何今のっ……!」
相手が驚いている隙に、距離を取る。今度はメイが逃げる番だ。
「益々魔法少女に向いてるわ!」
「意味が分からないから!」
「力こそ正義!」
「魔法少女のセリフじゃねええええ!」
「最近の魔法少女は物理なのよ!」
「あんた物理しか使ってないじゃん!」
「しょうがないでしょ!魔法の能力が発現しなかったんだもん!」
「魔法少女とは」
ウェザーは異世界に来れて歓喜した。
これで憧れの魔法少女になれると。
だが現実はむごい。
ウェザーに発現した能力は『筋力アップ』だったのだ。
「女の子なら誰もが憧れる魔法少女。あなたも変身できるのよ!」
「どうやって?」
「筋肉で!」
「滅べええええ!」
マズイ。
これでメイは自分の能力をばらせなくなった。
メイの能力はどちらかと言えば魔法寄りだ。
水や炎を生み出すような分かりやすいものでは無いが、汎用性が非常に高い無属性魔法のようなもの。
『プリティーなんとかアターック』
『ほら、エネルギーっぽいのを相手にぶつけるのよ』
『レーザー光と紙吹雪を纏わせてっと……よし、これで立派なトドメ技だわ』
魔法演出にコキ使われてしまうかもしれない。
「絶対に仲間になってもらうわ!」
「ぐっ……セーラはちょっと離れてて」
「魔法少女メイ……いいなぁ」
「後で衣装を着て上げるから!」
「了解しました!離れてます!」
ポンコツセーラが傍にいると邪魔なのでどけようとしただけなのに、敵が増えるところだった。少しは油断させてほしい。
「もう一度倒して捕まえるわ」
「捕まったって魔法少女にはならないから!」
「そこはほら、じっくりと洗脳して……」
「こいつやっぱり元の世界に帰さないとアカン」
とはいえ、今日のところは逃げるのが先決だ。
背を見せて逃げるのはNG。
一気に追いつかれて後ろから組み付かれてしまう。そうなったらギャグ力でも簡単に引きはがせない。
やるならば攻撃を一発当てて、そのタイミングでギャグ力を最大出力で発動させ、相手を遠くに吹き飛ばす。
「せいっ!」
「ぐわっ!」
先手を取ったのはウェザーだ。
くるっと横回転して右足を大きく上げ、そのままメイの脳天に叩き落す。
「かかと落としする魔法少女とかないわー」
「物理は正義ですわ」
「ステッキ使えよ。というか、そんなに短いスカートで足上げたらパンツ見えちゃうから。それじゃあ魔法少女って言っても深夜の魔法少女(意味深)だから」
「ふふん、ニチアサなら絶妙なアングルでそのような卑猥な表現を感じさせないようにアレンジしてくれるわ」
「今ニチアサって言ったな。お前日本人だろ。ウェザーって偽名?」
「な、なんのことかしら。ニチアサは全世界共通語よ!」
「嘘だあ!」
「ホントよっ!はっ!ほっ!」
「ぐっ!はっ!やいっ!」
話をしながらも連打を繰り出してくるウェザー
闘いに慣れた動きに、メイは防戦一方というか、全て被弾している。
ケンカもしたこともないひ弱な女子高生なのだから当然だ。
「(当たるくらいなら大丈夫。掴まれなければっ……)」
メイの注意を他所に、ウェザーは打撃しか繰り出してこない。
「この美しい魔法少女バトルはどう?あなたもやってみたくなったでしょ」
「ならんわ!」
ウェザーはメイを捕まえることよりも、華麗な攻撃を魅せつけることをいつの間にか優先していた。魔法少女(打撃)の愛が、伝わると信じているのだ。
「プリティサファイアアロー!」
「飛び蹴りじゃねえかああああ!」
「プリティミラクルレインボー!」
「ラリアットじゃねーかああああ!」
「プリティキュアストレート!」
「右ストレートじゃ……ってそのままか。プリティってつければ技になると思うなよ!?」
全ての技を喰らいながらも、律儀にもツッコミを入れるメイ。
息を切らせているのはそのせいではないだろうか。
「そろそろトドメだわ」
ウェザーの構えがボクサースタイルから、柔道スタイルに変化した。
「(掴みが来るっ!)」
魔法少女の構えじゃないことにツッコみたかったが、その余裕が無い。
「(どうしよう、パンチが当たる気がしない)」
手を出したが最後、それを掴まれて投げ飛ばされるイメージしか沸かない。
「(蹴りも高く上げたら捕まりそうだし、ローキックじゃ高く吹っ飛ばせない)」
ミドルキックも捕まる。ハイキックはそもそもできない。
追い詰められたメイが取った戦法は……
「今だっ!」
ウェザーが踏み込んできたタイミングを見計らって……
思いっきり股間を蹴り上げる!
「女性にその攻撃はないわああああああ!」
いやいや、男性だったらもっと酷いことになっていたでしょう。
予想外の攻撃を避けきれずに、股間を手で抑えながら空高く吹き飛ばされキラーンとお星様。
「もうやだおうちかえる」
窮地を脱したが心底疲弊したメイは綺麗な orz を作り上げた後、今日もお祭り会場の下見をすることなく帰宅した。
どうしてこうなった……こんな話書く予定無かったのに!
でもウェザーに相当する少女は後々登場させる予定でした。
名前すら決まって無かったのに勢いで適当に決めてしまった。(お酒って怖い)




