妹の部屋に
俺!カレー!兄妹愛!
俺は今までになくやる気いっぱいで、カレーを作っていた。
理由は簡単。凪の喜ぶ顔が見たいから、である!
兄とはそういうものだ。
いや、凪は可愛いから兄貴の俺じゃなくてもそうするな。
俺は上機嫌で完成したカレーを皿に盛り付けると、
一階のリビングに片方を置いた。俺の分だ。
「さて、凪はどうしてるかな~!」
今度は鼻歌を歌いながら、凪の待つ二階に上がる。
あの様子だと、さぞかし楽しみにしてくれているだろう。
「おーい、凪。カレー持ってきたぞ」
「…………」
おかしいな、反応がない。
念のためもう一度ノックしてみる。
「……」
やはり反応がない。どうしたかな。
何かの病気で倒れていてもまずいので、心配な俺はそっとドアを開けて
凪の部屋に入った。
部屋に入ってまず目に入ったのは、パソコンの画面を開きっぱなしで
机に突っ伏した凪の姿だった。
スースーと静かに寝息を立てている。
「……疲れて寝ちゃってるんだな」
無理もない。今日はすごい頑張ってたからな。
俺は凪にそっと布団をかけてやった。
「ん~、にゃ~」
寝言すら可愛い。どうやら夢の中で猫にでもなっているようだな。
頭をなでてやると、凪は「ん~」と顔をほころばせた。
「お休み、凪」
凪の机にカレーを置くと、俺は凪の部屋を見回す。
よく片付いた部屋だ。
机とパソコン、あとはぎっちり詰まった本棚が印象的なきれいな部屋だ。
ところどころに、凪の趣味らしいかわいい小物が飾ってある。
カーテンも淡いピンクで、なんか「女の子の部屋」って感じがする。
そういや俺女の子の部屋、上がったことなかったな。
初めて上がった「女の子の部屋」が妹の部屋でいいのだろうか。男として。
……脳内会議を開催した結果、全俺が泣きだして審議は中止になった。
まあいいか。
凪は女子力高いからな。うん。気にしないでおこう。
にしても。
俺は満面の笑みを浮かべ、時折寝言をつぶやく凪を見た。
「なんというか、無防備だな」
そう、今の凪は無防備なのである。ゆえに自然体で、とてもかわいい。
いうなれば猫が日向ぼっこしているような状態である。
しかも、普段真面目な凪はこんな所を人には見せない。
つまり、兄である俺だけしか見られない顔というわけだ。
(兄最高!兄最高!凪最高!)
……一瞬IQが30くらいになっていた。いかんいかん。
凪を起こすのも良くないし、俺はここらへんで退散しよう。
そう思って出口へと足を向けた俺を、後ろから誰かが呼び止めた。
「あれ、兄さん……?」
凪が、起きてきてしまったのであった。
寝ぼけた目をこすりながら、凪はこちらとカレーを交互に見た。
「あれ?ここ、私の部屋だよね……あれ?
もしかして、寝てたところ……見られてた?」
顔面蒼白とはこの事だろう。
寝ぐせでぼさぼさになった髪を整えようとしながら、
凪は恐る恐るといった感じでこちらの顔を覗き込んできた。
すまん。
「ごめん、見てた」
「えええ!?か、髪もセットしてないし、私、寝相だらしないのに……!」
凪は今度は顔を真っ赤にして、
「は、恥ずかしいから!服もだらしないし、部屋も整えてないし!
ちょっと整えるまで、外にいて、兄さん!」
と俺を部屋の外まで押し出し、ドアを閉めた。
……そこが可愛いと思うんだけどな。でも、悪いことしたかもしれない。
俺はちょっと罪悪感を抱えつつ、ドアが開くのを待った。
*
「兄さん、いいよ」
ドアが開いたのはそれから15分くらいたった後。
だぼだぼのパジャマからオシャレなワンピースに着替え、きれいな黒髪を
下ろした凪は、頬を膨らませ、ちょっとむすっとしていた。
「兄さん」
「はい」
「添い寝してください」
「はい。はい?」
「添い寝です。意義は認めないもん」
凪は腕を組んで、強い決意を秘めた感じでこちらを見た。
てっきり「反省してくれ」とか言われると思ったんだが……
「なんで添い寝なんだ?」
俺が問いかけると、凪は少し顔を赤らめた。
「に、兄さんの、寝顔がみたいから。
ほら、私の寝顔、見たでしょ。交換みたいな感じ。
……あと、久しぶりに兄さんに添い寝してほしい、かなぁって」
最後のほうは自分でも恥ずかしいと思ったのか、こちらの顔を見ずに
凪は小声で添い寝を催促してきた。
うーん、でもな……
「凪は中学二年生だし、俺と一緒に寝たら、なんかダメな気がしないか?」
「だ、だいじょうぶだよ。まだ中学生だし!」
なんだその謎理論は。もう中学生だぞ。
「そ、それに。なんか事故が起こるわけでもないし!兄妹だから!」
「いや、いやまあそうだけど!なんかまずいだろ!」
凪はそれを聞くと少し悲しそうに、こちらを見上げた。
「やっぱり、私とは、嫌だよね……?」
「いや、そういうわけじゃ、なくて」
「じゃあ、添い寝してくれる?」
完全にしてやられた。
これは、うんとしか言えねえ。
「……いいよ。今日だけな」
「やった!兄さん、大好き……えへへ」
全く、抜け目のない奴め。
そう思いつつも、俺は凪と添い寝するのがちょっと楽しみだった。
「じゃあ、カレー食べてちょっとしたら、電話で呼ぶ」
「おう」