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妹と長電話

 家に帰ってきた俺は、制服から普段着に着替えてリビングでゆっくりしていた。

 エアコンがガンガン効いた室内で、一人ごろごろと寝転がる。


「あぁ~……至福だなあ」


 時計を見ると、まだ6時過ぎだ。夕飯までは時間がある。

 さて、どうするかな。


 凪は疲れていたので、今頃は二階のベッドで寝てしまっているだろうし。

 学校の課題もすでに終わっている。


 となれば、


「ゲームでもするか」


 俺はテレビとゲーム機の電源を付け、コントローラーを握りしめた。


 最近は……凪が引きこもるようになってからは、

 家事や課題で忙しくてあまりゲームをやれていないのが実情だ。


 昔は凪とも一緒にゲームをしてたと思うと、俺しかいないリビングが

 やけにだだっ広く感じた。


「まあ、そういう事もあるよな」


 俺はそう呟きながら、敵を作業のように一人ずつ倒していく。

 昔やってた時はもっと面白かったのにな。


「……やっぱ、やめようかな」


 俺がそう思ってコントローラーを置いた、その時だった。


 プルルルル。


 俺の電話が鳴った。


「はい、一ノ瀬です」

「あ、兄さん」


 掛けてきたのは、二階にいる凪だった。


「おう、どうした凪」

「いや、あの、兄さんに」

「俺に?」


 凪は少し間をおいて、小さく、でもはっきりと喋った。


「今日は、本当にありがとうって。そう、言いたくて。

 今日行けたのは、兄さんのおかげだから」

「……おう!こっちこそ、手伝えてよかったよ」


 まさか、会話下手の凪が、俺に感謝するために電話をかけてくれたとは。

 なんと言うか、その気持ちがとにかく嬉しくて。

 思わず笑みがこぼれてしまう。


「でもっ、それだけじゃないよ。電話かけた理由」

「ん?そうなのか」

「……うん」


 電話の向こうで一つ、コホンと小さく咳払いすると、

 凪は少し恥ずかしそうに、かぼそい声で言った。


「兄さんと、久しぶりにもっと話したくて。

 最近、話せてなかったから。……ダメ?」


 なっ。

 その理由は、それは反則だろ。

 凪も俺と、同じこと考えてたんだな。


『話したい』って。


 俺は、心の中が温かい気持ちに包まれていくのを感じた。


「じゃあさ、凪」

「なに?」

「今日はさ、今まで話せなかった事、いっぱい話そうな」

「いいの?」

「もちろんだよ。だって兄妹だろ?」


 そう問いかけると、「……うん!」と可愛い声が返ってきた。

 たぶん話し込むから今日は寝るの、遅くなるかもな。


「じゃあ兄さん、質問いい?」

「いいぞ、なんでも」

「わかった。じゃあ、兄さんって……彼女いる?」


 へ?

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 一発目の質問なのに、直球ストレートぶちこんできたな。


 思わずうろたえながらも、答える。


「え、えっと。彼女はいないぞ」

「そ、そうなんだ。意外」

「そうか?」

「うん。兄さんギターも弾けて……実際かっこいいし、料理もできるから

 てっきりいるんだろうと思ってた。」


 さらっと、俺のことをめちゃくちゃ褒めた。

 正直嬉しいけど、凪にはそんな完璧超人に俺が見えてるのか?

 それこそ、意外だな。俺は至って普通なのに。


 でも、これも話さないとわかんなかった事だよな。

 今は何の話題でも、凪と話せるのが楽しい。


「じゃあ俺も質問していいか?」

「うん」

「部屋にいる間は何してたんだ?退屈してないか?」

「う~ん、えっとね」


 凪は記憶をまとめるために少し唸ると、


「アニメとかを見たり、あとは歌が好きだから、結構歌ってた」


 と答えてくれた。


 なるほど。それだけなら凪に悪い影響は無さそうでよかった。

 でも、ちょっと心配なことも俺にはある。


「SNSで変な人と絡んだりしてないか?」

「それは、大丈夫。もう中学2年生……のはずだし。

 自分のプライバシーは守れるよ。子供じゃないし」


 そっか。

 凪は凪なりに、考えて動いているんだな。


「お兄ちゃんこそ、誰かにストーカーとかされてない?」

「そんなこと生まれてから一度もされてないから大丈夫だよ。

 全く、凪が心配性なのは昔から変わらないなあ」


 凪はそれに恥ずかしそうな声で、「か、過保護の兄さんほどじゃないもん!」と

 反論してきた。きっと二階ではむすっとしているに違いない。

 本当にかわいい妹だ。


 頭なでなでしてやりたく――少し兄妹愛があふれ出てしまいそうになった。

 自粛しよう。凪に嫌われたくないのでね。


 沈まれ、俺の中のシスコン!


 ……よし。


「凪、じゃあ夕飯は何がいい?」

「もちろんカレー!カレーライスがいい!」


 ダメだ。可愛すぎる。


 きっと俺の作るカレーをすごい楽しみにしてくれているんだろう。

 即答するあたりがめっちゃ可愛い。


 今日は凪も頑張ったからな。労っても罰は当たらんだろう。


「よーし、おいしく作ってやるからな!」

「やった……!」


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