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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

泡沫

作者: たくたく

 お前は泡だと言われた。


 勝手に生まれて適当に死んでいく。その中で何もできやしない、何も為さないそんな泡みたいなやつだと。


 親は居なかった。気が付けば暗くて今にも崩れそうなあばら家の中で息をしていた。


 何かを得る手段も何かを生み出す力もなかった。


 それがすぐに盗みやすりに走るのに時間は要らなかった。


 勿論すぐにばれた。


 子供の、それも何ら手管の無い子供のそれは大人たちから見ればまさしく児戯。


 成功したと思った矢先に腕を掴まれ路地に引きずり込まれた。


 そこで待っていたのはただ只管に暴力の嵐。


 痛みで動けなくなることがあるのだと知った。


 それでも体は食い物を求め続けた。血反吐を吐いても供物をよこせと腹の虫はいつも叫んでいる。


 それからも何度だって汚いことをした。


 何度か上手くいったと思えば、失敗。


 そのたびに殴られて蹴られて、見せしめにもされた。


 だけど、それでも生き残った。


 いつものあばら家は自分以外にも誰かが居てしょっちゅうそいつらとも居場所を奪い合いながら、たまには、本当にたまには協力することもあった。


 でもそいつらは気が付いたら死んでいる。


 姿を見ないと思えばどこかの路地で。


 腹が減ったと言えば次の日には冷たくなっている。


 そんなのを何度も目にしながら、次は自分の番だと震えて過ごすうちに少しずつ体は大きくなっていた。


 大人というには少し小柄。それでも子供とは言えないぐらいにはなった。


 いつもの行いも一方的にやられはしなかった。


 時には逃げて、時には反撃して、これまで満たすことのできなかった腹を満たすことが出来た。


 そんなときに街に見慣れない集団が居たのを目にした。


 バラバラな服を纏いながらも、手には揃いの銃を持つ。そんな集団だった。


 そこで初めてそういう武器の存在を知った。


 よくよく見ればその銃も同じものではなく本当に雑多なものの集まりだったのだろうがそれを知りえることではなかった。


 そこで何となく街の空気が変わるような気がした。


 直観は意外と当たるというのか、感覚は真実だった。


 それも悪い方向に。


 あばら家の同居人がある日血を流しながら帰ってきた。


 切られたのかと思えば傷には見慣れない穴が空いている。 腹から背に一直線に抉られたのか体の前後で同じ傷と不思議だった。


 翌朝にはそいつは死んでいた。


 それだけならよくあることだった。


 それからそうやって謎の傷で死んでいくやつがたくさんだった。


 そうして過ごすうちに自分の番がやってきた。


 すったはいいが相手が思いのほか粘り、振り切れず気が付けば廃屋で身を隠すことになり、そこがばれた。


 侵入してきた男は黒光りする銃を持ってこちらに向けてきた。


 何も言う前にそこからまばゆい光が迸る。


 まずいと思う間には轟音と背後で何かが砕ける音がした。


 何やらわからなかったがまだ生きていると、そして動かなければ死ぬという思いもあってただ走った。


 男はその銃に不慣れなようで何度か轟音がするものの自分にはけがはなかった。


 そこでただ逃げるのはもう無理だと反撃をした。


 轟音の直後に廃材を投げつけ、よけたところにさらに廃材。


 そこでよろけたところでもみ合って相手の手に合った銃を奪っていた。


 使い方こそわからなかったもののレバーを引いてみたら相手の顔に穴が空いて死んでいた。


 そこからは動乱の様だった。


 仲間が殺されたことに苛立ったのか毎日毎日裏通りをあの時の集団が歩くようになった。


 自分を探しているのだと気づくのに時間は掛からず、ばれるのも時間の問題だった。


 だから、逃げた。


 銃を持って、ただひたすらに。


 時々追いかけてくるものが居て、そいつらだけは撃った。


 そこで漸く銃が弾を込めて打ち出すものだと知った。


 その時の男が補充用の弾薬を持っていたのが幸運だろう。


 そして地を駆け海を渡り、別の大地に逃げ込んだ。


 そこで漸く自分が生きていた世界の事を知った。


 そしてそれは自分には戦うことを決意させるには十分だった。


 戦い方を覚え、効率的な殺しを覚え、一人の戦闘者としての訓練を終えるころにはかつての居場所はより劣悪な世界に変貌していた。


 ただ戦った、ただひたすらに。


 隣で共に生きていた人間が死んでいくのを見ながら相手を殺し続けた。


 街を奪い、あの集団を壊滅させる度に少しずつ仲間も増えていった。


 そうして戦い続けてどれほどか。


 いつの間にか戦いは終わった。


 どうやら最後にはこちらの規模にあの集団が負けることを確信した街の住民が彼らを捉えたらしい。


 その後は別の忙しさが有った。


 あの集団は密売組織が武力化したものだったらしく、しかも半端な警察機構よりも強かったために統治機構が乱れに乱れていた。


 そこに現れたのが俺たちのグループ。


 時の政権はその好機を逃すはずがなく、機構そのものに俺たちを組み込んだ。


 そうして軍として配備された俺たちは治安の維持を行って、時には武力制圧もしながら生きてきた。


 そんな中で体に衰えが来たと実感するのも無理はなかった。


 正確に覚えているわけではないが、40を超えて生きているのだ。


 鍛えていてもどこかにガタが来るのだと知った。


 それだけではない、どうも最近では俺や俺たちの事を英雄だという人間がいるとも聞いた。


 久々に昔の記憶が蘇る。


 自分を泡だと蔑んだ男。


 自分は何かを為せたのだろうか、問いかける。


 確かに自分は泡なのだろう、だが同じ泡でも金属すら破壊するようなあるいは太陽みたいに熱い泡にはなれただろうかと。




読んでいただきありがとうございます。

感想や評価いただけると大変励みになり嬉しいです。

気軽にお願いします。



今回の話の最後の部分、金属も破壊するような泡とは「キャビテーション」という現象をさしています。液体中で泡が発生し消滅する際にその圧力でスクリューなどを破壊したりします。

また超高温の泡は「ソノルミネセンス」という現象をイメージしています。こちらはキャビテーションでも超音波で発生した泡の場合で、高いエネルギーを持つようになり高温と発光現象を起こします。

このような物理現象があると知って単なる泡も強いものだと思い書いた次第です。

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